第39話 銀狼
夜の闇の中、空を舞う鳥系の魔物を捜して歩き回るオレ。
最初の一匹以外になんとか二匹ほど仕留めるも、目的の『鳥の羽』はドロップしない。ドロップ率の悪いアイテムなのだろうか?
もしそうなら弾の材料として使い続けるのはあまり現実的ではない。大量に取得出来なくては弾の本分を全う出来ないからだ。
鳥系の魔物が見つけられないのは、イルグラード時間の夜に捜しているのが悪いのだが、ドロップ率の悪さが加わるととなると話は違う。
そんなことを考えながら上空を見上げて歩き回ること数刻。
それは突然訪れた。
《虫の知らせ》が鳴り響いたかと思った次の瞬間に吹き飛ばされたのだ。正直何が起こったのか全く分からない。
(何が起こった?……いや、アラートが鳴ったんだ。襲われたに違いない。でもどこから?どうやって?)
とにかく体勢を立て直そうとするが、身体が思うように動かない。痛みも感じる。予想以上の大ダメージを喰らっているようだ。
(まずい……このままでは)
ピピピピ……と再び《虫の知らせ》かけたたましく鳴り響く。
上半身だけでもと強引に身体を起こして周囲を見渡すと……オレは狼に囲まれていた。
《虫の知らせ》以上にオレに危機感と緊張感が走る。
少なくとも確認出来るだけで8体ほどの狼……狼系の魔物。そのうちの1個体は身体の大きさも毛並み銀色に輝いておりも他の狼とは明らかに異なっている。
(群れのボス付きかよっ!)
どうやらそれなりに知能の回る個体のようだ。
直前まで《虫の知らせ》が鳴らなかったということは、範囲外から一気に詰め寄ってオレに一撃を喰らわせたということ。ダメージ量からして恐らくボスの一撃だ。オレの見立てが間違っていて、雑魚の一撃がアレだとしたらもうこの時点でオレは詰んでいる。
雑魚の攻撃はそこまでではない……と、一縷の望みを賭けてオレは『ブーストLV2』と『回復薬小』2本をあおった。これで一旦はもとの動きを取り戻せるはずである。
『『『グルルルルルォォォォォォ!!』』』
狼の群れは一斉に唸り立てる。一方でボス狼は平然としている。もう勝った気でいやがるらしい。
「……ざけんなよ」
オレは愛用のクロスボウを雑魚の一匹に狙いをつけ、開戦の狼煙とばかりに先制の一撃をかました。
命中精度90%以上を誇るオレの射撃は、正確に雑魚狼の眉間を貫く。
『グガッ?!』
クロスボウの一撃を喰らった雑魚狼は、その場でもんどり打って倒れる。
まだピクピクと動いていることから、蜂の時と同じように一撃で倒しきることは出来ていないようだが、個体の無効化という意味では充分だ。
「よしっ!雑魚はイケる!!」
とりあえず、周囲を取り巻く雑魚狼に関してはクロスボウの一撃でも効果があることがわかった。ボスに通用する攻撃とは思えないが、反撃の糸口はここしかない。
続けざまに3匹の雑魚狼を仕留めつつ、できる範囲で街の方角へ逃げ出した。だが、予想通り狼たちの方が足が速い。すぐに周囲を囲まれるが包囲街の方角にいる数匹の雑魚狼を仕留めると再び街の方へ逃げる。……が、また囲まれる。
その繰り返しだ。
少しずつではあるが、確実に街の方へ近づいている。その証拠に、視界にはアカシアの街の光が見えてきている。
『グルルルルルァァァ!!』
同じ事の繰り返しに業を煮やしたか、ついに銀色のボス狼がオレの行く手を阻んだ。これ以上街の方角に近づくためにはボス狼を倒すか、足止めするしかない。
しかし……。
ボスの銀狼がオレに飛びかかってくる。かと思った次の瞬間にはオレは吹き飛ばされていた。そして最初に感じたのと同じレベルでのダメージを受けている。
(……まずい。歯が立たない)
最初の一撃は不意打ち、しかし今のは攻撃の瞬間が見えていた。それでも避けきれないうえに喰らった際のこのダメージ……。
まるで勝てるイメージが湧かない。
しかも逃げ切るイメージすら浮かばないのは、イルグラードに来て初の感覚だ。オレは初めて死亡退場を覚悟する。
一方の銀狼は、自分の一撃によってオレが動けなくなったことで緊張感を解いたのか、追撃を加えてこない……いや違う。
仲間の雑魚狼たちの準備が整うのを待っているようだ。
オレが何かしたところで、自分さえいればなんとかなる。そういった自信を銀狼に与えてしまったようだ。
(くそっ……)
オレは虎の子のクロスボウをアイテムボックスにしまい込んだ。死亡退場してもこれだけは失うわけにはいかない。そして銀狼が油断しているのをいいことに『ブーストLV2』と『回復薬小』で体勢を整える。そして右手には盗賊から奪ったあのハンティングダガーだ。
ゆっくりと立ち上がったオレに向かって雑魚狼が一斉に襲いかかってきた。銀狼ではない。
今のオレにとって怖いのは恐らく銀狼だけだ。時間制限はあれどドーピング中のオレにとっては雑魚狼は本当に雑魚でしかない。
襲い来る雑魚狼の攻撃を僅差でかわしながら、ハンティングダガーを突き出す。
ナイフのスキルもない《調合士》のオレのナイフ捌きでは雑魚と侮っている狼すら満足に捉えることは出来ない。……が、全く当たらないわけでもない。
そして当たったならこっちのものである。50%の確率で即死効果が発動するのだから。
それは、端から見ていて異様な光景であったかもしれない。
戦いは圧倒的に狼の群れが優勢。
一人のプレイヤーに対して群れで襲いかかる狼たち。防戦一方のプレイヤー。
しかし、一匹また一匹と次々に倒れていくのは狼たちのほうである。しかも狼たちに大きな外傷はなく、まるで毒で倒れていったかのような……そんな光景だったからだ。
『グルルルルル……』
おかしいと感じているのは知恵ある群れのボス……銀狼もだった。
圧倒的戦力差。しかも先ほど自分の一撃で満身創痍になっているはずの獲物。戦い……狩りはすぐに終わるはずだった。
だが蓋を開けてみれば戦いは終わらず、しかも被害は甚大だ。既に10匹以上の仲間が倒されている。
『グルアァッ!?』
銀狼は不意にアカシアの街の方角に視線を向けた。……大量のプレイヤーの集団がこちらに近づいてくるのを察知したのだ。それも一人や二人ではない。
銀狼にとって、計算外が続いていた。
さっさと終わるはずだった獲物狩り。だが、思いのほか粘る上、たった一人の手負いのプレイヤーに仲間の狼たちが倒されていくという現実。それならばと試しに自分で手を出してみると、そのプレイヤーは自分の一撃で吹き飛ぶほど弱い。仲間の狼達で充分倒せるはずだ。
しかし、順調なはずの狩りであるのに状況が全く理解できない。
なぜこの獲物はさっさと倒れないのか?何故仲間の狼が倒されていくのか?
困惑した銀狼に更なるイレギュラーが発生する。
街に近づきすぎていたようだ。恐らくは自分を討伐するためのプレイヤーが、一斉にこちらに向かってきているのに気づいた。
銀狼には自負がある。
中途半端なプレイヤーに遅れをとるつもりなど微塵もない。……が、想定外が続いている今、自分が倒されるという想定外がないとは限らない。
『グルォッ!』
知恵ある銀狼は、仲間達に攻撃の停止と撤退を指示していた。
……
時間は少し遡り、ファクトが2度目の銀狼の一撃を食らってダウンをしていた頃。
「馬鹿なっ!シルバーウルフが街の近くに出現しただってっ?!てめぇ嘘じゃないだろうなっ?」
「本当だよ。誰かが襲われていたみたいだから、もしかしたらそのプレイヤーを追って街の近くまで出てきたのかもしれないけどさ」
「……そいつはもう助からんな。が、これはチャンスだ!すぐにその辺にいる連中を呼べっ。いるやつだけでいいっ!狩りにいくぞっ!時間はねぇ!さっさと行かねぇとヤツに逃げられちまうっ!」
アカシアの街の中央広場。
一人の鬼人のかけ声で集まったプレイヤー達が一斉に街の外へ飛び出していった。……もちろん、レアモンスター『シルバーウルフ』を狩るために。




