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イルグラード(VR)  作者: だる8
第三章 上位職を求めて
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第85話 闇夜の戦い

 その時、ヒュッと風を切る音とともにオレの目の前を何かが通過していった。


「ガドル!やっぱりランタンは待て(・・)っ!盾を右側に向けて構えるんだっ!」

「?!了解だっ!」


 オレの指示を受けた(ガドル)は、ランタンに伸ばしかけた手を引っ込めて、素早く大盾(スクトゥム)を取り出して構えた。その直後にカッ!ココッ!とオレ達を狙って放たれたと思われる遠隔武器が(ガドル)の盾で弾かれた音がする。


 間一髪だ。やはり遠隔だったか!


 こちらから敵の状態を確認することは出来ないが、敵は夜目が効くのか狙いはそこそこ正確だ。先にランタンを付けて明るくしていたら完全に狙い撃ちされているところだった。危ない。


 オレは出来るだけ身を屈めて(ガドル)の盾の陰に入る。

 断続的に敵の遠隔攻撃が大盾(スクトゥム)に当たる音が続いている。どうやら敵の遠隔攻撃には、《鉄壁》のスキルを誇る(ガドル)の防御を突破出来るほどの威力はなさそうだ。まずは一安心するオレ。


 ここで改めて戦況を分析してみる。(ガドル)のおかげで今のところ敵の攻撃を食らう気配はないが、敵の攻撃は止む気配がない。狙いもそこそこ正確であるようなので、迂闊な攻撃は的になるだけだ。ということで、オレ達は盾の後ろから身を乗り出すことが出来ないでいる。

 ただし、幸い敵には距離を詰めてくる様子がない。いまのところ射撃手(アーチャー)だけではないかと思われる。


(この戦況を打開するには……ちょっと敵を脅かしてやる必要があるよな。魔法が使えると一番いい局面だが……あ、そうだ)


「ガドル。さっきのランタンをオレにくれ。購入費用は払う」

「そんなん要らないだよ。でもそれ(ランタン)をどうするだ?」


 オレは(ガドル)からランタンを受け取った。このVRの世界でランタンの『油』による火炎がどれだけ功を奏するか分からないが……試してみる価値はある。


「ガドル、目をやられないように出来るだけこっちを見るなよ。こうするんだ!」


 オレも両目をやられないよう、利き目である右目を閉じた。これで眼がイカれたとしても右目は無事に済むはずだ。

 その状態でランタンの出力を最大にセットして点火。煌々と燃え上がったランタンを遠隔攻撃を放ってくる方角へ思い切り投げた。ランタンは大きく放物線を描いて宙を舞い、何か(・・)にぶつかって燃え上がった。

 

『ギャアァァァァ!』


 叫び声に似た悲鳴が上がる。オレはその声に聞き覚えがあった。


「ゴブリンの射撃手(アーチャー)だったか」


 オレは目を利き目に切り替えてクロスボウを構える。

 ゴブリンの群れの中央で激しく燃え上がるオレが投げた元ランタンの炎。闇に慣れたままの右目は、燃え上がったランタンの炎で照らし出されたゴブリン達を正確に捉えた。


「見えたらこっちのもんだ!」


 気づけば敵からの狙撃も止まっている。投げたランタンの炎でゴブリン達の視界を一時的に麻痺させることにも成功していたようだ。

 オレは(ガドル)の背後から半身分乗り出した状態で、クロスボウから弾矢(ボルト)を放っていく。悲鳴を上げながら弾矢(ボルト)急所に食らったゴブリン達が倒れていく。


 だが……


「強い!これは普通のゴブリンじゃない!」


 ゴブリンの群れは崩れない。


 確かにオレがクロスボウで放った弾矢(ボルト)は確実にゴブリン射撃手(アーチャー)達を射貫いていく。しかし、倒れるのは本当に弾矢(ボルト)が眉間に突き立ったゴブリンだけで、ほとんどのゴブリン達は腕を犠牲にしてガードしたり、中には短剣に持ち替えて弾矢(ボルト)を叩き落としている個体までいる。


 眼が眩んでいるはずなのに……オレは躍起になって打ち続ける。何度か撃つことで倒した個体も出始めるが、いかんせん手数が足りない。

 ついにゴブリン射撃手(アーチャー)達は、弓を捨てて短剣を取り出すと、群れ全体でオレ達の方へ突撃してきた。その数……約20体ほど。闇夜の中逃げるわけにはいかない。オレ達はここをなんとしても乗り切らなくてはならないのだ。


「ガドル!」

「あぁ!オラもやるだよ!」


 単純に攻撃力(・・・)という意味では心許ない(ガドル)ではあるが、短剣で戦う時のオレと比較するなら大差ない。技術がある分だけゴブリン射撃手(アーチャー)達は強敵なのは間違いないが、弾矢(ボルト)の一撃で倒れている個体もいるのだから、耐久値は少なめである……と信じたい。


 オレも久しぶりに腰の短剣を抜いた。

 即死効果のあるオレのハンティングダガーがどこまで通用するか……それに掛かっているとも言える。一応《短刀術》を持っているオレだが、弾矢(ボルト)を叩き落とす程の敵に通用するかどうか……。


 短剣を使うことにいまいち自信を持てないオレは、ギリギリまでクロスボウで敵を狙撃する。狙うは眉間。ここに命中すればゴブリン射撃手(アーチャー)と言えど一撃で屠れるのは実証済みだ。突撃してきたゴブリン射撃手(アーチャー)達の3分の1ほどの数をこの狙撃で倒して減らしたが、残りの十数匹は肉迫してきていた。


「どりゃあああ!」


 (ガドル)は普段聞かないような雄叫びを上げ、盾を構えたまま(・・・・・)ゴブリン射撃手(アーチャー)の群れに突撃した。この瞬間、(ガドル)の強固な防御力がそのまま攻撃力となる。

 弾き飛ばされたゴブリン数体がそのまま動かなくなる。直前で(ガドル)の突進を躱したゴブリン達もあまりの威力に足が止まっている。


「ナイスだっ!」


 オレはやはり短剣で戦うのをやめ、クロスボウで足が止まったゴブリン射撃手(アーチャー)を狙い撃ちしていく。その様子にハッとした数体のゴブリンが、オレに向かって突撃を再開したが時既に遅し。(ガドル)の力技なシールドバッシュがゴブリン達を跳ね飛ばしていく。あとはオレがトドメを刺していくだけだ。勝負あった。


 心底、(ガドル)が居て良かったと思った。

 (ガドル)も自身が活躍したからの勝利だと分かっているようでとても嬉しそうである。初めて会った時の自信のなさから比較すると、(ガドル)も随分成長したようだ。


「戦闘で活躍出来るのが嬉しいだ。ファクトさんに着いてきてよかっただよ」

「なに、助けられてるのはオレのほうだ。あの突進は良かった」


 わっはっはと大声で笑いながらオレと(ガドル)は肩を叩き合って喜んだ。

 オレ達自身、真っ暗でどこにいるかもハッキリ分かっていないなかでの戦闘だったが、とても充実した戦いだったと言える。


「しかし、あんな連中に狙われるんじゃ、こんな暗いなかウロウロする訳にもいかんよな。せめてここがどこなのか?だけでも分かるといいんだが……」

「そのことなんだどもな……」


 (ガドル)は盾をアイテムボックスにしまい込むとその場に座り込んだ。


「オラが思うに、ここはもう採石場の中だと思うだ」

「……どういうことだ?」

「これを見て欲しいだよ」


 座り込んだままの(ガドル)が、地面から何かを取り上げて差し出してみせた。……これは石?なのか。

 そう思った瞬間にオレの《アイテム鑑定》が発動する。そのスキル情報によれば、(ガドル)が差し出した石は『鉄鉱石』だった。


「なぜ……?」


 オレの脳内に『?』がたくさん溢れた。

 いままでであれば、《アイテム鑑定》を自動モードとしている以上、視界に入ったアイテムは勝手に表示されていたはずだ……ん?『視界に入った』だと?


「あ!なるほど、そういうことか」


 オレは理解した。


 周囲が明るい時は視界に入った時点でそれがどんな物であるか認知出来ている訳だが、今のように暗闇のなかでは存在していた(・・・・・・)としても、視界に入ったわけではない……つまり認識出来ない状態であるものに対しては《アイテム鑑定》というスキルは発動しないらしい。


「オラもさっき気づいただ。オラには《アイテム鑑定》はないだが、目で見て認識したアイテムに関してはアイテム名が表示されて見えるだよ。たまたま大盾(スクトゥム)(ゴブリン)の矢を受けていた時、足元に石が沢山(たくさん)落ちているのに気づいただ。ここは既に(・・)、《採石場》もしくは入り口付近だと思うだ」


 (ガドル)の眼がキラリと光る。それを見て、オレも(ガドル)に倣って、地面に座り込んだ。


「つまり……こうすれば素材が見えるってことか。……それなら!」


 オレと(ガドル)は同時に頷いた。


「「採集だっ!」」


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