第72話 イベント?クエスト?
『……どこにいると思う?じゃないですよ、全く。そんなこと私が答えられるわけないこと知ってて言ってますよね?』
「ん~ダメ?あたしのためにユーザー検索くらいの越権行為してくれても良いのに」
『るージュ様。申し訳ないですが、無理です。ご自分でお探し下さい』
猫撫で声で食い下がるるージュを冷たく突き放す支援AIメグ。
「仕方ないな。まあここも街なんだから、住宅街エリアかギルドか、もしくはプレイヤー募集で集まるところ……ここはそれがどこだかわからないけど、そのどこかにはいるよね」
『……』
「あ!その反応。この街には他にも居そうな場所があるのかな?ねぇ、それを教えてよ。それくらいならいいでしょ?」
はぁ。とため息をつくメグ。
つまんないカマにかかったと思うと同時に、そんなこと自分で地図をちゃんと見たり、街を歩いたりすればすぐ分かるだろうにと思ったためである。
『そういうことは、るージュ様がご自分で探した方がゲームとして楽しめると思うのですが?』
「あ~いいのいいの。あたしは冒険よりキャラ強くすることの方が好きだからさぁ」
『……わかりました。ここルーテリアにはるージュ様がおっしゃった施設以外に、様々な情報が共有されている『酒場』があります。あとは特定のクエストをクリアした時のみ入店出来る会員制のAI商店がありま……』
「そこだっ!」
メグの説明を遮ってまで、るージュは突然立ち上がった。
「今どこにいるかは知らないけど、絶対に会員制のAI商店へ向かうよね?メグたん、どうすればいい?」
『地下街に向かって下さい。それ以上は言えないです。ご自分でどうぞ』
「メグたんつれないなぁ……ま、でも!やることは決まった!地下にいくよっ?!」
『お気をつけて』
メグの仰々しいお辞儀に送られて、身綺麗になったるージュは再びルーテリアの街へと飛び出していった。
……
Side ファクト
エルナ、猫の二人と別行動を始めてすぐにオレは住宅エリアへとやってきた。そして中に入るなり『拠点移動』を行った。
自室のデザインがどんな感じになっているのかも少し興味がある。モルトの街は簡素で必要なものだけ用意されたシンプルなもの。そしてアカシアの街は湖面が一望できるリゾートホテル風だった。ならば、山間のこの街は一体どんなデザインなのだろうか……。
答えはすぐに分かる。
レンガ風の石壁に囲まれたレトロな部屋であった。単純な部屋の豪華さだけだったらアカシアの街の方が上だが、こういったノスタルジックな雰囲気も嫌いじゃない。
『ファクト様、こんにちは。こんどはルーテリアの街なのですね?』
「あぁ、いいとこだよな。なんかこういう部屋のデザインは懐かしい感じがして、落ち着く」
『えぇ。私もこの街の部屋のデザインは好きです。……ではこれをどうぞ』
支援AIであるアリスが差し出した水晶玉を受け取ったオレは、《マップ》で地図をインストールした。これでルーテリアの街の全容がしっかりと地図で確認出来るようになったはずだ。
「あれ?……ないぞ」
『どうかされました?』
アリスの心配そうな声を聞きながら、オレは目を皿のようにして存在する筈の施設を捜した……が、見当たらない。
第一階層の街にも、地下街である第二階層にもその施設は見当たらなかったのだ。見つからない施設とは……『穴蔵の店』である。ランスロットのお陰でその施設があることを知ってはいるものの、本来クエストの存在も知らない状態では表示すらされないということらしい。
思ったより厄介なクエストだったか?それぞれで各自クリアにせず、一緒にやった方が良かったか?
と、少しだけ後悔するがそもそもどんなクエストクリアが条件なのかすら分かってない。判明して、仲間が必要なクエストなら協力すればいいだけだ。サッとクリアして寝る……っっぽいことを言っていた猫のことだけが少し気になる。
「ま……とりあえず地下街に行ってみるしかないか」
『出発ですね?!気をつけていってらっしゃいませ!』
アリスの見送りを受けてオレは自室をあとにした。
地下街に行くにはまず中央広場に行く必要がある。
広場にはなにやら大きめのオブジェが存在していて、街のシンボルのようになっている。が、オレには何を模して作られたのかよく分からない。彫刻?歴史的な何かなのだろうか。いわゆるピカソなどに代表される前衛的美術。それの系統で作製されたような造形である。
美大などで専門に勉強している人なら分かるのかも知れないが、まあそれは今は問題ではない。
そのオブジェの裏に第二階層への階段が設置されている……ということが今のオレには大事な情報である。中央広場の正面から見ただけではわからない状態であるのだが、近づけばすぐに分かるくらい大きな階段がそこには存在している。別に入り口が隠されているといった感じではなく大勢の人が一斉に通ることも出来るくらい間口も広い。ダンジョンのような雰囲気でもなく、中は明るいようだ。
まずは入ってみないことには始まらない。
オレはその階段をゆっくりと下りていった。
「……随分人がいるんだな」
階段を下りきる前から、外の街より多くの冒険者が第二階層にいるのが見えてくる。
ルーテリアの街の中心街は間違いなく地下街だ。その理由はすぐにわかる……のだが、その前にオレは自分に近づいてくる一人のNPCに気づいた。あまりにもオレをターゲットして近づいてくるので、すぐに分かった。
過去、NPCに化けた盗賊に襲われたことのあるオレはそのNPCの動きを注意して観察する。が、盗賊とかそういった類いのものではなく、ただ純粋にプレイヤーであるオレに近づいてきているだけのようだ。
ちょうどオレが階段を下りきるのとほぼ同時にNPCのオジサンがオレの元にたどり着いた。
『おぉ!貴方は冒険者ですか?一つ助けて欲しいのですが』
このNPCオジサンの言動にオレはピンときた。
これは盗賊とかじゃなくて『イベント』だと。もしかしたら『穴蔵の店』に行くためのクエストに発展するかも知れない。
「どうしました?」
応答を含め、つとめて自然に振る舞ったオレ。こういう世界観のあるイベントは全力で楽しまないともったいない。
『えぇ、実は私は街を渡り歩く行商なのですが、この街にある『穴蔵』という名の店の主人へ納品する荷物を運んできたのですが、いくら捜してもどうにも見当たらないのです。申し訳ないですが、冒険者の貴方はこの店の場所をご存知でしょうか?』
「なるほど、そうでしたか。私はこの街に着いたばかりで良く知らないのですが、差し支えなければ一緒に捜しましょうか?」
オレはNPCオジサンに逆提案してみる。さて……どうでるか。
『宜しいのですか?では、私は引き続きこの地下街を捜してみますので……街の上を捜してみてもらえますでしょうか?』
ほぅ。店が存在しない方のエリアの探索を要求してきたか。ランスロットから情報を得ていなければ『地下街側にある』ことなど知らないのだから、ここは素直に上層の街を捜すことにするのが正解だろう。
「分かりました。一つ聞きたいのですが店が見つかったり、もしくはどうしても見つからなかった時にどうすれば貴方と連絡がとれるのでしょうか?」
『そうですね……では、一時間後に改めてこの場所で落ち合いましょう』
「了解です。それでは後ほど……」
NPCオジサンはプレイヤー達の多くいる雑踏の中へ、姿をくらましてしまった。
まずはクエストに繋がるイベントが発生……している筈だ。上に戻るか。
このまま賑やかな地下街を散策してみたい気持ちを必死で抑え、今下りてきたばかりの階段をそのまま上り始めた。
全ては『穴蔵の店』のためだ。




