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イルグラード(VR)  作者: だる8
第一章 物語の始まり
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第28話 クイーンビー

 オレとエルナは、ほぼ同時に(ブースト)を飲むとエルナは剣を抜きボス蜂へと突進。クロスボウに(ボルト)を装填したオレは、周囲を飛び回っている(キラービー)の足止めを開始した。


 作戦は単純だ。

 エルナによるボス蜂討伐を邪魔してくる(キラービー)をオレが射撃で撃ち落とす。エルナはその高い攻撃力を活かしてブーストLV2の効果が切れる前……3分以内に倒しきる。これだけだ。

 ボス蜂の耐久値がどのくらいあるかわからないため、本当にエルナ一人の火力で倒しきれるかどうかは未知数。要するに全くわからないのだが他に取りうる作戦などないのが現実だ。もちろんこのあと(キラービー)の数が増えないようならオレも遠隔でボス蜂を削りたいところだが、果たしてオレの援護射撃がどれほどの効果を上げられるかわからない。


 というより、オレは倒そうと倒さまいと(キラービー)は減っていかないだろうと予想していた。

 恐らく戦闘終了条件はボス蜂の討伐。そしてそれが成るまでは支援雑魚敵役の(キラービー)は無限増殖するだろうと容易に予想がつくからだ。何故ならここまでたどり着いた通常の(・・・)パーティであれば、本来(キラービー)の大群に苦しむハズがないからである。


 オレ達のようなパーティが想定外……かどうかはわからないが、いずれにしても(キラービー)の存在を無視してエルナの攻撃を邪魔させる訳にはいかない。とにかく彼女(エルナ)の行動の全てを、いかにボス蜂への攻撃に充てられる環境を作ってやれるか……それこそがオレの役割だ。


 (ブースト)を飲んだオレは、矢継ぎ早にクロスボウで(キラービー)を3匹撃ち落とすことに成功した。もちろんクロスボウの一射で倒しきれないこと自体は先ほどと同じであるため、オレは(キラービー)の行動を停止させることに専念する。

 すると、ボス蜂を含めた全ての蜂の注目(ヘイト)を集めてしまった。やり過ぎたか?と思ったそのときだ。


「お前の相手はわたしだっ!であぁっ!」


 勇ましい掛け声とともにエルナが突進から繰り出した重い突きの一撃が、ボス蜂を後方へ吹き飛ばした。ブーストによる突進とSTR上昇、それに《剣撃》がのったエルナの一撃はボス蜂を大きくノックバックさせ、吹き飛ばしたボス蜂の注目(ヘイト)をオレから自身(エルナ)へと奪う。


 だが、それだけでエルナの猛攻は止まらない。

 吹き飛ばしたボス蜂を追いかけたかと思うと、上段から左切り上げ、そして袈裟斬りからの右薙ぎへと繋ぐ四連撃を繰り出した。


(……強いっ!ありがたい!)


 エルナの繰り出す攻撃は、まるで剣道でも嗜んでいたかのようなスムーズな剣捌きだ。実際に剣道の有段者なのかもしれない。

 お陰で少なくともボス蜂の注目(ヘイト)を逃れる事は出来た。代わりにその他の(キラービー)の全てがオレの方を向いて襲ってきたが、これはこれで狙い通りである。エルナ v.s. ボス蜂、オレ v.s. (キラービー)達という構図が、オレ達にとっては最適だからだ。


 エルナがボス蜂との一騎打ちをしている隙に、オレは回避しながら(キラービー)を次々に撃ち落としていく。


 今のところ戦況はオレたちが優位だ。

 ブーストでドーピングしている限り、よっぽどのミスをしない限りオレが(キラービー)に遅れを取ることはない。ドーピング状態のエルナに至っても、今のところボス蜂を圧倒しているように見える。


 オレは撃ち落とした近くの(キラービー)10数匹にトドメを刺して回る。だが、これは悪手だった。と、いうのも絶命させた(キラービー)の分だけ、上空から新手が現れたからである。


(しまった。そういうシステムかっ!)


 オレはわざわざ戦況を悪化させてしまった自分を責めたが、やってしまったものは仕方がない。

 戦闘開始直後に撃ち落とした3匹をそのままにして、オレは新手を撃ち落とすことに専念する。最初と違って痛いのは、新手の(キラービー)たちはニュートラルで現れたために、ボス蜂をボコにしているエルナに注目(ヘイト)が向かってしまっていることだ。その数13匹。


 オレの失敗でわかったのはこのボス戦フィールド上において、敵の数……つまりボス蜂1匹の他に(キラービー)16匹を維持するように決まっているようだということである。であるなら、敵の数を減らさずに(キラービー)の行動力を奪うというここまでの行為は真の意味で最適解であったわけだ。


 再注目(ヘイト)を完全にオレに集める事は難しいが、改めて1匹ずつクロスボウで撃ち落としていく。

 稀にクリティカルの一撃で倒しきってしまい、追加で(キラービー)が飛来してくることはあったが、それでも改めて16匹の(キラービー)を瀕死状態で留めることに成功する。


(よしっ!)


 まずは第一段階クリアか。時間は……あまりない。既にドーピングは二本目に突入している。

 エルナも二本目のドーピングを飲んでいるだろうか?そんなことを考えながらボス蜂の方を向くとエルナがこちらに向かって全速力で走ってきていた。


「ファクトッ!緊急退避っ!」


 エルナの声が響いたその瞬間、オレはエルナの突進によってその場から突き飛ばされる。

 直後、ボス蜂の周りが毒々しい赤紫色の霧に包まれた。直前までオレが立っていた場所まで霧で覆われている。


「毒霧だよ。危なかった」

「初見攻撃なのによく分かったな?」


 ボス蜂と戦うのは、オレはもちろんのことエルナも初めてのはずだ。


毒霧(アレ)の小さな攻撃(やつ)は、もともと使ってきてたからよ。口元に毒霧(アレ)を蓄えながら長く溜めを始めたから、なんとなく大技かなって」

「ナイスだエルナ!」


 いい仲間に恵まれたと本気で思う。危機回避能力も素晴らしい。


「でもこの攻撃、わたし達にとって最悪だね。霧が晴れるまで時間を使わされちゃうし……」


 エルナの言う通りだ。万全の対策で臨んだのならともかく、ドーピングはあと1本ずつしかない。霧を待っている間に今使っている分は時間切れを迎えてしまうだろう。


「エルナは(ドーピング)なしで、ボス蜂と対峙出来るか?」

「正直難しいよ。目の前で戦うだけなら出来そうだけど、有効な攻撃を当てられないと思う」

「ここまでの手応えは?」

「あと少しだと思うんだよね……だから大技使ってきたんだと思うし。わかんないけど」


 フィールドを覆っていた毒霧が晴れていく。

 厄介なことに毒霧の効果なのか、オレが無効化しておいた(キラービー)たちが完全復活していた。


「いけるところまでやるしかないな。オレはエルナの攻撃力(STR)に賭ける!」

「わかった。じゃあどうせ復活しちゃってるし、再開直後にぶちかますよっ!」


 (キラービー)の仕様にエルナも気づいていてくれたようだ。その上で必殺のアレを使うらしい。


「任せたっ!」

「行くよっ!」


 エルナが(ブースト)を使って、敵陣中央に乗り込んだ。……オレは使用時間を少しずらすことにする。なぜなら、目の前の(キラービー)はこれからエルナが一掃するからだ。新手が現れたタイミングで使えばいい。


「はぁぁぁぁっ!(せん)っ!!ぷうっ!(じん)っ!」


 ボス蜂に向かってまっすぐ突進したエルナは、襲い来る(キラービー)の群れを掻き分けてボス蜂前に到達すると《旋風刃》を発動させた。

 直後、あのすさまじい竜巻がエルナの周囲に発生した。


 突進の時にエルナの攻撃を逃れた(キラービー)とボス蜂、そして補充で上空に現れたばかりの(キラービー)をも巻き込んで竜巻は蜂たちを蹂躙していく。


「からのぉっ!」


 竜巻の中心で何かが光る。


「パワースラッシュッ!」


 エルナのかけ声と共に光が弾ける。と同時にズザンッ!という今までにない大きな斬撃音が聞こえた。

 ドーピングがのった状態での戦士の固有スキルだ。オレの想定が正しければ、最初の《旋風刃》を含めて相当のダメージがボス蜂に入ったはずだ。だが、エルナの竜巻が晴れたあとオレの視界に入ってきたのは未だ剣撃を続けて居るエルナとボス蜂の姿だ。上空からは補充の(キラービー)16匹が迫ってきているのが見える。


 足りないかっ!

 オレは急いで『ブーストLV2』を使用する。やることは同じだ。オレの仕事はエルナの攻撃する時間を作り出す(・・・・)ことだ。


 クロスボウを構えたオレは、(キラービー)の無効化を再開する。そして4匹の行動を止めた時、視界に見慣れないものを確認した。


 ここは蜂のフィールド。

 (キラービー)を倒せば倒しただけ蜂蜜のドロップがある。だからフィールド上には最初の戦闘も含め、沢山の蜂蜜が落ちている。だがその落ちている蜂蜜の中に見慣れないものを一つ発見したのだ。


 『ニードルボルト』


 もしかしてレアドロップなのか?あり得る話だ。大量に(キラービー)を倒しているのだから。

 オレは(キラービー)の無効化を続けながら、『ニードルボルト』の落ちているところまで近づいた。そして『ニードルボルト』(それ)を拾い上げて確認する。


 間違いない。これはクロスボウの弾だ!

 調合で精製出来るわりに(ボルト)は一応武器扱いであるためか、オレの鑑定では情報の詳細は表示されない。が、今使っている『ウッドボルト』より遙かに威力があることだろう。


 オレは決めた。

 こいつをボス蜂にぶち込んでやろう……と。


 それで倒せなくても、戦況が悪化してももう後悔はしない。やれることはやり切った。そう思えるところまでやり切りたい。

 リロードしたクロスボウにオレはウッドボルトではなく『ニードルボルト』を装填した。


 襲いかかってくる(キラービー)達を回避し、エルナと交戦中のボス蜂に向かって狙いをつける。

 しかし……動きが速いっ!


 エルナとボス蜂は結構な速度で戦いを繰り広げており、その速度は(キラービー)などとは比較にならない。これではいくら命中補正が入っていても当たるわけがない……せめてボス蜂の動きが予測出来るのなら……


 時間がどんどん無くなっていく。ドーピング状態でなければ(キラービー)を回避できないオレにとって、それは死亡退場へのカウントダウンだ。


(くそっ!撃つかっ?)


 もう撃つしかない。そう思ったときだった。


「ファクトッ!わたしがスキを作るよっ!」


 エルナの声がオレに届く。


「パワースラッシュ!」


 2撃目だ。あの固有スキル技はチャージ時間が必要なんじゃなかったっけ?それだけの時間はもう経った?いや、余計なことを考えている暇はない。


 エルナの剣が光り輝く。そしてその光剣がボス蜂の顔面をとらえて弾けた時、ボス蜂は空中から地面に叩きつけられた。


 今だっ!


 オレはボス蜂の胸部に向けてクロスボウのトリガーを引いた。


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