第268話 デモンズアミュレット
「さて……と。じゃあ俺達も儀式やるか。やらんとストーリー進まねえんだろ?」
「確かそういう話でしたね」
メルグの容態が落ち着くのを見て、ミゲルとスフィアさんがこちらに近づいてきた。
言ってることは至極まともだ。オレもこれから話を進めようとしていたところなので特に異論はない。
「もちろん進めるつもりだけどさ?魔族とオレ達じゃあ状況が異なるんじゃないか?オレ達冒険者は、設定上は人族だ。メルグのようにデモンズハートが取り込まれるとは思えないんだが」
「そんなんやってみりゃわかるさ。スフィアがいりゃ大丈夫だろう?」
なんの問題があるんだ?とミゲル。いやまあ問題はないけど。
「じゃあさ、もしスフィアさんのヒールが効かなかったら……斬っていい?」
エルナが悪戯っぽく笑う。
「え?あ……いや、そいつはちょっと。斬られたくはねえかな」
狼狽えるミゲルを見ながらクスクスと笑うスフィアさん。なんとなく可哀想だからミゲルは斬らないでやってほしい。
「エルナ。オレがダメだったら斬っていいぞ」
「え?ファクトを斬るわけないでしょ?」
何言ってんの?くらいの様子でそう返してくるエルナ。
「贔屓だ!俺の場合でも斬らずになんとかしてくれよ」
やや情けない声で反論したミゲルに、この場の全員から笑いがこぼれた。
「……オチがついたところで、始めるだか?」
「そうだな」
オレは話を戻してくれた猫に相槌を打った。
雑談ってのは非常に楽しいが、こんな暗いところで延々話してても仕方ない。さっさとやることやって外で雑談をするとしよう。
「じゃ1番手いくぞ」
「あ!ちょっと待てって」
デモンズハートってのはイベントアイテムであるが、アイテムであることには変わりない。であれば、先に《鑑定》してから進めたいと思った矢先のミゲルの行動だった。
オレの制止より先にミゲルはしゃがみ込んでデモンズハートを手に取っていた。
「……?」
ミゲルがデモンズハートを拾って数秒。
オレ達の予想に反して、何かが起こる様子はない。メルグの時にはすぐに異変が訪れたというのに……である。
「これ儀式成功ってやつか?」
ミゲルはデモンズハートを拾い上げたのままの格好で、首だけキョロキョロとオレ達の方を向いている。そんな状態で成功か?と問われてもなんとも言いようがない。よするにわからない。
「いや、なにも起こってないように見えるだよ?」
「アイテムに無視されてんじゃない?」
「何も起こってないように見えますね」
ん。一人酷い言いようの奴がいるが、ここはミゲルのために優しくスルーしよう。言ってるのは……わざわざ名前を出すまでもない。アイツだ。
とまあその辺のやり取りは当人同士に任せるとして、オレもデモンズハートを拾い上げてみる。
妖艶な……とでも言おうか。
デモンズハートの放つ光はヒュージガーゴイルの核だった時より禍々しさが薄まったように感じる。それでいてどこか人を魅了してくる不思議な輝きだ。
が、やはりミゲルと同じように何かが起こる様子はない。
やっぱりこれで終わりなのか?と思いかけて、《鑑定》しようとしていたことを思い出す。詳細なアイテム情報を得られるのは《魔導技師》…いやこれは《調合士》の特権だ。早速オレはデモンズハートを《鑑定》してみることにした。
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名称 :デモンズハート
ランク:イベント
価格 :-
効能 :デモンズハートの儀式に使用する。
人族は使用出来ない。フェイクアミュレットを
デモンズアミュレットへ進化させることが出来る。
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なるほど。そういうことね。
フェイクアミュレット自体が仮想魔族ってことだな?フェイクアミュレットは身につける魔族ってことで、これをデモンズアミュレットに進化させることが、冒険者にとってのデモンズハートの儀式に相当するってことだ。
これでどうやらNPC賢者イムリが言っていた《魔族因子を取り込む》ことがなんとか出来そうだ。
オレが鑑定結果を皆に伝えると、それぞれアイテムボックスからフェイクアミュレットを取り出してデモンズハートと触れさせた。
するとメルグのときのようにデモンズハートが発光し、溶けるようにアミュレットに吸い込まれていく。そして静かに光を放っている状態となり、少し経つとその光は消えてしまった。
その状態でオレがアミュレットを《鑑定》するとアイテムはしっかりデモンズアミュレットへと変化していた。
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名称 :デモンズアミュレット
ランク:イベント
価格 :-
効能 :魔族因子を取り込んだ宝珠をあしらった装飾品。
身につけることで魔族になることが出来る。
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うん。問題無さそうだ。
フェイクアミュレットの時は『偽装』していたはずだが、『魔族になる』と明記されてる。
てことはあれか?メルグが言っていた《魔力感知》とやらが出来るようになるのかな?まあそこまでは実装されていなくても文句言わない。ただのイベントアイテムだしな。
とか思いつつ期待を込めてこっそり装備してみたが、元の墨汁ブラックの世界に戻るだけだった。残念ながらこれでは行動出来ないので、オレはすぐに外してアイテムボックスへとしまう。
すると、目の前で倒れていたメルグからも光が消えていく。どうやら無事に儀式が終了し、安定したということに違いない。
『アタイはオマエラに助けられたのだな?礼を言う』
オレたちは無事メルグを助けることが出来たようだ。良かった良かった。
じゃあ戻ろうということで、オレ達はメルグと共に《暗黒の洞窟》を歩いて出ることにする。
迷宮脱出の出番は今回も無さそうだ。迷宮脱出で出ちゃったらクエスト報酬を受け取れなさそうだし、それを使わなくてはならないほど複雑なつくりでもなかったからな。
帰りの途中でクエストをくれたNPCと会話すると、お礼をするのでぜひブシュフォルのNPCの家を訪れて欲しいとのこと。
オレたちは闇の洞窟における全ての冒険を終えて、帰路についた。
……もちろん闇の世界を出る直前にこっそりデモンズアミュレットを身に着けることは忘れなかった。
出た瞬間メルグ達と戦闘とか嫌だからな。




