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イルグラード(VR)  作者: だる8
第一章 物語の始まり
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第7話 クリエラ

『も~。君は思ったよりアグレッシブなプレイヤーだったんだねっ!ギルドマスターを脅すだなんて、人でなしもいいとこだよ』


 酷い言葉でオレを避難しながらも表情はニコニコ笑顔だ。怒ったり怯えたりする表情にはならないのだろうか?

 こういうところは人間とは違うのだなぁと強く感じる。きっと性格がMに設定されていて……とか考えるのは早計だろう。オレは情報知りたさにAIに迫ってしまったことを反省した。


「必死だったんでな……すまなかった。改めてちゃんと教えて欲しい」

『おぉ~っ!ちゃんと謝ることの出来る人、ボクは好きだよっ!』


 クリエラの表情に全力の笑顔が戻る。もともと笑顔ではあるが、最初のまぶしすぎるあの笑顔だ。

 表情も台詞(セリフ)も直球過ぎて、正直なところオレには攻撃力が高すぎるわけだが。


 ここで、オレとクリエラは場所をギルド内部の職業専用スペースに移動した。いくら人気(ひとけ)の無い不人気ギルドでも、ここから先はオープンエリアですべき話じゃないはずだ。中央に置かれた大きめの丸テーブルを挟む形でオレとクリエラは腰かける。


『で、レンジャーだっけ。ごめんねっ!ボクが口を滑らせただけで、本当はギルドに関係ない情報を話しちゃいけなかったんだ。でもっ!『調合士』の上位職についてはちゃんと話せる内容があるよっ!この情報は、さっきとは逆でファクトのような『調合士』にしか話せない内容さっ!』


 クリエラがサムズアップをしてみせる。白い歯がキラリと光る。

 レンジャー情報がこれ以上聞けないのは残念だが『調合士』にしか開示出来ない情報というのも魅力だ。


「おぉ、そういうヤツだ。そういう情報がいい。先生、ご教示下さい」


 素直に生徒モードとなるオレ。まずは得られる情報を全力で得ることにする。


『うんうんっ!じゃあまずは上位職についてだよっ!』


 クリエラは上機嫌に話し始めた。


 まず『調合士』に限らず、全ての初期職には上位職にあたる職業が存在するということ。昇格出来る条件が整ったらクエストという形でプレイヤーに紹介され、それをクリアすると上位職へとクラスチェンジ出来るらしい。

 ちなみに詳しい昇格条件は開示出来ないようだが、職によっては複数ギルドのクエストをクリアしないと昇格出来ない上位職もあるらしい。


「でも、所属ギルドのクエストしか受けられないんだろ?どうやって条件クリアするんだ?」

『ちっちっ!ファクト君は、支援者の説明をちゃんと聞いてたっ?パーティを組んだ他職の仲間がいればっ、所属外ギルドのクエストでも一緒にクエストクリア出来るよっ!』

「支援者?……あぁ、アリスのことか」


 確かにそう言っていた。なるほど、あの情報はここに繋がるようだ。


『でもねっ!安心してよ。『調合士』から派生する上位職には、所属外ギルドクエストのクリアが必須なものはないよっ!』

「ギルドまでボッチかよ」

『……ボ、ボッチじゃないからね?』


 思わずクリエラにツッコんでしまったが、とりあえず条件クリアが面倒そうなギルド連携条件はなさそうだ。


「つまり……例えば魔法使い系だと白から始めて、黒のギルドクエストをこなすと白黒関係ない魔法専門職へクラスチェンジ出来たりするわけか。そういうのがあるかどうかはともかく……まぁありそうだな。それを仮に……ドラ○エでいうところの賢者だったとして、白出身の賢者と黒出身の賢者とかが現れるわけだな?」

『賢者っていう名前じゃないけどねっ!……あっ』


 クリエラが慌てて自分の口を押さえる。どうもウチのギルドマスターは口が軽そうだ。

 そしてこの反応はオレの想定が正しいことを意味している。


「名前が『賢者』じゃないなら説明例に好都合だ。と、ここで質問。こうして出来た白出身『賢者』さんは、この場合元々の白ギルド所属になるのか?黒ギルドはどうなる?」

『えっとね、その場合は……ファクトの説明に乗っかると、白出身だけど『賢者』になったことで黒ギルドの所属でもあることになるよ』

「双方に所属するってことか」

『そそっ!』


 だいぶわかってきた。


 そして『調合士』の上位職にギルド連携条件がないということは、この説明の逆も言えるということだ。

 『調合士』の上位職には『調合士』出身者しかいないということ。そして『調合士』の上位職情報は『調合士』出身者にしか分からないということだ。


「クリエラ、じゃあ次は今聞ける上位職情報を教えてくれ」

『うーん、ないんだよねっ!……まだ始めたばかりでしょ?だから、どの上位職も条件満たしてないから固有職情報が開示出来ないんだっ。でも調合士の場合はねっ、一生懸命クエストこなして、たくさんアイテムを調合したら上位職の条件クリアに近づいていくよっ!』


 オレが今一番聞きたい本丸に斬り込んだが、あっさりと返されて撃沈する。なんとかクリエラの軽い口を割らせて情報を得たいところだが、さっきの件もあって警戒しているようだ。今のところそういった隙を見せる気配はない。


「なんかないのか?結局、なにもわかりません。話せませんじゃ、ここで会話した意味がほとんどないんだが。それにそもそも調合をどうやるのかもわからないし……」

『あっ!』


 クリエラがハッとした表情をしたかと思うとバツの悪そうな笑みでオレの方を向いた。


『ごめんねっ!一つ大事なことを忘れてたっ!初めて職業専用スペースへ訪れたプレイヤーに、職業スキルを授与しなきゃいけないんだったっ!』

「えっ……」


 ガタっと思わず腰を浮かせるオレ。

 ちょっとまて。それ、最重要事項じゃないのか?反射的にクリエラの頭を掴まえて必殺こめかみぐりぐりをしてやりたくなったが、気配を察したのかクリエラがいつの間にかテーブルを離れ、奥のカウンターの向こう側に陣取っている。


 というか本気で危ないところだ。

 正直、クリエラに忘れられたままスタートしたら、どんだけのハンデでゲームしなきゃならない状態だったんだよ……と。


『ふふっ。そいつは何度も喰らわないよ?』


 何度か見たどや顔でクリエラがこちらを見ていた。やや苛つく展開ではあるが、ここで無理矢理掴まえて……などとやっていたら、また大事なことを忘れられそうで怖い。

 大きくため息をついたオレ。


「いいから……また忘れないうちに大事なことをやってくれ。また忘れられたらかなわん」


 元のテーブル席に腰を落ち着かせたオレの様子を確認すると、クリエラが再び近づいてきた。そしてオレの額の辺りに手をかざす。


『ごめんねぇ。じゃあ、スキルを授与するよっ。……女神ヘレネよ。この者に『調合士』としての祝福を与え給えっ!』


 ふわっと淡い光がオレの身体を包み込み、すぐに消えた。

 女神ヘレネ……久しぶりに聞いた気がするが、ゲームの最初に会ったあのAIキャラのことだ。


『終わったよ?確認してみてよっ!』


 クリエラが、相変わらずの笑顔でオレの顔を覗き込んでくる。……近い!近いから。

 見る角度を変えたら、キスしてるかのように見えるくらいクリエラの顔が接近していた。さすがにここまで接近すると相手がNPCといえど、オレの『対人あがり症』が発動してしまいそうだ。


「わかった。わかった……」


 どうどうと落ち着かせるようなゼスチャーでクリエラと少しだけ距離をとる。そして……


「《ウィンドウ》」


 手をかざしてステータスを表示させた。表示項目に《固有スキル》の欄が増えていた。


『うん、大丈夫そうだね。ちゃんと職業固有スキルを授与できたみたい』


 クリエラは満足そうだ。


 《固有スキル》の欄には、『調合』と『アイテム鑑定:調合士』と記載されていた。


==========================

名前:ファクト

性別:男

種族:ドワーフ

==========================

職業:調合士

LV: 1

腕力:10

活力:15

敏捷: 7

器用:22

魔力: 0

運 : 1

―――――――――――――――――――――

固有スキル

 調合

 アイテム鑑定:調合士

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