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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第1章 還りし者の再出発

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第002話 街を歩く記憶

王都ティリアスの中央大通りは、朝から賑わっていた。

ユイは人混みの中を、ゆっくりと歩く。前世では目的地へ急ぐことしか考えていなかった。だが今は違う。すべてが情報だ。


露店が並ぶ一角を通り過ぎる。野菜、果物、布地、武器、魔法の触媒。ありとあらゆる品が並んでいた。


「新鮮な魚だよ! 今朝獲れたばかり!」

「魔法の杖、お買い得! 初心者にもおすすめだ!」


商人たちの声が重なり合う。ユイは足を止めず、だが視線はすべてに向けられていた。


あの武器商人は、来月には店を畳む。あの布地屋の娘は、半年後に優秀な仕立て職人として独立する。あの魔法触媒を売る老人は、実は元宮廷魔術師だ。


知っている。前世で何度も通った道だ。


だが、何かが違う。


ユイは立ち止まり、周囲を見回した。露店の配置が、微妙に記憶と異なる。あの果物屋は、もっと奥にあったはずだ。あの武器屋は、確か別の場所に。


些細な違いだ。だが、見過ごせない。


世界は、完全に同じではないのかもしれない。


ユイは再び歩き出す。広場に差し掛かると、大きな掲示板が目に入った。冒険者ギルドの依頼が張り出されている場所だ。


板の前には、数人の冒険者が集まっていた。


「また魔物か。最近多いな」

「街道警備なんて、報酬が安すぎる」

「北の森は避けた方がいい。変な噂を聞いた」


若い男たちの会話が聞こえてくる。ユイは少し離れた位置から、掲示板を眺めた。


依頼の内容は前世とほぼ同じだった。街道の魔物退治、荷物の護衛、迷子の捜索。初心者向けの簡単な依頼ばかりだ。


だが、一つだけ気になる張り紙があった。


「北の森で奇妙な魔物の目撃情報あり。調査依頼」


ユイは眉をひそめる。前世では、こんな依頼はなかった。北の森に異変が起きたのは、もっと後のはずだ。


記憶と現実が、また一つずれている。


「やめとけって。北の森は危ない」

横にいた男が、仲間に言った。

「何があるんだ?」

「知らねえよ。ただ、行った奴が何人か帰ってこなかった。ギルドも詳細を明かさないし」

「怪しいな」


男たちは別の依頼の話に移る。ユイはその場を離れた。


北の森。前世では、数ヶ月後に初めて異変が報告された場所だ。だが、今はもう動き始めている。


何かが、変わり始めている。


ユイは通りを歩きながら、考えを巡らせた。自分が過去に戻ったことで、世界の流れが変わった可能性がある。それとも、前世で見落としていた情報があるのか。


どちらにせよ、慎重に動く必要がある。


大通りを抜け、少し狭い路地に入る。ここには小さな酒場が並んでいた。冒険者たちが情報交換をする場所だ。


一軒の酒場の前を通り過ぎようとした時、中から声が聞こえてきた。


「ランスのやつ、また大口叩いてたぞ」

「あいつはいつもそうだ。でも、実力はあるからな」

「今度の討伐、成功するかね」

「さあな。ランスが率いるなら、まあ大丈夫だろ」


ユイの足が止まる。


ランス。ランス・クロス。

前世で最初に組んだパーティのリーダーだ。


カリスマ性があり、戦闘能力も高い。多くの冒険者から慕われていた。だが、1年後、彼は裏切り者として処刑された。


違法な魔物素材の取引に手を染めていたことが発覚したのだ。


ユイは酒場の入り口を見つめる。中に入れば、おそらく彼がいる。前世では、ここで声をかけられてパーティに加わった。


だが、今回は違う道を選ぶ。


ユイは踵を返し、その場を離れた。ランスとは関わらない。彼の運命を変えることはできるかもしれないが、今は優先順位が違う。


もっと信頼できる仲間を見つける。前世で出会えなかった人物たちと、今度は最初から繋がる。


路地を抜け、再び大通りに戻る。人の流れに身を任せながら、ユイは街の様子を観察し続けた。


商人の会話、冒険者の噂話、通りすがりの市民の何気ない一言。すべてが情報だ。


「最近、夜に変な音がするんだよ」

「魔物が増えてるって話だ」

「王城の騎士団が動いてるらしい」


断片的な情報が耳に入ってくる。ユイはそれらを頭の中で整理した。


前世との違いを見極める必要がある。変わったこと、変わらないこと。その境界線を理解しなければ、正しい選択はできない。


昼が近づき、街はさらに賑やかになっていく。ユイは市場を抜け、少し落ち着いた通りへと向かった。


そこには、古びた書店がある。前世では一度も入らなかった店だ。


だが、今は違う。情報を得るには、本も重要な手段だ。


ユイは店の扉を開けた。鐘の音が鳴り、中から紙とインクの匂いが漂ってくる。


店内には本が山積みになっていた。古い歴史書、魔法の理論書、冒険譚、地図。雑然と並んでいる。


奥から、老人が顔を出した。


「いらっしゃい。何かお探しかね?」

「魔物に関する本を探しています」

「魔物か。棚の奥にある。好きに見ていきなさい」


老人はそう言って、また奥へ引っ込んだ。


ユイは棚の間を歩く。本の背表紙を眺めながら、必要な情報を探した。


「倒せぬ存在」に関する本があればいいのだが、ここにはなさそうだ。そういった情報は、公共図書館や学院にしかない。


それでも、基礎的な魔物の知識を確認しておくことは無駄ではない。


一冊の本を手に取る。「大陸魔物図鑑」。前世でも何度か読んだ本だ。


ページをめくりながら、記憶と照合していく。記述は前世と同じだった。少なくとも、魔物の基本情報は変わっていない。


本を棚に戻し、店を出る。


外はもう昼過ぎだった。太陽が高く昇り、街は熱気に包まれている。


ユイは大通りを歩きながら、次の目的地を考えた。


冒険者ギルドに行くのは、まだ早い。まずは図書館だ。そこで「倒せぬ存在」に関する文献を探す。


だが、その前に食事を取っておこう。


ユイは近くの食堂に入った。簡素な昼食を済ませ、再び街へ出る。


午後の王都ティリアスは、朝とは違う顔を見せていた。商人たちは休憩し、代わりに学生や役人が通りを行き交う。


ユイはその中を歩きながら、前世では気づかなかった細部を観察し続けた。


すべてが、これから起こることの前兆だ。

そして、今度こそ正しく導く。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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