第201話 陽動
SIDE エルナ
猫さんたちと一緒にレベル上げしてたらログインしてきたファクトと合流できたから、みんなでストーリー進めるために王都とかいう街に出発したんだ。
そしたら途中で魔物がたくさん襲い掛かってきた。
特に強い敵じゃなかったから『負けそう!』とかそういうのは全然なかったけど、とにかく多すぎて面倒くさい。数倒すより、少なくても強い敵と戦った方が絶対楽しいよねっ!とわたしは思うんだけど、でも出てきちゃうんだから仕方ないか。
そんな感じで戦ってたら、ちょっと強い敵が出てきた。見た目は大きな熊ね。
《魔物鑑定》で見たら『グリズリー』っていう名前みたい。適当に切ったら倒せるかな?と思ってたら、思ったより機敏で躱されちゃった。熊ってやっぱり強いんだと思ったよ。甘く見たらダメね。
戦いが専門のわたしやミゲルは普通に戦えてたけど、ファクトや猫さんにとっては少し厳しい敵みたい。猫さんだって前衛役として充分戦えるのにね。
だったらわたしが頑張らなきゃ!
熊の攻撃で気をつけなきゃいけないのは、二足立ちした熊の腕から振り下ろされるやつ。これだけはわたしも受けるのはやばそうだったので、避けちゃった。熊の必殺技なのかもしれない。でも躱せるなら問題ないかな。ファクトのドーピングを使わなくても大丈夫な速度だったし。
ていうか刀を抜いているだけで、いままで使って動いていたのと同じくらい身体の軽さを感じる。多分これが剣士職の恩恵なのね。
刀を腰に差してるだけだといつも通りだったから、きっと間違いない。これでドーピング出来たらどれだけ動けるんだろう?と考えたらドキドキする。早く試してみたい!……けど熊レベルじゃもったいないかな。もっと強敵でないとね。
そんな熊の魔物も5、6匹倒したら居なくなっちゃった。見かけ倒しかな。
とか思ってたら、今度は豚の大群に襲われた。……間違えた。豚の顔をした人?だ。鑑定したらオークっていう魔物みたい。よく見るといろんな名前のオークがいたんだけど、そんな細かいことを覚えてられないくらいの数に囲まれちゃった。あっという間だよ。
戦った感じ熊よりは全然弱いけど、とにかく数が多くて大変。
どんなに後ろのファクトたちのところへ行かせないように頑張っても押し切られちゃいそう。そう思ったらミゲルが壁を作る陣形指示を出してきた。みんな考えることは一緒ね。わたしが思いついたくらいだから、ファクトも考えていたんじゃないかな。
ミゲルと猫さんが主に左に構えて、盾を使って群れを押しとどめる役。とはいってもよく押し切られずに留めることが出来てると思う。わたしだったらまちがいなく無理。
あとから聞いたらこのときミゲルはファクト印のドーピング使ってたっぽい。だから力で押し返すみたいなことが出来てたのね。ちょっと納得。
それにしても、次から次へと続々と襲い掛かってくるオークの群れ。本当にどこからこんなにやってくるんだろう?ゲームだからって言っちゃったらそれまでだけど、これだけリアルに作られてるんだから、そういうところ気になるよね。
とか考えながら豚人間を倒してくわたし。人型とかちょっとやりにくいけど、AIのあのムキムキと同じだと思えば大丈夫。強さは全然違うけどね。
ときどきげいるの魔法が飛んでくるけど、彼も上手いので全然わたしの邪魔にならない。凄い……と素直に思う。
と、突然オークの群れのど真ん中に、げいるの最強魔法が炸裂した。
この魔法視たこと……あれ?あったっけ?使ったことを聞いただけかな。わたしは多分首なしのボスで精一杯だった気がする。多分あのときだよね。
これ、凄い魔法だね。
あんだけいたオークのほとんどが黒焦げになっちゃった。残ってるのってあと数匹?
「っく。やっぱりとんでもねぇな。げいるの魔法はよ!」
ミゲルの声だ。
声の方を見ると、ミゲルが得意のバトルメイスを振りかざして散り散りに逃げ惑っているオークの群れの中へ突撃してった。残党狩りってやつ?
多分盾でずっと守りしてたから、鬱憤が溜まってそう。
でもね。こういう攻撃チャンスに、アタッカーのわたしが活躍しなくてどうすんのよ!
「わたしだって!」
ミゲルの後を追いかけるようにわたしはオークの群れに飛び込んだ。
そして目についたオークを片っ端から切り倒していく。なんかあまりにも一方的でわたしたちの方が悪役みたい。だってわたしやミゲルからオーク達が一斉に逃げていくんだもの。それを追いかけて斬って殴ってって……ねぇ。完全にわたしが悪者じゃん。
気づいたら、結構奥まで進んじゃってた。ファクトたちと離れ過ぎちゃったかな?
もうオークには随分前から戦う気力なくなってるように見えるし……ってか、そのわりに全力で逃げてるってわけでもないし。てことはアレ?もしかして誘導されてる?!
わたしの脳裏にそんな考えが浮かんだ直後のことだった。フレンド通信越しにファクトの救援要請が飛び込んで来たのは。
『エルナ!すぐ戻ってくれ。新手だ』
悪い予感が的中した。
オーク達はわたしたちに怖れをなして闇雲に逃げ惑っていたわけではなかったのだ。……いけない!ファクトの所には前衛が猫さんしかいないじゃない。ミゲルはわたしよりさらに先までオークを追いかけて入ってしまっている。声掛けただけじゃ……届かないよね。
わたしは完全にオークを追いかけるのを止めてフレンド通信を操作した。ファクトと違って戦いながら操作出来るほど器用じゃないもの。
『ミゲル!ファクトのとこが危ない!戻ろう!』
『おぅ!今スフィアからも連絡があった。完全にハメられたわ!エルナは一人じゃ戻れないだろ?着いてこい!一緒に戻るぞ』
すぐにミゲルから返事が返ってきたことにホッとしたけど、戻れないとは失礼な……と言いたいところだけど、最近は方向音痴なのかもしれないと思ってる。ファクトもわたしがそうだって言うし。
ちょっと待ったら奥からミゲルが現れた。
武器はもうしまってあるようで、手ぶらでの登場だ。
「もどんぞ!グリフォンが出たらしい!」
「グリフォン?」
わたしは記憶を探る。
聞いたことあるようなないような。ないようなあるような?
「わかんねぇか?伝説上の生き物だ。イルグラードじゃあどうだか知らんが、他のゲームだと途中のボスとして設定されることがあるし、少なくとも弱えぇ敵だとは思えねぇ。急ぐぞっ!」
ミゲルの声に余裕がない。
表情もいつになく真剣だ。それだけ切迫した事態なのだと理解したわたしは、それ以上なにも聞かなかった。結局大急ぎで戻ることには変わりないし、急いで戻りたい気持ち自体は揃っている。
それならそれでいいとわたしも思った。
『ガァァァァ!』
そして戻るにつれてわたしたちにも耳馴染みのない鳴き声が聞こえてくる。
わたしは見た。
グリフォンという鷲と獅子が混ざった迫力ある魔物が、手下と思われる数匹の鷲の魔物が上空から編隊を組んで波状攻撃を仕掛けているのを。
「これ。そうとう頑張ってもどらないとヤバいかも!」
すでに戻るべき方向を見定めたわたしは素早くドーピングをすると、刀を抜いた状態で全力で走った。
ミゲルと景色をあっという間に追い越していく。そしてぐんぐん大きくなってくるグリフォンの影と不快な鳴き声。その先で小さな陣形を組んで必死に戦うファクトたち。周囲には鷲の魔物であったものが、既に翼をもがれて大地で痙攣している。
「たぁぁぁぁぁっ!」
わたしは刀を構えてグリフォンとファクトの間に飛び込んでいった。




