第19話 新しいレシピ
『さすがっ!私のファクトッ!ちょっと待ってね』
ますます上機嫌のクリエラ。
別にオレはクリエラのものじゃないが、未だに担当する調合士がオレ一人で寂しいのだろうと生暖かい目で返す。
『じゃあ!ここに手を置いてくれるかなっ?』
「なんだこれは?」
クリエラが取り出したのは、占い師が持ってそうな水晶玉……のようなもの。
うっすら光を放っているのでいわゆる水晶玉とは違うようだが、その違いさえ無ければ見分けもつかない。ご丁寧に座布団のようなクッションの上に置かれているせいで、余計にそう見える。
『これはね、ファクトの戦闘記録を確認する事が出来る装置だよっ!クエスト討伐の条件を満たしているかどうかを判定してくれるんだっ!……残念ながら調合士ギルドだけに置かれている特別製ってわけじゃないんだけどっ!』
相変わらずクリエラの笑顔は一切崩れてないが、声のトーンは本当に残念そうだ。
だがクリエラのいうような目的で置かれているのなら、調合士ギルドにだけ特別に置かれているようなものでないのは当たり前の話だ。全ギルドに置かれているのが当然の装置であるわけで……。
「ゴブリンは3匹討伐した。だからまあ安いが60Gだろうと思う」
オレは改めてゴブリン討伐のクエスト条件を確認する。
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件名 :ゴブリンの討伐
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依頼者:商人ギルド
内容 :ゴブリンを討伐すること。
期限 :無制限
回数 :無制限
条件 :1体単位で討伐報酬を支払う。
報酬 :20G/体
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『あれっ?!でも、戦闘記録には討伐数が2匹になってるよっ!おかしいなっ?ファクトが嘘つくはずがないしっ!なんでだろ?』
ん?討伐数2匹?……そこでオレは猫の言っていた言葉を思い出す。猫は確か『ゴブリンソード』とか言っていなかっただろうか。
「あぁ、そうか。もしかしたら一匹は『ゴブリンソード』とかいう上位種だったかもしれん。もしかしてクエスト条件から外れてしまうのか?」
『ゴブリンソード??……あ、ほんとだっ!ゴブリンソードに討伐数1匹がカウントされてるよっ!って、嘘でしょ?ファクトはレベル1だったよねっ?』
「というか一番最初に倒したぞ、そいつ。で、今はレベル3な」
クリエラが絶句している。珍しい。ピクピク小刻みに震えているのが見ていて面白い。
ただまあ、俺も若干オカシイとは思う。
猫も言っていたが、ゴブリンソードは上位種扱いのモンスターだ。少なくともプレイを始めて最初に倒す魔物ではない……とは思う。
『ゴブリンソードはねっ、討伐推奨レベルが5以上なんだよっ!あ!そうだっ!!』
相変わらずクリエラ先生は騒がしいことこの上ない。
突然素っ頓狂な声を上げたかと思うと、いつものようにカウンターの裏をガサゴソやっている。そして取り出したのは、一枚のクエスト板だった。
『あ!大丈夫そうだっ!ファクトッ!すぐにこのクエスト受けてくれるかな?』
「ん、なんだそれは?」
『受ければわかるって!』
なんとも無責任な説明だが、ゴブリンと同じような無制限討伐クエストなのだろうと確認してみる。
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件名 :(条件)ゴブリンソード討伐
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依頼者:黒魔法使いギルド
内容 :ゴブリンソードを討伐すること。
期限 :不定期
回数 :1回
条件 :レベル4以下での討伐
報酬 :ギルド別指定
コメント:戦士タイプのゴブリンの上位種が徘徊しており、駆け出しの黒魔法使いにとって非常に危険な存在です。討伐による早急な排除を依頼します。
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「あれ、ちょっと普通のゴブリン討伐クエストとは違うな。コメントとか書かれてるし」
『そうだよっ!これは条件討伐クエストって言って、一定条件下での討伐のみ報酬がもらえるクエストさっ!しかもだよっ!一定期間に1匹しか現れないレアモノでもあるから、条件に該当するプレイヤーで取り合いになるんだっ!本当は、レベル3~4くらいのプレイヤーがパーティを組んでやっと倒せる相手なのに……?!ファクトは大物の予感がするねっ?!ま、ボクは知ってたけど!!』
ちょいちょい話を盛ってくるのと根拠のない知ったかぶりがやや気になるが、褒めてくれているのは悪い気はしない。驚き半分といったところなのだろうが。
『でもさっ!そんな相手をどうやって倒したのっ?』
クエストを受注し、クリア確認をしようとするオレにクリエラが興味津々で話し掛けてくる。
「あぁ、そうだな。倒せたのはクリエラのお陰だよ」
『え?!ボクのっ?』
オレはアロエ採集の帰りに、草原でゴブリンの群れに強襲されたこと。逃げられないと判断して意を決したオレは、先頭の武闘派っぽいゴブリンに向けてクロスボウで射かけたところ、ドンピシャで眉間を射貫いて討ち取ったことを告げる。その後のゴブリンに関しては……いまはまあいいだろう。
『いきなり最初の戦闘でクリティカルヒット?!』
「……そういうことなんだろうな。どちらにしても、クリエラから受け取ったクロスボウがなかったら勝てなかった。そういう敵だった。命中補正もついているようだし、こういう高性能クロスボウなんて、本来レベル1のプレイヤーが所持している武器じゃないだろ?それが功を奏したんだろうな」
『……』
オレの説明を聞いていくうちに、笑顔のままクリエラの顔色が悪くなっていった。ここで漫画的表現をするとしたら、要するに顔の一部に縦線が入るアレだ。
『バ、バランス崩しちゃった……?これはボ、ボクが叱られるパターン?』
わかりやすくワナワナと手を震わせるクリエラ。
「大丈夫だろ、今はクローズドβテスト中なんだろ?だからそもそもバランスなんてあってないようなもんだ。今回のオレのようなパターンは、イレギュラー事例の一つとしてナレッジにたまるだけで大きな問題にはならないと思うが?」
『そ……それなら嬉しいけどっ』
ホッとした表情を見せるクリエラ。イルグラードの世界を統括するAI女神ヘレネは、どうやらアレで鬼上司のようだ。
ソフト開発をしている身としては、こうしたイレギュラーが多い方がテストパターンの網羅性に繋がるので、テストプレイ中の今であるならむしろ歓迎される事態なのではないだろうか?
「ところでさ、報酬は結局何になるんだ?ギルドによって違うってことだから、調合士ギルド専用の報酬になるってことなんだろ?」
浮き沈みの激しいクリエラにオレは質問を投げかけた。
『は!そうだ。忘れるとこだったよ!』
クリエラはいつもの場所、つまりカウンターの裏をゴソゴソ探している。
報酬を忘れられてはたまらんぞ……まぁオレが覚えていればいいことかもしれないが。何度も言うがクリエラのうっかりスキルとは上手に付き合っていきたいところだ。
『はいっ!どどーん!これが報酬だよっ!なんとっレシピ板さっ!』
どどーん!バーン!などと効果音を発声しながら、クリエラがカウンターの上に細長い板……そうまだ何が覚えられるのか分からないあの細長い板を置いた。
「おぉ、これは素直に嬉しい。オレに運は……ないが、無いなりに数引かなきゃいいのには当たらないだろうしな」
『前も説明したけど、ランダムだからねっ!頑張っていいの引くんだよ!いいのもしょぼいのも基本的には同じ確率で引き当てられるからねっ?影響するのはステータスの運の値だけ!値が低い今は、どれでも同じだと思って大丈夫さっ!いいレシピの当選確率が低くてとかそういう確率操作は一切してないから、純粋にファクトの引き運だけだよっ!安心して引いていいよっ!あとはねスキルが被ることはないから、必ず新しいレシピが得られるのはイイよねぇっ!それからそれから……』
この勢いでクリエラに話されると、いつまでたっても話が終わりそうにないので、分かった分かったと手でクリエラを制した。
そして改めてレシピ板と呼ばれる細長い板を見る。
これまでのレシピ習得は、初回は『回復薬小』次は『ウッドボルト』と内容が決まっているものばかりであった。そう言う意味では今回のスキル習得こそが真の一回目とも言える。
(頼むぜ……いいの出てくれよっ!)
この世界の神は女神ヘレネ。
オレは女神ヘレネに神頼みをしながらレシピ板を取り上げ、おもむろにステータスを開く。
(いけっ!)
オレはレシピ板を勢いよく自分のステータスにかざした。




