第52話 盗賊たちのイルグラード
とある街のとある場所。それなりに調度品や家具のようなものが揃っている部屋の中に、男が突然ひゅんと現れた。
エルナたちと戦っていた若頭である。戦いのあとでやってきたようだが、抱えていたはずのカットラスの男と大剣の大男の姿はない。どこかへ一度寄ったあとでここへ現れたようだ。
「おつかれ」
若頭帰還の気配を感じたのか、部屋の奥から声がかかる。が、その姿は見えない。
「聞いてるよ。モルトの連中がけちょんけちょんにやられたって?普通のプレイヤー側にもなかなか強いのがいるじゃない?白黒コンビが呆れてたよ。若頭がついててその結果か……ってね」
「けっ!チキンのくせに口だきゃ立派だな。あいつらは」
若頭はそのまま部屋の中央に設置されているソファにドカッと腰をかけた。そして目の前にあるガラス製に見えるローテーブルの上にイルグラード通貨の束をポイっと置く。
「てかよ。『若頭』って役職名やめねぇか?俺たちゃ別にヤクザでもなんでもないパンピープレイヤーよ?ただ盗賊って職業を選んだだけの……な」
「好きにしたらいいじゃない?別にあたしが決めたわけじゃないし、あたしはもともとベネットって呼んでるし?……あ、そうそう。変えてもいいけどその代わり何か役職名考えてね?何かないと組織統率に支障が出るから」
「めんどくせえな……」
若頭は両足をローテーブルの上にドカッと投げ出した。ローテーブルがギシっときしむ。
その瞬間の出来事であった。
部屋の中に稲光が走ったかと思うと、若頭の足に直撃し、彼の両足が無残に吹き飛んだ。
「ぐぁっ!痛え!」
「前に言ったはずよ?テーブルの上に足を置かないでって。あたしはね、行儀が悪いのは嫌いなの」
「ぐ……俺が悪かった。ボス。申し訳ねぇが脚を直してくれねぇか?」
「もうしない?本当に?」
若頭は、痛みを堪えながら必死で訴える。
少し間があいて、緑色の強い光が足を包み込んだかと若頭の両足は綺麗に治っていた。
「ふぅ……ボスこそ酔狂だよな?盗賊じゃあねえのに盗賊プレイヤーを統率するとかよ」
「そお?とっても自然なことじゃない?別にあたしは盗賊がやりたかったんじゃないわ。でも、PKできるとか各種職業特性を優先的に習得できるとか、いろいろとっても魅力的じゃない?それなら……自分で出来ないことなら人にやらせればいい。違う?」
「そいつを実行してるってことが、普通じゃねぇって言ってんのさ」
若頭はそう言ってソファから立ち上がった。
「言うまでもないが、今回の稼ぎはそこに置いといたぜ」
「ありがと」
「……それとな、ボス。提案があるんだが」
「ん?なに?」
部屋の奥でカタッと音がする。
「やっぱりボスは俺のほうが相応しい。……そう思わねぇか?」
「ん~ブレないね。変わらないし、懲りないし、足吹き飛ばされて、なおかつ治してもらった直後の言葉とは思えないあたりも……ね。別にあたしはそれでもいいんだよ?あたしより強いなら。あたしは自分より弱いやつの言うことなんて聞きたくないからね?知ってると思うけど」
部屋の中の空気が緊張する。
沈黙を破り、先に大きなため息をついたのは、若頭の方であった。
「くそ……まるで勝てる気がしねえ。まだまだか」
「そお?あなたはちゃんと強くなってるよ?ベネット。それに盗賊団は実質あなたが仕切ってるようなもんでしょ?それで良くない?」
「ボスが……アンタが上にいるのが気に入らねえんだよ」
「ふーん?じゃあ強くなってね?」
「ちっ!思うツボかよ」
悔しそうに若頭は頭を振った。
「俺はもう行くわ。またなボス」
「いつでもおいで?ベネットならいつでも歓迎よ」
「フン」
不満を前面に出したまま、若頭は《転移》でその場からいなくなった。
部屋にはボスが一人残される。
「あたしは……今度こそ最強でなくちゃならないのよ」
……
「若頭!おかえりなさいませ!」
「申し訳ありません!不甲斐ないところをお見せして大変申し訳ありません!」
盗賊ギルドのモルト支部に《転移》で現れた若頭を見つけると、カットラスの男と大剣の大男の二人はすぐさま駆け寄って跪いた。その他の構成員たちは既に平服している。
そんな盗賊プレイヤーたちの前をゆっくりと横切ると、若頭はギルド内に用意された一人掛けのソファにドカッと腰を下ろした。
「とりあえず……だ。お前らがまだ弱いってことは、自覚できたな?ならいい。もっと強くなれ。俺達盗賊職はな、他職よりステータスに恵まれた優遇職なんだ。連中に強さで負けてるって時点で問題外なんだわ。わかってるか?」
「「「はっ!」」」
若頭の言葉に、その場にいる全員が短い返事をする。
「それと……白黒コンビが今回の結果を知って、お前らを挑発してるらしいな?まぁ俺からしたらどうでもいいことだが、お前はそれでいいのか?ウィルフォード」
「く……。実力で黙らせてきます」
カットラスの男は、顔を上げぬまま答えた。肩が小刻みに震えているのは悔しさによるものか、それとも怒りによるものか……。表情が読めないため判別は出来ない。
「フフ……まぁ好きにしろ。仲間内で争うのもいい訓練になる。システムの仕様上、完全にぶっ殺すところまでは不可能だが……」
「問題ありません。二度と無駄口叩けないよう全力で半殺しにしてやります!」
カットラスの男は拳を握りしめて顔を上げた。
「楽しみにしている。それで本当に黙るようなら、今度は白黒のチキン野郎どもに俺が直接ハッパかけなきゃなんねえ。お前もあいつらも俺から見たら可愛い部下だ。そうやって結果的に強い組織になってくれることを期待する」
若頭は拳をパキパキと鳴らした。
「あ、あの!若頭!」
皆が静かに首を垂れている中、末席の男が顔を上げた。
「なんだ?フィリップ」
「えっと……ですね、野良盗賊についてなんですが、最近アカシアにちらほらいやす。モルトに関してはあっしら継続して取り込み続けてやすが、アカシアには手が回ってねえです。うちから遠征しやすか?」
フィリップの言葉に若頭は静かに口を開いた。
「そうか……まぁほっとけ。いずれ分かる。群れた方が都合がいいってことをな。PKせずに平和にやってる連中もいるだろうが、俺たちゃ基本的に疎まれる職だ。見かけたら声かけとくか……くらいにしとけ。しばらくはこれ以上デカくしなくていい。組織内の足並みを揃えておきたいからな」
「そ、そうすか。失礼しました」
フィリップは深くお辞儀をすると元のように平服状態となった。
「よし。あとは任せたぞ」
「「「承知っ!」」」
ソファから立ち上がった若頭はそのまま《転移》で姿を消した。どこへ向かったかなどわかるはずもない。
若頭を見送ったカットラスの男は、背後に控えていた仲間達の方を向いた。
「若頭はああ言ってたが、白黒コンビにゃ少しヤキを入れておく。あいつらが今どこで何している調べとけ」
「了解っ!」
「あ、師匠。俺、どこにいるか知ってますよ?」
了承の返事をした大剣の大男に対して、予想外の声を上げたのはフィリップだ。
「フィリップ。本当か?ガセじゃねぇだろうな?」
フィリップに師匠と呼ばれたカットラスの男は眉間にしわを寄せた。




