大魔女(ヴァルプルギス)4
炸裂した光魔法により、発動起点と思われる第一商店街目抜き通りが『円形に切り抜いた』ように全て吹き飛んでいる。いや、具体的にいえば分解されているが正しいか。建造物に使われる石から木からモルタルから、何もかも、砂の山だ。住人は当然避難済みだが、ここに集まっていた兵隊達は、その全てが消え失せていた。本当に、跡形もない。
残留魔力色は紫。法式は大樹竜聖魔法。イナンナの巫女が使う魔法ではない。しかもこれだけの規模を破壊する威力となると、それこそ粛正魔法クラスである。
空にはぼんやりとした白い影が浮いている。それはヒトガタであり、数はおよそ二〇〇を超える。所謂霊魂だ。ニンゲンを構成する一要素。ヒトの思念の残滓。大体は、数日で消え失せる。
地獄と化したこの空間に命ある者は二人。寸でのところで光魔法を逃れたヨージと、その光魔法を放った張本人だけだ。
「貴女程の外道はなかなか見ない。もう既に、精神はニンゲンじゃありませんね。エルフは数百年も生きない限り老けませんが……どうやって若さを保っているやら。貴女、一体幾つでしょう。五〇〇じゃ足りないでしょう」
「まあ、旦那様。突然女性に歳を訪ねるだなんて、随分不躾じゃありませんか」
「妖怪に何の遠慮をしろと?」
「御尤も。はい、取り敢えず、もう三桁はとっくに、超えていたとは思います」
「エルフはどいつもこいつも……」
病気にならず、事故に遭わず、戦に巻き込まれる事無く生き永らえたエルフというのは、そう多くない。純エルフの寿命はほぼ無いとまで言われるが、長く生きていれば、外的要因で必ず死が訪れる。
それを被らず、ただひたすらに、何かに打ち込み続けたエルフというのは……化け物だ。
アインウェイクのような武人然り。
ヨージの本家、古鷹の当主然り。
このような、魔法を研究しすぎて、おかしくなってしまったような女然りである。
カルミエの目的はずっと不明であったが、ここに来て漸くだが、うっすら見えて来た。
「具体的な目的はサッパリですが、貴女がキシミアの特異性に目を付けて、研究対象にしていたであろう、という事ぐらいは分かります」
「はい。埋没大樹なんていう特殊なものは、とてもユニークでした。そして埋没大樹の全てが死んでいた訳でもありませんでした。キシミアを通るこの根幹魔力帯は、元は埋没大樹が生んだ竜の保有した、占有根幹魔力帯です。竜の死後は半生半死の埋没大樹が引き継いだようですが、何せ死にかけ、殆どが自然の魔力帯に戻っていました」
「(ベラベラ喋るタイプか)それを見つけた貴女は、ずっと狙っていた訳ですね」
「ええ。世に真実を。世界人類に新しい秩序を齎すために」
「うええ……」
カルミエは笑顔だ。その美しい顔を綻ばせ、滔々と夢を語っている。
革命家の類だ。コイツ等というのは、政治だろうと経済だろうと、兎に角目的の為になんだってやる。自分が一番正しいと信じなければ貫けない信念なのであろう。その為にはヒトを殺すし、神を害するし、国は滅ぼすし、竜精にだって喧嘩を売る。
「興味、ありませんか。大樹と竜に。私は本職が考古学者でして……魔法は片手間でしたけれど、何せ長い間やっていたので、もう、ニンゲンの領域には有りませんが。兎も角、知的好奇心が有ります。神エーヴは大変有能でしたから、ここまで来るのは骨が折れました……」
「……イナンナーに木炭化石の粉末をまき散らす、という計画も、その内ですか?」
「まあ。ディアラトったら。喋ったのですか。ええ。他の組織様と、利害関係が一致しましたので、お手伝いしました。大樹『イナンナ』を護る神々が死ねば、私にも大樹を調査出来る機会が訪れますでしょう」
「気の違った研究者型か……信仰で狂った奴の、何倍も面倒だな……」
「ディアラトは残念でした。でも、旦那様、貴方が悪いのです。貴方達が計画をひっかきまわさなければ、もっと穏便に運んだのに。ディアラトも、死なずに済んだかもしれないのに」
「そういう相手に罪悪感を埋め込むような語り、僕には効きません。むしろこちらの専売特許でしてねえ」
「そうでした、そうでした。宗教家ですものね」
「なるほど、大体わかりました……それで、もう一つ聞いても?」
「はい。なんなりと、旦那様」
「利害が一致した組織、というのは、バルバロス商会で間違いありませんか」
「さて、どうでしょう」
「チッ」
「ふふっ。誘導はされません」
「どうせ僕は助からないでしょうし、冥途の土産としてどうでしょう」
「エルフが他人のエルフを信用するのは、ベッドの上に居る時だけ。子供が出来る時期か否か、ぐらいなもの。私が言うのも何ですけれど、エルフは何を隠しているか、分かったものではありません。果たして今の貴方にとって、ココが死地なのか、解りませんから」
「いやいや。魔法が使えないエルフなんて片手落ちも良いところです」
「何にせよ、とても邪魔である事に違いは有りません。賛同して頂けないならば、処理するまで。さあ、お眠りください」
抜刀。
会話で時間を稼ぐのも限界が有る。
ヨージが取れる行動は『何も準備しなかった場合』多くない。
一つは何合かやり合い、弱点もしくは限界を把握して離脱。
一つは防戦一方で時間を稼ぎ、キシミアの上層部が退避する頃を見計らって離脱。
一つは、女皇龍脈を発動、殺傷。
これぐらいである。
兎に角コイツ相手では、現状逃げる以外の選択肢が一つしかない。
女皇龍脈は本当に使いたくないが、例えこのキシミアの根幹魔力帯を掌握されていようとも発動出来るシロモノである為、死なない、という意味では間違いない。
だが、次こそ十全皇はヨージを許さないであろうし、扶桑へ強制送還も有り得る。
所詮は化け物の力を借りているだけの、哀れな能力である。
遮蔽物が減り、キシミアに流れ込んだ風が直接ヨージの身体を撫でる。ヒトが居なくなった廃墟というのは、いつも虚しいものだ。
「右かな」
「まあ」
カルミエは全く動かなかった。ノーモーションで繰り出された魔法の矢はヨージの右側から襲い来るも、しかしヨージはそれを刀で撃墜して、何事も無かったかのように構え直す。
現状使える魔法は全て内在魔力魔法のみである。これから放てる魔法などたかが知れるものの、内在魔力付与魔法ならば、自分の体術を含め、放出魔法よりもずっと有用性が高い。
相手は大魔女。本気になればヨージを押し潰すぐらい簡単であろう。故に……本気にさせず、ある程度を『お付き合い』していただく事が肝要となる。
「足元」
「……ええ?」
地面を縫い、また同じような魔法の矢が足元から噴出して天へと昇って行く。
この程度はまず当たらない。幾ら魔法が使えないとしても、殺し合いで培った勘は衰えてなどいない。
四方八方、あらゆる場所から攻撃を受けても、それを避け、弾き、踏み込んで斬り殺して来た。魔法使いとの戦闘はそれこそ『死ぬ程』慣れている。
「どうしました。光魔法が得意な様子ですけれど、魔法の矢なんて初期魔法で僕が殺せますか?」
「力量は、計っておきませんと。しかしなるほど、ではちゃんと殺しますね、旦那様」
来た。
デタラメな魔力対流を感じる。キシミアの下に眠る根幹魔力帯から急激に魔力を引き上げているのだ。こんな使い方をするニンゲンは存在しない。
これから放たれる魔法は、ヨージを恐らく欠片も残さず消し去るだろう。
絶対に当たる訳にはいかない。
「おっと。退散退散」
「むっ――」
ヨージはカルミエに背を向けて走り出す。内在魔力を支払い、簡易の衝撃魔法を付与、自身にも防御壁を張って、肉食野生動物のような速度でカルミエから距離を取る。
カルミエはふわりと浮くと、何かしらの呪文を唱えながらヨージの追跡を始めた。
速度を乗せた、戦闘経験のある逃亡者を殺そうとした場合、狙い撃ちなど愚策である。故にカルミエは範囲に効果のある魔法を唱える事になるだろう。
範囲に効果を齎す魔法というのはどうしても詠唱が長くなる。手間取れば手間取る程相手は逃げる。本来なら複数の手段……一般的な魔法使いならば魔道具や魔撃銃で、彼女レベルならば無詠唱魔法で足止めしながら、範囲魔法を唱えるべきなのだが……やはり、カルミエは魔法使いとしては大魔女級でも、戦闘はシロウトだ。
「街中に隠れても、区画ごと吹き飛ばしてしまいますよ?」
カルミエが先ほど吹き飛ばした区画から逃れ、建物が密集する場所にまでやってきた。魔力で拡張した声があちこちに反射し、まるで死者の呼び声のようである。いや、死者ならばどれほど良かったか。彼女は生きている上に攻撃まで仕掛けて来るのだから厄介だ。
「まあ、出て来ないのならば、構いませんが」
タイミングを計る。魔力の流れに全神経を集中させる。カルミエが魔法を放つ瞬間に、ヨージは密集地帯を全力で駆け抜けて、魔法の効果範囲から逃れる。
「ぐあ、とんでもないな……――ッ」
真後ろで強烈な閃光が迸る。直視すれば確実に目が焼かれるだろう。光は建物をボロボロに崩し、あらゆる形あるものを残骸に変えて行く。
閃光が収まった所を見計らい、ヨージはカルミエに自身の姿を晒す。
「凄い速度。内在魔力でそれだけの事が出来るのは、やはりエルフだからでしょうか」
「戦闘には慣れていないと見えますね、カルミエ」
「野蛮ですし、私は学者ですから」
「成程。では一つ。戦場に立ったニンゲンは、死なない為に動きます。相手を殺す事によって自身が死なないと分かれば、それに全力を注ぐのです。特に、僕のような死にたくないニンゲンは、殊更その想いが強い。生き残る為に、全力でアタマを回します。あと、根回しもしますし、事前準備は絶対に怠りません」
「それは、ご丁寧にどうも。それで現状、貴方に出来る事が、有りましたか?」
「貴女は意識していないかもしれませんが、ここは貴女が掌握した根幹魔力帯の範囲ギリギリです」
「まあ。では、貴方は外在魔力を使って私に反撃する、という事でしょうか? しかし流石に無謀としか言いようが有りません。確かに、殺し合いはシロウトですけれど、私と貴方では、魔法使いとしての差が有り過ぎる。貴方はそれを賢明な判断であったと思うのですか?」
「いえ、いえ」
「では、何でしょう」
「ここならば、手段も届く、という事です」
「誘導された、と」
「ええ。驕る事なかれ、大魔女」
「何……」
「――ヒナッッ!! グリジアヌッッ!!」
そうして、ヨージは彼女達の名を叫ぶ。
瞬間、カルミエの周囲に複数の魔法陣が浮かび上がった。その青色、独特の文様、ヨージには一切読めない文字の羅列は、『九頭樹異聖魔法』のものだ。
南方に伝わる大樹『九頭樹』の異法。既存の魔法の中でも殊更異質なコレは、つまるところ対応者が少ない。明らかに『大樹竜聖魔法』使いであるカルミエでは、突破に時間を要する。いや、時間など、本当に数秒で良いのだ。一時でも彼女を拘束出来るならばそれで良い。
「九頭樹!? イナンナーの土地で!?」
「七星杓列結界式!! 一号! 二号! 三号発動!! グリジアヌッ」
「次いで四号! 五号! 六号! 七号! ヒナッ、イケッ」
「くっ……!! 鉱物屋と、異邦の神……ッ!」
「戦争というのはですね、カルミエ。数でやるのです。それと、信仰の陣地取りですよ」
カルミエの誘導に備えて、この地域には九頭樹を祖として拝む『クリトル教』の偶像と紋章が複数設置され、供え物まで用意してある。
ここがどれだけイナンナの土地であろうと、一部でも大量に他教が信仰されれば、限定的ではあっても対応する魔法は使用可能だ――その為に、キシミア大学生には一時的に改宗して貰った。
「ぐっ――例え異法だとしても……私に解析出来ない訳がない――……ッッ」
「甘いぞ腐れ巫女ッ! グリジアヌ、固定化しろッッ」
「アンタはもう少し神様を敬えッッ! 固定化ッ」
七つの魔法陣がカルミエを完全に取り囲み、拘束が完了する。ここから動ける奴などそうはいないが、相手が相手だ。これは決定打にならない。拘束するならば、彼女と根幹魔力帯の接続を完全に断たねばならない。
「は、はは。捕らえたとでも? 私を拘束して、どのような意味が?」
「貴女は、自分が用いた手段を、他人が用いるのではないかという可能性について、考えた事はないのですか?」
「……あっ」
絶対的な魔力供給を受ける怪物。魔法も物理も弾いてしまうであろう神をも凌ぐ防御力。
これを、弾き飛ばす為に必要なものは何か。
「放て」
ヨージ、グリジアヌ、ヒナが、拘束したカルミエから全力疾走で離れて行く。ヨージの号令を受けたのは――遠くに光る、鈍色。
キシミア大学兵器開発研究室が保有する、大樹教では御法度に近い『火薬式砲』であり――そして、その砲弾の弾頭に使われているのは――
「貴女が撒いたものです、お返ししますね」
「そんなッ」
ヨージが徹夜でかき集めた、小黒竜から摘出した木炭化石の粉末、その凝固弾である。
魔法炸薬を用いる魔砲である場合、弾頭の木炭化石に魔力を吸われてしまい、発動しない可能性が高いが、火薬式であればそんなものは関係ない。
また砲の命中精度も信用しきれない部分があった為、ヒナとグリジアヌの結界には砲弾を誘導する魔法が編みこまれいる。この距離では、必中だ。
「――――ッッッ!!」
ゴンッ、という鈍い発砲音。それが到達する頃には、既に砲弾がカルミエに対して直撃し、周囲のあらゆるものを巻き込んで、数区画分吹っ飛んでいった。
砲弾は魔法陣結界を突破、その先にあるカルミエの防御壁を切り裂き、漸く炸裂した。
魔法という要素を消し飛ばす物体の直撃である、またその質量からして――カルミエの身体がもはや、原型を留めていないのは確実であった。
「――……」
仕方ない事だ。これを生かしている限り、キシミア四〇万人の命が危うい。誰もがきっと、この事実を正当化してくれる事だろう。
もうヒトなど殺さぬ生を……などと、どだい無理な話なのかもしれない。ヨージに降りかかる災難を避けようと思えば、ヒトとて死ぬ。
ヨージは、元がニンゲンであっただろう肉の塊と内臓片の前で小さく黙祷した。
「自分の撒いた種で自分が死んだんだ。お前が悲しむこっちゃねえ」
瓦礫を越えてやって来たヒナが言う。そう、因果応報だ。彼女はこの木炭化石で一自治区を崩壊させ、そして更には、一国家の破壊を目論んでいたのだから、当然の結末と言える。
「こちらの死体は確認しましたね。ではもう一方を」
「もう一方?」
「ええ、カルミエの死体が見つかった、という報告が、あの光魔法を放たれる前にあったのです。おそらく、部隊を足止めして一掃する為の、幻術か、ゴーレムの類でしょうが」
「成程。どこだ? そういうの確認するのは得意だ」
ヒナを伴い、報告があった区画へと足を運ぶ。あの光魔法で一切合財が吹っ飛ばされているかもしれないが、気になるものは調べなければ気が済まない。
万が一、は有り得る。ましてそれが、あの女ならば尚更だ。
「くそっ! 滅茶苦茶にしやがって……ッ」
元は石やモルタル、木材やレンガであっただろう建材が砂と化した山を何個か越えた先――そこには、半身が無くなった遺体が転がっている。
魔法の効果範囲ギリギリ、線を引かれたような場所の間に、上半身だけが存在した。隙間からまろび出た内臓が実に痛々しい。
「顔は……カルミエですね」
「……――」
「ヒナ?」
「これ……うそだろ……」
「ヒナ、どうしましたか」
「これ……おい、ヤバい。人造生命体だ。毛の一本、爪の一つまで、完全完璧に、ニンゲンでいやがる……あいつ、マジで、ニンゲンが製造できるのか?」
背筋を、寒気が通り過ぎて行く。
人造生命体自体大禁忌であるが、自分とほぼ瓜二つのモノを作れるという、その意味が、あまりにも恐ろしいのだ。
「先ほど、僕達が戦ったものは……本人……です、よね? まさか、人造生命体如きが……あのような大魔法を、連発……出来ません……よね? というか、その判断は、所見で? 魔法で?」
「あ、あ、そ、そうだ。人造生命体に使用する核があったから、所見だ。対抗魔法……あ」
疑わしいモノに対して対抗魔法を行使すれば、その真偽が判断出来る。かなり初歩的な魔法ではあるが、外在魔力を消費するものだ。ヒナは……何度か印を組んで、何も起きない事に衝撃を受けている。
つまり。
「……グリジアヌ! 神グリジアヌッ!」
「あー、なんだよー」
「根幹魔力帯は、どうなっていますか!? 奴本人が消えたなら、無垢の地脈に戻っている筈ですが……?」
「そうそう。その筈なんだけど、魔法、使えないぞ」
「――ヤバい」
根幹魔力帯は、戻っていない。未だカルミエの手にある。
エーヴの言葉を思い出す。彼女はずっと、迫る死の恐怖に怯えていた。去らない未来での陰、見通しのきかない道に、彼女は不安を抱き続けていた。
大黒竜の死骸が見当たらない。
カルミエの魔法で吹き飛んだとはいえ、ここに来るまでに、小黒竜を殆ど見なかった。
エーヴに迫る、黒い影は――まだ、死んでなど居ない。
「北城壁へ! ヒナ、グリジアヌ、北城壁へ、走って、早く!!」
「カルミエは……まだ生きてる。そうだな、ヨージ」
「生きています! 全部、ブラフだ! 奴は確実に、神エーヴを、殺す気でいるッ」
エーヴによって守られた根幹魔力帯の掌握に十年かかったとあの女は言っていた。あの女にとって、神エーヴこそが掌握における最大の障害なのだろう。故に、邪魔になるであろうヨージをこちらへと釘付けにする必要があったと考えられる。
まんまとこちらに誘き寄せられ、軍隊は壊滅、ヨージは生きているが、直ぐには向かえない。今、エーヴを護るものが、何もない。
エーヴだけではない。そちらには、我が神が居る。エオが居る。
あんなものに暴れられれば――最悪の事態になりかねない。
「ヨージ、行ってくれ」
「……っ、そうですね、貴女は下がって良い。魔法の殴り合いとなった場合、貴女は不利だ」
「いいや。『現状だけなら』お前だけで何とかなる」
「なんですって? しかし、神エーヴへと向かったかもしれないカルミエのコピーが、こちらに居たものと同等であった場合、対策をしなければ、僕とて――」
「『そっちに居るかもしれないカルミエ』は、絶対に大した事がない個体だ」
「確証があるのですね」
「ある。ほらこれ、砲弾で殺した奴の傍にあったもんだ」
そういって、ヒナがカルミエの首飾りをこちらへ投げて寄こす。
それは、イナンナの高位巫女だけが装着するものだ――意味を理解する。
「お前ひとりで確実に殺せる。あーしは、後の手を打つ」
「……策が有るのですね。分かりました、お願いしますッ」
ヒナは自身の家へ、ヨージとグリジアヌは北城壁へと駆け出す。
今はヒナの策を信じて、どうにかしてでも、奴を止めねばならない。




