第283話 襲撃
気に入らない。
何が気に入らないって、すべてが気に入らない。
とにかく存在のすべてが合わない……ミゲルの頭の中はそんな考えで埋め尽くされつつあった。
まだグレンの方が可愛げがある。やりたいことに対して全力猪突猛進という点がだ。
……だがこいつはどこかが違う。
対峙している今、気持ち悪さに近い気味の悪さを感じていた。張り付いた笑顔という仮面で悪意の塊を隠しているかのようだ。
盗賊じゃあねえだろうな?
ふと脳裏に浮かんだ可能性。結果としてかつて仲間であった探索者リンクスと道を分かつ切っ掛けとなったあの襲撃騒動。あれはミゲルにとって非常に不愉快な出来事だった。
盗賊かどうかをシステム的に見破ることが出来ないのは仕様。だったら行動や言動で見抜いてやろうとあの襲撃以降から冒険者を観察してきた。だが、これまで『こいつが盗賊だろう』と分かった試しはない。疑わしい相手もいなかった。
(まさか……な)
改めてミゲルはグレンと雑談をしているフルカスと、それを自慢げに眺めているアイラを見る。
『そうかもしれない』という目で見れば、いくらでもそう見えてしまう。そもそもミゲルにとってこれまで一番怪しいのはグレンだった。もっともちゃんと話せば盗賊でないことは分かった。自分には見る目がないと実感したばかりだ。
そう考えるとフルカスも怪しさがあからさまだ。隠そうともしてない。
(てことは、違うってことか?いや、わかんねえ。直前にファクト達と会っているのなら、相談してからでもいいか)
観察眼の足りない自分が考えるより、ファクトに判断してもらえばいい。異変が起こったのは、ミゲルがそう自分の中で結論づけた直後のことだった。
ミゲルがグレンと話していたのは奥ではなく、店の入り口の付近で爆発が起こった。
「なんだぁ?うるっせぇな?」
苛立ち気にグレンが爆発の起こった方を見る。
もちろんミゲルやスフィア。グレンパーティの面々。フルカスやアイラも含めて爆発の起こった入り口の方に視線が向けられた。
「炎系の魔法ですね」
スフィアが確認するかのように呟く。
音や演出。そしてご丁寧に表現される煙や土埃のおかげで本当に『爆発した』かのような印象を受けたが、スフィアの言うとおりタネは炎系魔法だ。でも、どうして?いま?ここで?と混乱思考がミゲルの頭を埋め尽くす。
が、そのとき叫んだ冒険者の誰かの声で思考がクリアになった。
「盗賊だぁっ!」
マジか?!
ミゲルはとっさにスフィアを背後にかばうと、猫印……いや白虎銘の《聖銀製》の盾を取り出して構えた。今ミゲルが持っている中で最高性能を誇る盾である。
「ミゲル?もし相手が盗賊なのであれば、そんな良い盾を構えない方が……」
「スフィア?万が一にでも俺が負けると?」
「いえ、そうではなく装備品を盗むようなスキルを持たれていたら、勝ち負けの問題ではなくてですね」
「そういうことかよ。まあ用心するに越したことはねえか」
折角構えた《聖銀製》の盾だったが、それを再びアイテムボックスへしまうと《皇宮の守護者》用に量産してもらった鋼鉄製のカイトシールドへと持ち替えた。
「ミゲルぅ?使わねぇならその良い装備を俺によこせよ?使いこなしてやるぜぇ?」
「誰がやるかっ!」
くだらないグレンの挑発にやや声を荒げて返してしまう。
チラリと横に視線を向けると、ふざけているのは言動だけであってグレンは真剣に構えていた。その横でアイラも真剣な表情で前方を睨み付けている。アイラの背後には無造作に杖を構えたフルカスの姿も見える。
……その表情はアイラの姿に隠れてよく見えない。
「稼ぎ時だぁ!やっちまぇ!」
「うぉぉっ!」
盗賊達の怒声が酒場に響き渡る。なりふり構わず集団で襲撃してきたようだ。
それだけでミゲルは警戒する。
というのも、ただでさえ冒険者が多く集まる酒場に襲撃を仕掛けるという無謀な行為に見えたからだ。不意打ちが成功すれば初撃は成功するだろうが、酒場客となっている冒険者全員に抵抗されたら、どう考えても一方的な敗北が濃厚だ。
これがNPCなどストーリー設定によるイベントであるなら納得もいくが、盗賊ということは相手だって冒険者である。考えなしに勝率もない襲撃を掛けるとは思えない。
さらに店内で爆発が起こった。
盗賊側の魔法使い役が放ったのだろう。酒場の冒険者の多くが対応出来ずに動けていない一瞬を狙われ、ひとりまたひとりと襲撃された入り口付近の冒険者が倒れていく。
たしかファクトに以前聞いたことがある。
盗賊職は魔法使いなどいわゆる通常職と類似の能力を持つことができ、それを使ってパーティに紛れ込んだりするのだそうだ。あの爆発を引き起こした炎魔法使いもそうした能力を使っているようだ。
「せっかく楽しい気分で談笑していたのに……なんて無粋な連中だ」
ぼそっとフルカスのつぶやきが聞こえてきた。
いや呟いたというよりは普通に言ったのか。いやまあそれはどうでもいいか。
「ボクが片付けてくる。共闘はイヤでしょうけど、ここの守りは頼みますよ?」
「フルカスてめえ俺の獲物を横取りする気かよ!俺も出るに決まってんだろうが」
「……では、グレンさんもご一緒に。アイラいくよ」
「任せときなっ!」
「お、おいっ!」
ミゲルが発言する暇を与えず、フルカス、アイラ、グレンの三名が飛び出していった。
小さく肩を落とすミゲルの隣にスフィアが並ぶ。
「彼らの力を観察する良い機会ですね」
「見えりゃあなあ」
スフィアの言葉に同意を示すも、爆発魔法による土埃でミゲル達の視界はかなり限られている。
「ぁ……あのぅ」
背後から自信なげな声が聞こえたのでミゲルが振り向くと、そこには取り残されたグレンパーティの面々……軽戦士モスラ、探索者ザイード、そして声の主である白魔法使いのケーラがいた。
「なんだ?」
「えっと……よろしくお願いしますっ!」
ケーラ達が一斉に頭を下げた。
これはあれか。さっきの『ここの守りを』に対しての礼か。すでに守ってもらう気満々らしい。
どうしてフルカスが『ミゲルならここを守れる』と知っているのかは疑問が残るが、ミゲルとてこの連中をみすみす襲撃者達の獲物にさせるのは気が引ける。
「あぁ、わかったよ。そこでジッとしてろよ?」
ミゲルはケーラのお願いに小さくうなずくと、再び前を向いた。




