第91話 アイラとフルカス
ランスロットの話に寄れば、ルーテリアの冒険者の中では《ノスド採石場》の岩弾はそれなりに有名な話らしい。
岩弾そのものは岩喰いが投げた流れ弾であることは間違いないのだが、飛んでくるタイミングや時間にはある程度の法則があるとのことだ。
「この辺まで飛んでくることはほとんどないです。最後にファクトさんが躱した岩弾が珍しいくらいでして」
とは、ランスロットの談。
要するに、岩喰いの流れ弾については、《ノスド採石場》の中でも『よく飛んでくるところ』と『まず飛んでこないところ』にエリア分けされるらしい。当然、ボスのいるエリアに近い方が飛んでくる確率が高い。ランスロットの話ではオレ達が鉱石採集をしていた場所は《内地エリア》に含まれてしまうため、ボス戦を想定していないパーティが足を踏み入れることはまずないとのこと。
どおりで鬼人以外の冒険者に遭わなかったわけだ。
数は少ないにせよ聖銀鉱を採取出来たのは、普段手つかずのエリアだったからかもしれない。
ちなみにランスロットの話によると、岩弾の飛んでこない《外地エリア》には、ランスロットも含め他にも冒険者が何組かいるようだ。でも岩喰いの岩弾が飛び始めたので、安全を取って採石坑に隠れていたとのこと。他の冒険者に関しても近くの採石坑に身を隠しているらしい。
「こんな夕方に岩弾が飛んでくるのは珍しいんですよ。多分どこかのパーティがボス戦をしているんでしょうね」
「ダンジョンレベル以上の強さって聞くしぃ、正直私たちじゃ手が出ないしぃ」
「少なくとも、ボスと戦えるのはもっと上のレベルの人たちでしょうね」
口々に情報をくれるランスロットパーティの面々。
ボス戦をしているのは、まず間違いなく鬼人達だ。岩弾が飛び始めて結構な時間が過ぎている。その間ずっと戦闘が継続出来ているということと、ランスロット達の情報を合わせて考えるなら、彼らも結構強くなっているということだ。
「負けてられんな……」
「え?何ですか?」
ボソッと呟いたオレの言葉にランスロットが反応する。
「あ、いや何でもない。ところでランスロット達はどのくらい強くなったんだ?」
「ボク達ですか?」
「むっちゃ強くなったよ!ファクトっちより強くなってるかも!……痛っ!ティアナちゃんなにすんのさ」
ドヤ顔で調子づいたドワーフのミアが、小人属のティアナにツッコミをくらっていた。パーティの仲の良さは相変わらずのようである。
別にオレとしては、本当に抜かされていたとしても痛くない。調合士だし。
キャアキャアと騒いでいるミアとティアナを尻目に、ランスロットがオレの方を向いた。
「実際、今のボク達のレベルは10を少し超えたところです。ですので、初めて出会った頃のファクトさんくらいだと思いますよ」
「そうか。結構良いペースでLVが上がってるみたいだな。良い狩り場スポットでもあるのか」
「この辺で地道に戦ってるだけですよ。ゴブリンの上位種がほとんどですが、ボク達には丁度いい手応えなので」
「なるほど」
確かに、ここのゴブリンは強い。
直接戦ったのは射手と魔法のゴブリン達だが、黒衣の奴などさらに上位に当たるだろう。たまたま岩弾のお陰で勝てたが、正直なところエルナ抜きで再び戦いたい相手じゃない。攻撃にしろ守備にしろ、魔法関連の戦闘に弱いのはオレ達パーティの明確な弱点だ。ここは克服しておかないと、のちのち困るに違いない。
……調合士としては、魔導具精製による補強の可能性があるのは間違いないが、今すぐはどちらにしても難しい。
「ねえ!岩弾の飛来が治まってるみたいだよ」
オレとランスロットが話し込んでいると、ミアが割り込んできた。
猫もすっかり回復してティアナ達と会話していたようだし、撤退時期だろう。
「じゃあ……暗くなるんで、そろそろオレ達はルーテリアに戻ろうと思うが、ランスロット達はどうする?」
「ボク達も帰りますよ。ここ真っ暗になると何も出来なくなるので、さっさと帰りましょう」
オレ達は、ランスロットパーティと共に《ノスド採石場》を後にし、ルーテリアの街へと帰還した。
……
「だぁぁ!あと少しだったってのに!」
ルーテリアの地下酒場で、一人の鬼人が赤い顔をさらに真っ赤にしながら周囲の仲間達?に絡んでいた。
鬼人たちの様子から鑑みるに、酒場……とは名ばかりでただの情報交換場所かと思いきや、ちゃんと酒を飲むことが出来るらしい。
「グレンの兄貴、アレは仕方ないですって。まさかあんな……」
カラミ酒の鬼人を宥めようと、仲間と思われる軽装の戦士が声をかけたが、鬼人の鋭い視線に睨まれて最後まで言葉を紡ぐことが出来なかった。
「だいたい、お前があそこで引くから奴が攻勢に出たんだろうが!あのまま突っ込んでりゃ俺の一撃が奴を倒していたってのに」
「グレンさん、そりゃねえぜ。奴に物理攻撃なんてほとんど通っちゃいなかっただろうに。あそこでモスラが引いたのは正解だ。むしろ無茶したのはアンタだろう。そもそもフルカスの攻撃魔法しか攻撃が通ってなかったろ?それをどう解釈したら『あと一息』だなんて言えるんだ」
探索者と思われる装備を身に纏ったドワーフの男が、鬼人に食ってかかった。ちなみにモスラというのが先ほどの軽装の戦士の名前である。伝説の怪獣の名前だが、本人は怪獣とはほど遠い優しい顔つきをしている。
「ザイード、うるせえよ。お前こそボス戦でなんの役にも立ってなかったろ?」
「んだと?」
ガタッと椅子を鳴らして立ち上がった、鬼人とザイードと呼ばれたドワーフの二人が睨み合いを始めてしまった。
「まぁまぁ、二人とも待ってくれ。ここで喧嘩しても仕方ないよ。負けたものは負けたで仕方ない。ちゃんと対策を練ろうよ」
「そうさ、フルカスの言う通りだ。アンタ達終わったことで騒いでる暇があったら、次回の作戦の一つでも立ててみなよ」
ここで割り込んだのは黒魔法使いでエルフのフルカスと、女戦士のアイラだ。
二人は、今回鬼人の募集で参加した助っ人パーティメンバである。
「……ちっ。そうだな。確かにおめえらの言う通りだ」
珍しく鬼人が引く。
普段から勢い重視の鬼人ではあるが、この二人の活躍は鬼人としても認めざるを得ない。
岩喰いの投げ散らかす岩弾を安全に回避出来たのは、重装戦士であるアイラの巧みな盾術のお陰である。彼女がいなかったらそもそも岩喰いに近づくことすら出来なかっただろうことは明白である。
そして黒魔法使いのフルカス。
彼の魔法攻撃は岩喰いの防御を易々と貫き、確実にダメージを積み重ねていた。
元々のパーティメンバーである戦士の鬼人やモスラ、そして探索者のザイードの三人に出来たことはせいぜい岩喰いを撹乱することで攻撃を散らし、アイラの負荷を減らすことだけであったのだから。
「ご、ごめんなさい。私がちゃんとしてれば……」
「いや、ケーラちゃんは関係ねえよ。ザイードの馬鹿が岩弾を躱せずに瀕死になるからいけねえんだ」
「んだと!まだ言うか!」
おずおずと発現したのは女白魔法使いのケーラだ。
モスラと共にアカシアの街から鬼人のパーティメンバーとして行動を共にしている。
今回の全滅の決定的な引き金を引いたのは、このケーラが岩弾の直撃を受けて死亡してしまったことだ。彼女が戦闘から離脱してしまったために、回復が間に合わなくなってしまったのだ。
「そもそもケーラちゃんが岩弾を受けちまったのは、瀕死になったザイードの馬鹿を回復させるためにアイラの盾から出たからだ。そこを岩喰いに狙われたんだよ。だから、あそこはザイードを見捨てるしか手段がなかった。でもケーラちゃんは優しいからな。役に立っていないザイードでも見捨てられなかったってだけだ」
鬼人がザイードを睨みつける。まるでお前のせいで崩れたんだと言わんばかりに。
その視線に対して、何か言い返そうとしたザイードを制したアイラが反論する。
「そういう言い方は良くないよ?グレン。パーティ組んで戦ってる以上、勝っても負けても全員の責任だ。ザイードやケーラが悪いわけじゃない。負けたのは崩壊を立て直せなかったアタシ達全員の責任だよ。だから、次どうするのか?を話し合おうって言ってんじゃない」
「ぐ……」
アイラの言葉に言い返せない鬼人。
「結局、選択肢は二つのどちらかしかないと思うよ。攻撃の強化かもしくは回避作戦の強化。純粋に攻撃を強化するなら魔法攻撃の数を増やすしかない。でもこのパーティではもう増やせないでしょ?だったら、どう安全に岩弾を回避し続けるか?特に大事なのは終盤のアレをどう回避するかだよ。そこを話し合わない?」
フルカスは優しげにパーティ全員へ視線を送った。
今朝、やや体調が戻ったので書きかけていた分を書き切りました。
次回の投稿は年明け2020/1/5を予定してます。
少し時間が空きますので、この先のプロット整理などもしておこうと思います。
どうぞよろしくお願い致します。皆様、よいお年をお迎え下さい。




