第92話 作戦会議~グレンパーティ
しんと静まりかえる鬼人パーティの面々。
元々の仲間であろう女重戦士アイラを含め、その全員の視線が黒魔法使いフルカスに集まっている。期待と疑念の入り交じった……そんな視線だ。
みな、分かっていたのだ。
岩喰いの放つ嵐のような岩弾……あの攻撃を安全に回避できない限り、ボス攻略などできっこないことに。だが、頭で理解出来ることと実際に行動として移せるかは別問題である。
ここまででの攻略法として分かっていることは『全力で円を描くように走り続ける』ことが出来ているうちは、岩弾に当たらないという事実だけだ。回避のための走りを緩めたり、アイテムを使用するために立ち止まったりした瞬間に岩弾を放たれたら、今のところその直撃を躱せる算段がついていない。それでも、投げるモーションがハッキリと確認出来る通常弾はまだ良い。
決定的にグレン達パーティを崩壊させたのは、戦闘後半の敵の攻撃である。つまりほぼノーモーションで連射される散弾銃のような岩石群だ。アレをどうにかしない限り、今の鬼人パーティにはどうやっても勝ち目がなさそうに見える。
「……フルカスには、なにか良い案があるってぇのか?俺はともかくこの馬鹿が、岩弾を回避し続けるなんて出来やしねぇぞ?」
「まだ言うか!」
「いいから黙ってなって!いちいち挑発に反応してたらキリがないよ」
鬼人の挑発的な発言に三度反応したザイードだが、今度はアイラに止められる。非常に不満そうなザイードだが、残念ながら今はそれにかまけていると大事な話が出来ない。ザイードもそれが分かっているようで、それ以上は噛みつくことなくフルカスと鬼人に視線を送った。
するとフルカスは鬼人と目を合わせたままゆっくりと話し出した。
「案……って言っても、ボクが実行するわけではないので採用するかどうかは皆さん次第です。それだけは先に言っておきますね。無理だと思えばやめて別の手段を……」
「いいからさっさと言えって。もったいぶるんじゃねぇ」
待ちきれないといった様子で、鬼人がフルカスをつつく。
フルカスの提案に文句があった場合に真っ先に反発しそうなのが鬼人であるため、フルカスは鬼人のために前置きをしていたのだが……。そんなフルカスの考えを汲むことなく、先を急ぐ鬼人。
すると、アイラがフルカスの方を向いた。
「いいよ、遠慮なく言ってやれよ。あんたには、アタシがついてる」
フルカスもアイラの言葉を受けて深く頷いた。
「わかった、じゃあ言うよ?……まず岩喰いの岩弾だけど、一見むちゃくちゃに投げているようだけどちゃんと法則がある。岩喰いが狙ってるのは、あくまでボク達の頭部だ。だから、岩弾が投げられた瞬間に……例えばしゃがむなどして頭部の位置をずらしてやることで躱す事が出来るんだ」
「なんだって?じゃあ何か?!最初からしゃがんでればあたらねぇっつってんのか?」
「……馬鹿か?グレン。ちゃんと話聞けよ。フルカスはそんなこと言ってねぇだろ」
フルカスの説明に曲解を示した鬼人に対して、ここぞと反撃を仕掛けたザイード。
鬼人の目が怒りで鋭くザイードに突き刺さる。
「ねえ……いちいちけんか腰に話すのやめようよ。ザイードさんもグレンさんも。グレンさんだってちょっとフルカスさんの説明を勘違いしただけでしょ。そんなことで喧嘩していたら、いつ再戦にいけるのか分からないよ。御願いだよ」
しばらく黙って聞いていた軽戦士のモスラが割り込んだ。ちなみにもう一人黙り込んでいた白魔法使いのケーラはブルブルと震えたままだ。
「……モスラがそう言うなら、大人しく聞いてやる」
「ふぅ……わかった。しかたねえ」
「ありがとう!」
モスラがホッとした様子でにっこりと笑顔を見せる。大人しいモスラの言葉に、鬼人もザイードも抜いた矛を収めたのだ。
その様子に一番驚いていたのは、アイラだった。
「ふ~ん?二人ともモスラの言葉は聞くんだ。意外だねぇ?」
そんなアイラの言葉は聞かなかったかのように、ザイードはフルカスに対して口を開いた。
「……で、つまり通常の岩弾に関しては前回のように走り回る必要はなく、最小限で躱せるだろ?ってことだな。全員が出来るかは分からんが、探索者の俺なら出来るだろう。まあそこまではいい。そして……散弾はどうするんだ?今のところいつ飛んでくるか分からないんだぞ?ソレも見抜いたのか?」
ザイードは努めて丁寧に、疑問点をフルカスに伝えた。
「はい。それをこれから説明します。そもそもあの岩散弾が何なのか?という話です。これまでのように走り回っていては突然降ってくる凶悪な攻撃に見えると思います。ですが……」
フルカスは一度言葉を切った。そして話を聞いているみんなを一通り見回した。
「あのやっかいな岩散弾は、岩喰いの食べかすです。図体がデカいので、皆さんわざわざ岩喰いの口元なんて見てなかったと思いますが、岩喰いが噛み砕いた岩の破片が、散弾のように降り注いでるんです。手足の動きが大きく目立つので、口元の動きなど気に掛けることが出来ない……それこそがノーモーションの正体でした」
「……そういうことかよ。でもな、正直上なんて見てらんねえぞ?お前のように、盾の後ろでじっくり奴を観察出来るわけじゃねえしな」
鬼人が、フルカスをギロリと睨む。
「はい、その通りです。それが一番の課題なんですよ」
鬼人の眼光に怯むこと無く、事実ベースで淡々と鬼人に言葉を返すフルカス。フルカスは『そこが課題だ』と言いつつ、それ以上の解決策を出すこと無く鬼人から視線を外さない。
「つまり……難しかろうがなんだろうが、それをやらなきゃ勝機が見出せないってことなんだろ?フルカスが言いたいのは」
ここに割り込んだのがザイードだ。
フルカスがこれ以上の解決策を出さないのは、少なくとも現時点でそれ以上の解決策がないということ。そもそもこの話を開始する前に『ボクが実行するわけではない』と、フルカスが前置きした一番の理由がコレだとザイードは理解した。
フルカスとしては『ノーモーション』であると思われた攻撃の起点を見出すところまでは出来た。だが実際に実行し、攻撃の起点を把握しなくてはならないのは攻撃役の自分ではなく、撹乱役である前衛……つまり、鬼人であり、ザイードであり、モスラであるということだからである。
「その通りです。ザイードさん。もちろん、もっと研究すれば他に攻略法があるかもしれません。ですので、あくまでも『今、理解っている範囲』の話です」
「あぁ、そうだろうな。だが、俺達はそれをゆっくり待っている気もない。……やるしかねぇってこった」
ザイードは脚をザッと前に投げ出した。彼は彼なりに覚悟が定まったのだろう。
「わかった。自分もやってみるよ。すぐに出来る自信がないから、出来れば練習しながら……は必要だよね?トライアンドエラーで。そのくらい良いよね?グレンさん」
「あぁ。仕方ねぇ。俺はすぐに出来るだろうが、モスラが出来るようになるまでくらいなら待ってやる」
「ありがとう!」
モスラが鬼人を取りなす形で話が落ち着きそうである。
鬼人とザイードの言い争いの間、ジッと何も言えずに黙っていたケーラも、モスラが中心に話が進む分にはホッとした表情をしているように見える。
「……へぇ。ま、とりあえず意見は纏まったってことだね?良かった良かった。じゃあ早速行くかい?」
みんなの様子が落ち着いたのを見計らって、アイラが声を掛ける。なんだかんだで言ってはいても、アイラはアイラで再戦したくて仕方ないようだ。
「「「明るくなってからなっ!」」」
先ほどまでの殺伐とした雰囲気は既に影を潜め、楽しい酒盛りへと変わっていた。
フルカスはホッとした様子でそんなみんなの様子を眺めていたのだった。
結局、体調不良はインフルエンザでした。
お陰で年末年始は何も手に着かず、予定していたスケジュールも全てキャンセルし、治療に専念する年末年始となってしまいました。
皆様も、体調管理には本当にお気をつけ下さい。




