第174話 調査の続行
振動は収まった。
外に出て確認したが、目に見える異常はなかった。ユイだけが見た光のことは、誰にも言わなかった。
全員が廃墟の入口付近に戻り、野営の準備を始める。
「何だったんだ、今の」
レオンが腕を組んで呟いた。
「分からない。だが、封印と関係がある可能性が高い」
ユイは静かに答えた。
「封印陣が緩んでいる。その影響かもしれない」
「影響?」
「封じられているものが、動き始めている」
その言葉に、レオンの目が鋭くなった。
「動き始めている、だと?」
「推測だ。だが、可能性はある」
ザークスが一歩前に出た。
「我々は戦闘に特化しています。調査は得意ではありません」
彼はリリアを見た。
「封印陣の分析は、そちらに任せた方がいいかもしれません」
「……そうですわね」
リリアが頷いた。
「私が分析を続けます。もう少し詳しく調べれば、何が封じられているか分かるかもしれませんわ」
ブレイズウォールとクロウフォール。一時的に情報を共有する流れになった。
レオンは不満そうだったが、ザークスの進言を受け入れた。
「いいだろう。だが、時間はかけるな」
「分かっていますわ」
リリアは封印陣の構造について、これまでの分析結果を説明し始めた。
三重の封印構造。外側から順に、力を弱め、動きを止め、存在を閉じ込める。
だが、その三重すべてに歪みが生じている。
「一番奥の層に、何かが封じられている」
リリアが言った。
「相当な力を持つ存在ですわ。でなければ、これほど複雑な封印は必要ありません」
「相当な力、か」
グレンが低い声で呟いた。
「具体的には、どの程度だ」
「分かりません。ですが……」
リリアは言葉を切った。
ユイが、静かに口を開いた。
「カオスナイトだ」
全員の視線が、ユイに集まった。
「カオスナイト?」
レオンが眉をひそめた。
「知っているのか」
「……ああ」
ユイは短く答えた。
言うべきか、迷った。だが、ここで隠しても意味がない。
封印陣の下にいるのが何か。それを知っているのは、この場でユイだけだ。
「幻モンスターの一体だ」
「幻モンスター?」
フィンが声を上げた。
「あの、倒せないって言われてる……」
「倒せないわけじゃない。だが、極めて困難だ」
ユイは淡々と続けた。
「カオスナイトは、秩序を否定する騎士のような存在。闇を操り、分身を生み出し、魔力を吸収する」
「待て」
レオンが遮った。
「なぜそんなことを知っている」
「……」
ユイは答えなかった。
レオンの目が鋭くなる。
「お前、何者だ」
「答える必要はない」
「ある。お前は明らかに何かを隠している」
「隠しているかどうかは、私が決める」
二人の視線がぶつかった。
張り詰めた空気。周囲の仲間たちは、息を呑んで見守っている。
「レオン様」
ザークスが間に入った。
「今は情報が必要です。追及は後でも」
レオンは舌打ちした。
「……分かった」
彼は視線を外し、ユイに問いかけた。
「カオスナイトとやらは、どうすれば倒せる」
「光魔法で闘の領域を弱め、本体を見極めて短期決戦で倒す」
「本体を見極める?」
「分身を生み出す。最大5体。だが、本体は分身より動きが速い」
ユイは淡々と説明した。
「魔力を吸収されると再生される。だから、短期決戦が必要だ」
レオンは黙って聞いていた。
「……詳しいな」
「必要な情報だからだ」
「どこで手に入れた」
「答えられない」
レオンの目が、再び鋭くなった。
だが、彼は追及しなかった。
「いいだろう。今は、その情報を使う」
彼は仲間たちを見回した。
「封印が解けたら、カオスナイトが出てくる。そういうことだな」
「その可能性が高い」
「なら、準備が必要だ」
レオンは腕を組んだ。
「光魔法の使い手は」
「私がいますわ」
リリアが手を挙げた。
「完全に打ち消すことはできませんが、一時的に弱めることは可能です」
「十分だ」
レオンは頷いた。
「短期決戦で本体を倒す。それが作戦だな」
ユイは黙って頷いた。
だが、心の中では別のことを考えていた。
前世で戦ったカオスナイト。あの時とは、状況が違う。
封印されていた分、力を蓄えている可能性がある。
前世より強いかもしれない。
その不安を、ユイは口にしなかった。
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