第279話 口戦
オレはそっちを知らんのに、どうして向こうはこっちを知っているんだ?というオレの表情をどう受け取ったのだろうか。『大魔導』とわざわざ職業名までつけて名乗ってきたフルカス君は、そんなオレの心情を図るかのように小さく首を傾げた。
もしかしてオレも『調合士』の~とか、『魔導技師』の~とか名乗った方がいいのか?いや、厨二くさいからそれはやめとこう。それは27歳のいい大人であるオレがすべきことじゃないはず……だ。
オレがそういった余計な雑念との格闘をしていると、再びフルカス君が話しだした。
「うん……そうか。残念ながらまだボク達の名前は広く知られているわけじゃなさそうだね。あの『雷撃の賢者』くらい知られることを目指しているけど、まだ貴方の方がよっぽど知られてそうだ。遠いなあ」
なんだ?
勝手にブツブツと独り言言いながら分析してるぞ。物腰は丁寧な風だけど実は危ないやつなのか?エルナにああ言ったけど、正直関わりたくない相手だな。ていうかオレは有名なのか?初めて聞いたぞそんな噂。
本当か?とエルナの方を向いたが、エルナも小さく首を横に振った。そうだよな、知らないよな。
実に面倒くさい。向こうから絡まれたんでなければ早々に退散して……っていいのか別に。
この場から離れちゃいけない理由なんてどこにもなかったな。そうと決まればさっさとこの場から離脱しよう。そうしよう。そう考えたオレはエルナの手を取った。
するとその段階で都合悪くフルカス君が自分の世界からこちらに戻ってきてしまった。
「あれ?どこへ行くんですか?まだボクの話は終わってないですよ?」
本当に面倒くさい。じゃあ言いたいことを言ってしまおう。
「こっちは特に話すことはない」
「あれ?でもどうして自分のことを知ってるんだろう?とかさっき興味持ってませんでした?おかしいなあボクの勘違いかな?」
……エスパーかよ。
にしてもこんな腹の探り合いのようなやりとりは正直好かん。マジで面倒くさい。隣でエルナの肩が小さくプルプル震えているのもなんとなくわかる。エルナも我慢の限界が近いか?
オレはそんなエルナの肩に軽く手を置いた。即座にエルナの震えが止まる。
「そう思った瞬間もあるかも知れないが、冷静に考えりゃどうでもいいことだ」
「そっかぁ残念だなあ。ていうか情報収集を怠ってなければ、ファクトさん達のような有名な冒険者を知らない訳がないですからね。確かにどうでもいことですね」
うさんくさい。非常にうさんくさいぞこいつ。
『情報集めるのは当たり前』みたいにナチュラルにマウント取ってきやがるし。そりゃオレだってゲームの攻略情報は必死で集める。が、基本的に他人に興味がない分、どうしても冒険者の情報には疎い。それは認めるが、パーティ組む相手以外をそんなに調査したりするか?
いや、オレが知らんだけで、興味のある連中はするのかもしれないけど。とりあえず、もうこいつらと話すメリットはないな?最初からなかったかもしれんが。
そう考えたオレが目の前の二人から視線を外したところで、事態が急変した。
「グレンの野郎に聞いたんだよ。生産職の癖して戦闘に順応してやがるファクトってのが、金魚のフンみたいに同行するエルナって戦士に依存してゲーム進めててムカツクってな」
「依存?!」
「金魚のフン?!」
フルカスとオレによる腹の探り合いのような会話に苛立ったアイラが、燃料を投下してきた。
終わらせかけていたやりとりの筈が、とんだ再燃だ。
エルナとオレが思わず声を上げる。エルナに至っては手が腰の刀に……もちろん仮に振るったところで盗賊でもない冒険者同士で戦闘など出来ないが、それだけエルナの怒りが隣にいるオレに伝わってくる。
あの鬼人のことだから、オレ達のことをディスっていても何も驚かないが、今、ここで、エルナの感情に点火するのはやめて欲しい。いやマジで。
一方で腹に一物ありそうなフルカス君も、アイラの言動を聞いて『やっちまったか』といった風でおでこに手を当てている。アイラの暴走は完全にフルカス君の想定外のようだ。
「おいおい怒るんじゃねぇよ小娘。アタイが言ったんじゃなくてグレンの野郎が言ったんだ。そいつをそのまま伝えただけだ」
「でもアイラ?それをここで言う必要はないよね?」
エルナから放たれた殺気に対して、さらに言い訳がましく言葉を続けたアイラを冷静かつ怒気を込めた発言で制したのは……フルカス君だった。
「あ……いや。えっと……ごめん……なさい。フルカス」
すると威勢の良かったアイラの態度が一変し、一気に熱量が下がった。面倒くさくて積極的に関わりたい連中ではないが、この二人の関係は少し面白いかもだ。
かといって自分から掘り下げるつもりもないが。
今のやりとりで一番怒っていたエルナも、フルカス君に対するアイラの態度を見て一気に冷めたようだ。
「で?結局何がしたいのよ?もう私たちは行きたいんだけど?」
と、呆れた様子でため息とともに問いかけるエルナ。
もうオレも止めない。オレだって疲れた。
「仕方ない。種明かしをしてしまうと、ボクがファクトさんという人の人となりを知りたかったってだけですよ。ボクらは常時ではないですがグレンさんのパーティの協力者ですので、彼の愚痴をどうしても聞くことになる。するとですね、事あるごとにあなたの名前が挙がるわけです。そうなるとボクとしては、あなたのことを知りたくなってしまうわけで……えぇ、そうです。最初のぶつかりそうになったのも、ただのきっかけ作りですし」
「……」
「信用できないって顔ですね?まあ信用してもらえなくて結構です。大体わかりましたけど」
「そうかい?じゃあもうオレ達は行くぞ?」
オレは改めてエルナの手を取り、彼らの脇をすり抜けてフレアヴェール上層部へと歩きだした。追ってくる様子がないのは実にありがたい。
「楽しい気分だったのにすまなかったな」
「えぇ!なんでファクトが謝るのよ。悪いのはアイツらでしょ。仕切り直しよ!」
エルナはぐっと両拳でガッツポーズのようなジェスチャーをしてみせた。
そうだな。オレも気持ちを切り替えるとしよう。
……
「フルカス?もういいの?正直アタイはアイツら苦手だから、出来れば関わりあいたくないんだけどさぁ」
「いいよ。ボク達の障害になりそうならなんか考えなきゃだったけど、そういうわけでもなさそうだし。そろそろグレンのとこに行こうか?ボク達がいないとあの脳筋バカどもじゃ、きっとストーリーなんてまともに進められないだろうからね」
「いいすぎwでも同感~」
そんなフルカス達の会話がファクトに届くことはなかった。
フルカス君との会話のやりとりが気に入らなくて何度も書き直してしまいました。
最終稿においてもこれで良かったのか自分でもよくわからず。いずれ直すかもしれないです。




