第84話 採石場へ
ルーテリアに帰りつく頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。イルグラードの一日が終わろうとしている。ログインしたときが朝だったのでこれでリアル一時間弱ほどだ。待ち合わせまでにはあと2日。今考えたいのはこの2日間を待ち合わせまでにどう過ごすか……である。
とりあえず、最初の1日はかなり有意義に過ごせた実感がある。
レベルも2つ上昇して13になった。オレのパーティ仲間の中では最も高いレベルである。エルナのレベルをも超えられたことで、一応リーダーとしての強さをやっと得られている気がするのもいい。……まともに戦ったらエルナには全く敵わないだろうけどな。
鬼霊戦でろくな活躍も出来ず、最初に脱落してしまったという事実は内心かなり凹んでいたのだ。一緒に行動している以上、せめて迷惑は掛けたくない。猫が言いそうな台詞だが、その気持ちはよく分かる。
もし仲間の誰かが置いてかれそうになったときは積極的にサポートして行きたいと改めて思った。そのためにもオレはある程度の強さを保っておきたいものだ。
また、調合に関しても少し先に進んだように実感出来た。
マンドラゴラの群生地を見つけたお陰でもあるが、まだまだ先になりそうだと思っていた魔力粉の調合に加え、たまたま手に入れたレシピで回復領域という魔力障壁と比べたら手軽な魔導具を調合出来るようになったのも良かった。お陰で魔導具というものがどんなものかも知ることが出来たのだから。
一つだけ、想定と違っていたことがある。
素材の『マンドラゴラ』のアイテムランクが思ったより低く、Eであったことだ。
―――――――――――――――――――――
名称 :マンドラゴラ
ランク:E
価格 :-
効能 :調合素材
―――――――――――――――――――――
回復薬小のランクと変わらないのだ。それでいてアロエのように価格表示がないので、採取でしか手に入れられないのだろうことも分かる。
同じ採取素材としてはアロエ(ランクF)より入手しづらいということでのランクEは理解出来るが、もう少し高くてもいいんじゃないだろうか?魔力粉がDな時点で仕方ないのかもしれないが。
いろいろ思うところはあるが、待ち合わせまでの1日目の過ごし方として大成功であったのは間違いない。
さて次はどうしようか?と考えていると、猫がログインしてきた。あれ?今日は仕事だったんじゃなかったっけ?と不思議に思いつつも、オレは挨拶をフレンド通信で送った。
「おはよう!ガドル、ログインしてて大丈夫か?今日仕事なんじゃなかったか?」
『……おはようだ!いやぁ、仕事なのは間違いないだが、朝の空いてる時間を少しでもログインしておきたくてだよ。1時間ほど遊ぶつもりでだな……』
ふむふむ。多分、現在のリアル時間は7時ちょっと前くらいだろう。イルグラードで1日遊んでログアウトしたとしてリアルに戻るのは1時間後の朝8時前。
9時から仕事が始まるとしても、職場までの時間が近いなら充分な時間ってことだ。それなら……
「ガドル。ひとつ提案があるんだが、乗らないか?」
『なにするだ?』
「そりゃオレとガドルがやることって言ったら、素材採集に決まってる。採石場に行こう!」
オレはルーテリアから行ける《ノスド採石場》へ、鉱石素材を入手しにいく計画を猫に話すと、猫はすぐに乗っかってきた。さすが鍛冶だ。
『絶対に行くだ!今すぐ行くだか?あとで行くだか?』
「そ、そうだな。それだけやる気出してくれるならすぐ行こうか」
『すぐ支度するだよ!』
慌てた様子で通信が切れた。
どれだけ行きたいんだ。どこで待ち合わせるかとか決めてないじゃない。
仕方ないので、オレは住宅エリアの入り口のところで猫が出てくるのを待ちながら、調合をしていることにした。敵のランクが高いところなので、戦闘の準備は入念にしておいた方がいい。本当は装備強化を行っておきたいところだが……それは猫がいないと、オレにはどうしようもない。
各種回復薬や治療薬のほか、ブーストLV2の補充も少し出来たところで、慌てた様子の猫が姿を現した。
「待たせただっ!」
「いや、そんなに焦る必要はないと思うが?」
「時は金なりだよ」
やる気満々の猫。
今日の彼の場合は、仕事の合間の時間を使ってログインしてきているので余計にそんな気分にもなるんだろう。
そんなこんなでオレたちが《ノスド採石場》に向かってルーテリアを出発したのは、イルグラード時間でおよそ夜中の0時過ぎのことだった。
ルーテリアの街を少し離れると、もうあたりは真っ暗で方向もよくわからない状態だったが、猫がランタンを用意してきていたので光を確保することが出来た。
「よくそんなもん持ってたな」
「昔、買っただよ。ソロでやってくにはこのくらいないと、と思ってモルトのよろず屋で買っただ。だども今まで使う機会が全くなかっただが……」
使う機会があってよかったと猫は、誇らしげだ。
光魔法を使う魔法使いか、探索者の視界が確保できるスキルがあれば、手が埋まるランタンは全く要らないアイテムになるので、本当に使いどころがあって良かったと思う。
ルーテリアから《ノスド採石場》までは、歩くとイルグラード時間で約15~20分ほどだ。結構近いほうなのではないかと思う。闇夜に紛れてゴブリンや狼が襲い掛かってきたが、《虫の知らせ》を持つオレ達の敵ではない。
アカシアの時のように銀狼が混ざっていたら、間違いなくオレ達だけでは危ない。
が、幸い雑魚の狼だけだったので、今回は結果として問題はなかった。しかし夜の行軍は注意が必要だということをすっかり忘れていた。
さて、そろそろ歩き始めて15分が経つ。
向かっている方向が間違ってさえなければ、そろそろ目的地に着いても良い頃だ。
「そろそろ目的地に到着するはずだ」
「なんも見えないだども?」
「あぁ、方角が間違ってさえなければな。ランタンが明るすぎるから一旦消そうか」
「わかっただ」
オレの指示で猫がランタンを消した。一瞬で周りが闇の世界に閉ざされる。
ただ、このイルグラードという世界には月が再現されているため、ゆっくり目を慣らせば暗いながらも少しずつ周りが見えてくる。とは言っても互角以上の敵と戦闘するには分が悪すぎるため、どうしても光魔法やランタンに頼らざるを得ない部分もある。
オレ達の目的である採集であれば、目が闇に慣れれば月明かりだけで充分可能だ。
問題は敵に襲われた時だが……明るくなるまでは《虫の知らせ》が発動するようなら、ランタンを再点火することにしてオレ達は周りを見回した。
「問題はちゃんと着いてるかどうか……なにせ初めてくるところだからな」
「なんか間違ってる気がするだ。もしここがちゃんと目的地なら、採取出来るアイテムが見えてもおかしくないだが……」
そう。オレ達が《ノスド採石場》に無事到着しているなら、その辺に低レベルのものにせよ鉱石素材が落ちていてもいいのだが、今のところそれらしき素材は見当たらない。
やはり明るくなってから来るべきだったか……と、若干後悔する。
とその時、オレの意識の中でピピピピ……と《虫の知らせ》がけたたましく鳴り響く。
「ガドル!狙われてるぞ!ランタンの準備だ!」
「わかっただ!」
オレは周囲を警戒しながらクロスボウに弾矢をセットした。




