第202話 鷲獅子戦
鷲の魔物相手の対空戦が始まったあたりから、理由は分からないが鷲獅子は上空に留まったまま攻撃を仕掛けてこない。
いやまあ仕掛けてきたところでオレ達が大変になるだけなので、ありがたい話ではあるんだが実に不気味だ。
手下の鷲の魔物をけしかけておいてオレ達の戦力分析でもしてるのだろうか。そうだとしたらあまり手の内を晒したくはない。
……などと言ったところで、鷲の魔物の猛攻だけで充分に余裕がないオレ達には、残念ながらいまさら手の内等何もない。ともかく早いところエルナとミゲルに戻ってきて欲しいところだ。
オレ達パーティに奥の手があるとしたら、あの二人の存在そのものが奥の手であると言っていい。
げいるの火矢のお陰で、幸いにも少しずつ鷲の魔物は数を減らしてきている。
相変わらすオレのクロスボウは直前で躱されてばかりだが、その躱された直後にこそ隙があるようで、げいるはそこへ魔法を狙い撃ちしていた。
ここまでオレのクロスボウが的を外したことなどないし、有効な攻撃手段がげいるの魔法だけ……これまでで一番窮地に立たされていると言っていい。もしオレ達の戦闘の様子を鷲獅子が視て分析していたとしたら……真っ先に狙われるのはげいるだろう。
げいるが落ちれば、オレ達に有効な攻撃手段がなくなる。そう視えているはずだ。
そう考えていたオレは鷲の魔物への狙撃を続けつつも、上空に留まったままの鷲獅子の動向から注意を逸らすことはなかった。
だからこそ気づけたのだ。音も無く降下してきた鷲獅子が大きな口を開け、その奥に小さな炎の揺らぎが見えたことに。
(炎の息!)
パーティに注意喚起をし、鷲の魔物と交戦中の皆とともにあの炎を回避する時間もゆとりもない。アイテムボックスに突っ込んだオレの手には魔力障壁。
……正直、これは賭けだ。
魔力障壁の絶対防御は、当然のように魔力による攻撃にしか効果がない。
鷲獅子の炎の息が物理攻撃であるとは思えないが、魔力攻撃以外の属性扱いであったとしたら高級魔導具の無駄遣いであるだけでなく、規模と威力によっては全滅しかねない。
通常であればそんな綱渡り判断をしないのだが、使おうが使わなかろうが食らったら全滅の可能性があるのであれば、使ってみる価値はある。ダメで元々……そんな思いがオレを突き動かした。
アイテムボックスから引き抜いたその手で魔力障壁を地面に叩きつける。
オレが魔力障壁を発動させたタイミングと、鷲獅子から放たれた炎の息が、オレ達を包み込むのがほぼ同時だった。
視界が真っ赤な炎の海に包まれ、オレ達を襲っていたはずの鷲の魔物たちまで、鷲獅子の炎に巻き込まれ一瞬で燃え尽きる。
「あ……あぁ!なんだど?!」
突然の視界の変化にペタリと尻餅をつく猫。
回復魔法を猫にかけ続けていたスフィアも、その動きが止まっている。そう、オレ達は炎を食らっていないのだ!足元に現れた魔方陣が柔らかい光を放っている。
「効いたぞっ!」
オレは思わずガッツポーズをした。賭けに勝った!
発動させた魔力障壁は、見事に鷲獅子の炎を遮断してみせたのだ。イルグラードにおいて炎の息は魔力攻撃扱いで間違いないようである。
「……魔導具」
唯一、何が起こったのか理解していそうなげいるが、一言ボソッとそう呟く。
そのとおりさ!と自慢したい気持ちをグッと抑えつつ、オレは上空の鷲獅子に視線をやった。
あれほどの威力の炎の息を放ったのだ。全滅……もしくは少なくともオレ達全員が大ダメージを食らうと考えていた筈である。
それ予想が大きく外れ、オレ達が無傷であると認識したときの行動が怖い。恐らくだが、想定外の事態に対してAIを搭載した鷲獅子であれば、即座に次の攻撃行動に移るはずだからだ。
『キシィィィッ!』
炎が消え去った森の中に耳障りな鳴き声が響く。思い通りにならなかったことに対しての鷲獅子の苛立ちであろうか?
鋭く尖った嘴を天高く掲げた鷲獅子から、鳴き声が発せられていた。身の毛もよだつ……とはこういう状況であろうか。鳴き止んだ鷲獅子が真っ直ぐにオレ達の方を睨みつけた。
直後、鷲獅子は鉤爪を立てて急降下。マズい!躱せない!!
オレ達は咄嗟に防御姿勢を取るのが精一杯だった。が、誰も攻撃を食らっている様子はない。
鷲獅子自慢の必殺の一撃は、オレ達の前に割り込んだ一人の冒険者によって阻まれていたのだ。
「エルナッ!」
「ごめーん!遅れちゃった!」
頼もしい背中とは対象的に、エルナから緩い返事が返ってくる。
オレ達との間に割って入ったエルナは、猫特製の刀二振りを駆使して鷲獅子の突進と鉤爪を止めていた。鷲獅子の鷲の表情から読み取れる情報は少ないが、しばらく動きが止まっていることからエルナの技に驚いていてくれてるのかも知れない。
「二刀流なんて出来たんだ?」
「ううん?出来ないよ?とにかく止めただけ」
「うらぁっ!」
だが、この停止した鷲獅子の隙をついて、ミゲルが背後からバトルメイスを振るった。チャンスを見逃さないところはさすがだ。
『ギィヒィィィァァァァァ!』
ミゲルの渾身の一撃が鷲獅子の胴体にクリーンヒットし、その衝撃で鷲獅子の腰が砕けると共にあの耳障りな鳴き声が上がる。
戦闘開始の雄叫びと違って濁った鳴き声だ。効いてる証拠だ。
そして体勢を崩した鷲獅子に向かって今度はエルナが刀を振るう。
鷲獅子は万全の体勢ではなが、エルナの攻撃に前脚の鉤爪を合わせ打ち落とそうと振るってきた。
先ほどの交戦の結果から想定出来る限り、両者の攻撃は拮抗していた。つまり、何も無ければエルナの攻撃は鷲獅子の思惑通り、鉤爪の一撃で止まる筈である。
「ここよっ!《影抜》!」
ここでしかないという最高のタイミングでエルナは銘刀『白虎』に秘められた奥義を発動させた!
エルナの振るった斬撃は、鷲獅子の鉤爪と交錯する瞬間にフッと薄くなる。『ワープしている』と表現してもおかしくないレベルで障害物である鉤爪をすり抜けると、そのまま鷲獅子の左前脚を叩き切った。
スローモーションのように宙に舞う鷲獅子の脚。
『ギィジィィィ!ギシャァァァァァ!』
前脚を失った鷲獅子は耳障りな悲鳴を上げ、そのまま上空に逃れるべく羽根を広げて飛び立った。
「逃さぬ……拘束」
逃れようとした鷲獅子向かってげいるの魔法が襲いかかる。そして鷲獅子の身体は空中で強制停止した。
それ以上鷲獅子の身体が上空へと舞い上がることはなく、そのまま墜落した。
「勝負アリね!」
そう言って墜落地点に走り込んだエルナは、完全に動きを止められている鷲獅子の首を飛ばし、鷲獅子との激闘は幕を下ろしたのだった。




