第287話 ひと段落して
「ミゲル!大丈夫か?何があった?」
エルナとともに酒場に到着する頃には混乱はほぼ収まっていた。まだ周囲で少々の戦闘音が聞こえてはいたが、オレたちが上層から見た時のような混沌とした状態ではない。
「あぁ、ファクトか。実はな……」
と、ミゲルから聞いた話は衝撃だった。
オレが見た魔槍『炎神』の光は、襲ってきた盗賊軍のリーダーの一人に対してミゲルがとどめを刺して仕留めた際の光であったようだ。
また、それ以外にも数名のチームリーダーがいたようで、それに関しては……
「ボク達が撃退しといたよ」
と、あの面倒くさいフルカスとアイラ。そしてグレン。
グレン達によれば他にも3名ほどチームを率いるリーダーがいたらしい。
大剣をかついだエルフの男に、黒魔法使いらしき男と白魔法使いらしき男。魔法使い系の二人はフルカスとアイラのコンビが仕留めたようだが、大剣使いのエルフには逃げられてしまったようだ。
……というか、そいつの指示で軍隊のように統率された盗賊達が一斉に撤退したらしい。
「あと一息だってのに、急に逃げやがってあの野郎が」
と息巻いているのがグレン。
パーティメンバーを放っといて飛び出した彼の行動が正しかったか?は疑問だったが、そのおかげでミゲルが首魁の一人を仕留めることが出来たということは僥倖だった。それもあったか、スフィアさんがミゲルを助けた聖魔師のケーラと話し込んでいる。
オレもフレアヴェールを襲撃した盗賊達の情報を少し頭の中で整理してみる。
特徴を聞く限り、フルカスとアイラが仕留めたという黒魔法使いと白魔法使いの盗賊は、以前《あやかしの森》で見た……もっと言えば、もともとグレンの仲間として潜伏していたあの二人のことだろう。
そして、ミゲルが仕留めた首魁の一人……カットラスを使う鬼人ウィルフォードというやつは、以前ミゲル達を襲撃した盗賊の一団にいたメンバーの一人らしい。となると、グレンが逃がした大剣の男というのも、その当時の襲撃パーティの一人に違いない。
「アイツは……あの若頭とか呼ばれていた奴はいなかった?」
一通りの話を聞いたところでエルナがミゲルに質問した。エルナが質問した『アイツ』というのは、以前襲撃した盗賊パーティのリーダー格だったらしい奴のことだ。確かにここまでのミゲル、フルカス、グレンの説明の中には登場していない。
「そういや見てないな?ていうかオレはずっと酒場の中で戦ってたからな。外にいたかどうかは……」
と、フルカスたちを見るミゲル。
「うーん?そういう特徴の敵は見てないな~。アイラも見てないよね?」
「見てないね」
とのこと。
恐らく今回の襲撃に参加していないか、あるいは糸は引いているが現地に参加していないだけか……後者のような気はするが、確認は出来ないしな。
「来てないのね?」
エルナは複雑な表情だ。
話を聞く限りでは、以前の邂逅の時にかなり劣勢だったらしい。エルナが単純戦闘で苦戦を強いられるということ自体がそいつの強さとヤバさを物語っている。オレの素直な気持ちとしてはそんなヤバい奴と直接の戦闘がなくて良かったと思うのだが、エルナとしてはリベンジをしたい気持ちもあるのだろう。
……
その後、少しだけ情報共有をしたところでオレ達はグレンパーティと別れた。
スフィアさんはまだケーラと話を続けたそうだったが、お互いの都合もあるので仕方ない。フレンド登録でもして個人的に連絡をとってもらえばいいと思う。
そして今、この場にいるのは……
オレ、エルナ、ミゲル、スフィアさんの4名。るー坊?はいつの間にか居なくなっている。そういえばエルナと二人で行動をし始めたあたりから見ていない。フレンドリストを確認する限りではオフラインになっているので、あのあとログオフしたのだろうと思われる。
「いま四人……どうしようか?このままストーリー進めるにしても、次は王都潜入だよな?探索イベントなら、るー坊が居た方がいいと思うんだが」
オレはそう言ってみんなの様子を見る。
「わたしはこのまま行ってもいいよっ!」と、エルナ。まあエルナはそう言うだろうと思っていたので想定の範囲内だ。ミゲル達はどうだろうか?
ミゲルはオレと視線が合う。
「そうだな。行ってもいいんだが……」
とミゲルがスフィアさんの方を見る。
「実は、上位職の『聖騎士』を目指そうと思ってまして。で、クエストをやりたいと思ってます」
スフィアさんの話を聞いたオレは、おお!と納得した。
よくよく考えれば、直接の上位職が存在しない『鍛冶』である猫を除けば、オレの周りで上位職へ昇格していないのはスフィアさんだけだ。ミゲル達とは既に協力関係を結んだ仲間だし、スフィアさんの強化は純粋にオレ達の強化に等しい。
「手伝うっ!……あれ?思ったんだけど、スフィアさんの攻撃って殴りだよね?『聖騎士』って剣とか使うんじゃないの?」
いち早く協力を申し出たエルナだったが、言いながら首を傾げた。
「大丈夫よ。『聖騎士』に武器の制限はないみたいだし、白魔法を使いながら前衛で活躍したい私にとってはピッタリのようね」
……前衛で殴りたかったのか。
確かに攻撃手段は拳による徒手空拳だったが、主に支援で活躍していたスフィアさんは後方支援が得意であり、それが一番やりたいことであって拳による白兵戦は最後の手段だとオレは思っていた。
意外な一面を見た気がしていたが、スフィアさんの発言を聞いたミゲルが平然としているので、普段行動を共にしているミゲルからしたら意外でもなんでもないのだろう。
ただオレがスフィアさんのことをよく知らなかったというだけだ。
「ってことは、ミゲルもスフィアさんの昇格クエストの手伝いをするってことだよな?エルナも行く気だし、オレも協力しない理由はないから一緒に行こうと思ってる。……で、一体どんなクエストなんだ?」
オレの言葉にミゲルはスフィアさんと向き合った。
「……まだこれからで、よく知らないんだわ」
二人が示し合わせたように苦笑いをした。
釣られてオレも小さく笑ってしまう。気持ち先行なんて珍しくないし、オレもそうだからすごくよく分かる。
「じゃあ一緒に見に行こうよ!」
そう言ってエルナはニカッと笑った。
すこし身体を壊してしまいました。




