第20話 蜂
オレがレシピ板をステータスに重ねると、最初の時のようにレシピ板が消えてなくなり、レシピ欄に一つ項目が追加された。それを待っていたかのように、クリエラがオレの視界を遮ってのぞき込んでくる。
「いや、見えねぇだろ」
『えっ!ファクト、これ当たりかもっ!』
オレのステータス表示に釘付けになっているクリエラ。そろそろオレにも見せてほしい……が、興奮するクリエラの頭はオレとオレのステータスの間に見事に収まっている。
「いいからオレにも見せろって」
クリエラの頭を力でどけると、ステータスのレシピ欄を確認する。そこには『ブーストLV2』という文字が追加されていた。調合素材を確認すると、そこには『回復薬小×4、蜂蜜×2』と書いてある。
『ファクトッ!これは絶対に当たりだよっ!ブースト系アイテムって《調合》でしか手に入れられない調合士の専売特許アイテムなんだよっ?店にも売ってないしっ!』
クリエラの言う通りであれば、これは本当に希少なアイテムである。
オレのような調合士がもし徒党を組んで価格操作したら、あっという間にプレイヤーを獲物にできそうである。それがいいかどうかは別として、旨味を得られるかどうかは、このブーストLV2が、他プレイヤーにおいて喉から手が出るほど欲しくなるアイテムであることが前提だ。
「で、こいつはどんなアイテムなんだ?調合しないと効果がわからん。あと、材料の蜂蜜ってのはどうやって入手する?店売りではないんだろ?……まさか蜂の魔物か?」
『一度にいろいろ聞かれても答えられないよっ!えっと、じゃあまずはアイテムの効果ねっ!細かい条件は覚えてないけど、一定時間ステータスを上昇させるアイテムだよ。だから……』
「なるほど、ステータス増強系のバフアイテムってことか」
『むぅ……またファクトはボクの説明中に入ってきて!』
クリエラは不満そうだが、延々と説明を聞き続けるより知りたいことだけ理解できればいいのでここは我慢してもらうとしよう。
そして、このアイテムが戦闘系プレイヤーがどうしても欲しくなるアイテムかどうか……は、詳細の効果がわからなければどうしようもない。
「蜂蜜の情報も聞きたいんだが?」
『む!最後まで聞いてくれないならボクは説明しないもんっ!』
しまった。クリエラが怒ってしまったようだ。子供みたいな拗ね方ではあるが、ここでクリエラの機嫌を損ねるのは本意ではない。
「わかったよ。すまなかった。ちゃんと説明を聞こう」
『本当っ?絶対だよっ?!じゃあ、さっきの続きから説明するよっ!』
ちょっと疑いの視線を向けていたクリエラだったが、すぐに上機嫌で説明を再開した。
『で、そうそうっ!ブースト系アイテムはねっ、効果にレベルがあるんだっ!レベルの数値が低いアイテムは上昇値が小さいけど、効果時間がわりと長いんだっ!でねっ!レベルの高いアイテムは、上昇値は高いけど持続時間が短いよっ!これはちゃんと覚えておいてねっ!』
オレはクリエラに心の中で謝っておいた。この情報は聞いておくべき内容だった。途中で端折ろうとして本当にごめんなさい。
「ということは、今回のアイテムのLVは2だから……?」
『今回覚えたブーストはLV2だから、効果も持続時間も普通かなっ?!実際の効果は調合して確認してみてねっ!』
クリエラの説明で説明以上に分かったことがある。おそらくレベルは三段階。
そして、LV2は一番中庸な効果で、どっちつかずのアイテムであるだろうということだ。クリエラは『当たり』だと言ってくれていたが、それでも恐らく使い勝手のいいのは1と3だ。この辺がオレの運の悪さが実力発揮したといったところか。
「だいたいわかった。アイテムについての説明はこんなところか?そしたら次は素材についての話を聞きたいが」
『オッケーだよっ!回復薬小……は、説明いらないよねっ!自分で調合してねっ!で、問題は蜂蜜だけど……これは100%魔物ドロップアイテムなのさっ!』
やっぱりそうなのか。
ということは、これを安定して調合するためには蜂系モンスターをそれなりに討伐する必要がある。……虫は嫌いだってのに。オレは大きくため息をついた。
『あれれっ?あまり乗り気じゃない?魔物ドロップは数に制限ないからオススメなんだけどなぁ……?』
クリエラが不思議そうにしている。
「虫がな……好きじゃないんだ。あの羽音とか鳥肌たつ」
特に蜂など羽音が大きい印象がある。魔物というからには、対象の魔物はそれなりにデカいはずだ。……ますます嫌だ。
『じゃあ!この機に好きになっちゃおう!』
「なんでそうなるんだよっ!」
『だって美味しいよ?魔物倒すだけで素材が手に入ってレベルも上がるんだよ?』
AIに『美味しい』なんていう感覚が本当に分かっているのかどうか知らないが、ゲーム的にはクリエラが正しい。イルグラードのようなリアル性の高いゲームじゃなければ、何も迷わずにオレは嬉々として飛びついているだろう。
だがそこはそれ。
ここまでリアル性、再現性にこだわっているのであれば、蜂もそれなりにそれっぽい敵になっているはずである。
『まぁいいやっ!情報だけ教えるねっ!ここから一番近くて『蜂蜜』を落とす魔物は、えっと……そうそう。《あやかしの森》で巣作りをしている《キラービー》かなっ!』
「やっぱり蜂じゃねぇかっ!」
『ファクトにあげたクロスボウとか、かなり相性がいい敵のはずだよっ?遠くからビシッて倒せばいいだけだし』
簡単に言ってくれる。
仮に一匹二匹をそれで倒したとして、もし近くに巣があったら残りの全羽が一斉に襲ってくるだろう。蜂とはそういう生き物だ。恐らくキラービーとやらの習性も同様に設定されているに違いない。
「蜂の討伐はそんなに簡単じゃないだろ?集団も怖いが、個体一匹だけでもそれなりに強いんじゃないか?」
『そうねっ!それなりに強いよっ!でもね、ファクトが倒したゴブリンソードとそう変わんないと思うよっ!討伐推奨LVは5~だからねっ!』
まあ、妥当な強さだ。
ゴブリンソードを倒して得られるレシピ。それに必要になる素材が取れるのだから、そう意外な敵の強さというわけでもない。問題はやはり群れた時の数とその恐ろしさだ。
「他に蜂蜜落とす魔物はいないのか?」
『いるよっ!!クイーンビーに、キングホーネット。あとは強いところでデスホーネットとかも落としたと思うよっ!』
「全部蜂じゃねぇか……」
当たり前といえば当たり前の話だ。ひどく気が進まないが、これが調合士のアドバンテージに繋がるのならやるしかない。
『がんばってねっ!』という気楽そうなクリエラの応援を背中に受けつつ、オレは調合士ギルドを出た。
向かう先は《あやかしの森》だ。
正直LV3で足を踏み入れていい森とは思えないが、装備はいいものが揃いつつあるので、あまりローリスクでプレイし続けているのも面白くない。出来ればパーティを組んで行きたいところだが……。
《あやかしの森》に向かう仲間を求め、戦士ギルドの方向に向いていたオレの歩みが止まる。猫から伝えられた言葉を思い出したからだ。
……「生産職は役にたたねからパーティさ組めねえ」……
そんなことはないはずだ。
もちろん直接的な戦闘効果はなくとも『イルグラード』がゲームである以上、プレイ次第で貢献する事が出来る筈である。もちろんテスト中のゲームなのだから、ゲームバランスが合っていないことはあるだろうが、そんなことは見越した上で直接戦闘が出来ない職の方に気を遣い、かえって強く設定しすぎている可能性すらあるのだ。
(やってもみないウチに否定されてたまるか)
オレはまずパーティを組むに当たって、今できることは全てやっておこうと思った。
まずは装備を整えることだ。
それなりにイイ装備を所持していることは猫のお陰で知ることが出来たが、とりあえず装備出来る部位の全てを身につけているわけではない。盗賊から奪ったような特殊効果装備はないにしても、今用意出来る最高の装備を集めておくことは生産職としてのパーティ仲間に対しての礼儀にあたるだろう。
戦闘で目に見えて役に立つことを見せられないなら、全力を出してプレイしていることくらいその辺でアピールしておきたいところだ。
手持ち金はクエストのお陰でそれなりに集まった。鍛冶ギルドでならそこそこ装備品を集められるだろう。
オレは直近の目的地を戦士ギルドから鍛冶ギルドへ変えて歩き出した。
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名前:ファクト
性別:男
種族:ドワーフ
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職業:調合士
LV: 3
腕力:12+6(STR+50%)
活力:16+8(VIT+70%)
敏捷:10+5(AGL70%)
器用:27
魔力: 3
運 : 3
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武器:ハンティングダガー(STR+12):即死効果50%
盾 :
サブ:クロスボウ(STR+10):命中精度80%UP:調合士装備時
弾 :ウッドボルト(STR+5)
頭 :
胴 :ハードレザージャケット(VIT+12):毒無効
下肢:
足 :ハードレザーブーツ(AGL+10):移動速度20%UP
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所持金:
2,040G
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固有スキル
調合
アイテム鑑定:調合士
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修練スキル
虫の知らせ
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レシピ
回復薬小
ウッドボルト
ブーストLV2
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受注クエスト
回復薬小の納品(束)
新作武器の材料調達
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