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龍女皇陛下のお婿様  作者: 俄雨
ビグ村編
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明日を目指す旅路6



「うーん。立地は申し分無いのですが、村の端に住むヒト達にとっては距離がありますね。週に一度でも良いので、皆が集まる場所などはありませんか」

「それでしたら。東西南北、区画ごとに集会所が有ります。そこに寄りあって、情報交換などをしていた筈です」

「それは好都合。では神ミュアニスによる回受礼かいじゅれいを組み込むべきでしょう。特に教団設立初期は、やはり実際の神を目の前にして拝むのが一番だ。慣れたならばシンボルを設置するだけで良いですし、定期的な回受礼を行っても良い」

「最重要提案ですね。治癒神友の会として何かありますか?」

「我が神の偶像アイドルは製作中です。設置場所は要相談ですが、安置するなら日当たり、風通しが良く、頑丈な建物で、柔らかい敷物が有ると良いですね」

「その条件ですと役場でしょう。村長に掛け合ってみますが……ま、ヨージさんのご要望ですと言えば、二つ返事でしょう」

「お願いします、ミネアさん」

「はいっ」


『雨と治癒の光 臨時対応室』という表札が掲げられた部屋で、ヨージが今日も諸業務に追われていた。今対応しているのは、雨と治癒の光本堂建設場所の相談と、摂神シュプリーアの偶像設置場所についてである。

 本堂建立については、商店通りならば何処でも好条件であろう。問題は村でも遠くに住むニンゲンに拝ませる為の工夫である。また、リーアの偶像も同じような悩みだ。

 偶像アイドルとは、その神が遠方に居ても奇跡を齎せるようにする為の一種の装置である。以前遠くの会話を通す為に使ったものは個人携帯のお守り(シンボル)だが、偶像アイドルは固定して使用される。

 つまるところ神が本体であり、偶像は本体機能を一部持つ中継器、お守りは子機だ。これを応用した通話技術が軍隊で使われている。

 信仰が広がれば信者が増える。信者が居るならば奇跡を齎さねばならない。だが神本人が常に世界各国回る訳にはいかない。それを解決するのが偶像だ。

 神の分霊わけみたまを神を象徴する物体に収めるので、これだけでも神の奇跡を多少再現出来る。例え物体だったとしても無下に扱わせる訳にはいかない。


(営業所長も決めなきゃな……ともなると……)


 ミネアにお願いしたいが、大樹教調査員である彼女に、大樹教加盟教団ではない治癒神友の会の窓口をお願いするのは塩梅が悪い。

 ともすると、役職が無く、かつ雨と治癒の光に一番近い人物となるが。


「衣笠殿、お疲れさん」

「ガンゼイ氏。どうかされましたか」

「いえね。衣笠殿がお疲れだろうと、母ちゃん……妻から差し入れで」

「こりゃ有難い。そろそろ休憩に入ろうと思っていたのです」

「そりゃよかった。いやしかし、毎日忙しいですな」

「ウチの利益にもなりますからね。ところで、ガンゼイ氏」

「なんです?」

「雨と治癒の光、神シュプリーア信仰部門部長、やりませんか?」

「ええ?」

「難しい事はありません。雨と治癒の光に所属しながら、我が神の偶像アイドルの定期メンテナンスと、治癒神友の会に入会したいという方の書類手続きをお願いしたいのです。ウチ宛ての寄贈品や出資金は当然雨と治癒の光を通す事になりますが、その一部は貴方に入ります、如何で?」


 この村に来てから何かとお世話になったガンゼイは、今や雨と治癒の光の構成員として忙しい日々を送っている。商会の仕事もある為その目まぐるしさは、まるで都会の務め人程もあるだろうが、悪い話ではないだろうと考える。実に都合が良い立場だ。


「い、忙しくなるなあ」

「信用出来るニンゲンというのは、少ない。貴方にはとてもお世話になりました。第二神官長として、お願い申し上げます」

「わっかりました。神シュプリーアには、母ちゃんも娘も助けて貰ってるし、何よりアンタさんは村を救った英雄だ。力になれるならば」

「有難うございます」


 これで一先ず、治癒神友の会のビグ村での活動は安泰だろう。摂神である為、互いに利益無しとなれば提携を打ち切る可能性もあるが、偶像を通じてリーアとミュアニスによるコミュニケーションを重点とすれば問題無いだろう。

 あれから一週間。治癒神友の会の旅立ちは近づいて来ている。


「ヨージ、良いかしら」

「神ミュアニス、どうかされましたか」

「そろそろ休憩でしょう、お昼、外で食べましょう。作ったの」

「それはそれは。では行きます。ガンゼイ氏、お願いしますね」

「へい」


 立ち上がり、大きく背伸びをする。

 こうして事務方に徹するのも、随分久しぶりだ。近衛兵としてあのヒトに着いて居た時は、基本業務であったから、もう数年ぶりであろう。あの頃は昼となれば、仲間を連れて贔屓の飯屋を訪れるのが常であった。

 経歴的には、大体の事が並み程度に出来る。例え治癒神友の会を出て行ったとしても、何かしらの職には就けるだろう。都合上、言語は四つほど操れるというのもある。


(もし海外に赴く場合は……我が神は共通言語だし、エオ嬢はあの暗記力があるから、まあ大丈夫か)


 何にしてもエオが才女で助かっている。教えた事は教えた事以上に出来る上に改善点まで提示するのだから、その有能さは一級品だ。また膨大な資料を数法刻で記憶する為、不合理な点や不審な点を見逃す事が無い。

 問題と言えば。


「あ、アナタ。お疲れ様。神ミュアニスがお食事を用意してくださったんです。一緒に食べましょう?」

「おおう。早速の奥様気取りご苦労様です。冗談でもやめてください」

「えー!」


 一四歳の女の子にだいぶと惚れられてしまい、扱いが困る、という事ぐらいか。普段はこうして茶化しているが、本気で迫られた場合泣く他無い。

 エルフなど、見た目が若いだけで面白味が無い。肉体も精神も若いままであるが、その若さというのは老成した若さであり、情熱的とは程遠い。まして種族違いで結ばれると、どうしても一緒に老いる事が出来ず、様々と弊害を齎す。

 エオはこれから外で多種多様な人物と出会うのだ。こんな、もう終わってしまっているニンゲンに目を向ける必要は無い。


「お疲れ様です、皆さん」


 役場の中庭に用意された椅子に腰かける。リーア、エオ、ミュアニス、ライセンのいつものメンバーだ。皆若くて眩しい。飲み物に口をつけてから、小さく溜息を吐く。


「お疲れね。進捗どうかしら」

「ええ。ウチの担当はガンゼイ氏にお願いしました。我が神、偶像への霊籠たまごめ、大丈夫ですよね」

「んっ」


 リーアがテーブルの上に偶像を乗せて鼻息を荒くする。

 木製だが、リーアの胸像だ。不肖ヨージによる力作である。


「うわ、似てるなあ……衣笠さん、本当に何でも出来るね。むしろ、出来ない事って?」

「器用貧乏なだけです。大体は並みですよ」

「美人に出来ましたねー? これ、もう中に入ってるんです?」

「ん。入ってる。だからちょっと、お腹空いた」


 自身を分けるのであるから、消耗もするだろう。豚肉のペーストをパンに塗り、野菜を挟んでリーアに献上する。以前は本当に子供のように、もしゃもしゃと食べていたのだが、今はすっかり作法も身について女性らしく食事している。

 リーアの成長もそうだが、やはり一番目に見えて分かるのはミュアニスだろう。

 根幹魔力パルスと再接続した影響か、はたまた男がいるお陰か、以前よりもずっと大人びて見えた。本当に一週間程度なのだが、神の成長はニンゲンと比べる範疇には無い。


「そろそろ、出ます。問題が有りそうなら、偶像を通じて相談してください」

「急ね。もう少しゆっくりすれば良いのに。行く当ては決まった?」

「そうですね。子爵から書類の類も届きましたし、南下します」

「南へ? 帝国外へ行くの?」

「ええ」


 懐から地図を取り出し、広げてルートを指でなぞる。

 貴族所領を二つ通過し、大陸南の沿岸部まで赴くつもりでいた。ノードワルト大帝国の南、『イナンナー部族連合王国』の自治区『キシミア』だ。

 ここは大樹教、地母神イナンナー教、土着信仰入り混じる貿易都市であり、ヒトも人種も混沌渦巻く場所である。

 帝国との国境にある自治区ではあるが、イナンナーと戦争で衝突したのは五〇年前が最後であり、貿易が盛んな都市として隆盛を極めている。


「へー、海かあ。エオは海、見た事無いです」

「内陸部住みでは仕方ありません。広くて、青くて、雄大ですよ」

「扶桑は島国ですもんねー」

「実家は大陸内陸の西真夜移民区ですが、扶桑も長い事居ましたしね。少し高い山を越える事になりますが、我が神、大丈夫ですか」

「うん。平気。そこで、どうするの?」

「勿論、信仰獲得です。定住出来ればそれで良いですし、貿易都市ですから様々な情報がある。腰を据えるにしても、新しい土地を求めるにしても、最適かと。それに、昔恩を売ったヒトが住んでいるので、そちらを頼りましょう」


 信用出来る人物かと問われると、多少答えに困るが、応用錬金術師マスターアルケミストであり、ヨージを慕っていたのは間違いない。費用対効果を考えても都合の良い人物だ。

 帝国に安住出来るならそれに越した事は無いが、竜精の一件もある。なるべくなら離れた方が良い。

 そんな話をしていると、ミュアニスが思い出したように手提げから小箱を取り出す。


「これを。お礼としては少ないけれど」


 小箱の中身は宝石……ではない。確かに見た目こそ宝石であるが『魔導項玉』のようだ。

 属性ごとにその煌めきは異なり、煌びやかさを讃えている。

 使い手によっては宝石よりも価値が有るものである為、貰うのは多少躊躇われる。


「こんなに、本当ですか?」

「ええ。魔法を使えないヒトの為のものであるし、ワタシには不要だわ」


 魔導項玉は名前の通り、魔導書の数ページを結晶化させたものであり、本人の魔法行使の有無を問わず、結晶の属性魔法を発現させられる事が出来る。

 見た所五つ。

 青は水魔法。黄色は土か木魔法。緑は風だろう。一番安いのはこの無色透明、無属性魔法だ。

「ぬっ」

 もう一つは赤いが……まさか火属性ではあるまいか。

 とても色の濃い赤みがかった琥珀だ。


「わー、琥珀ですかね、縁起が良い!」


 大樹教文化に慣れ親しんだ者からすれば、お守りのようなものだろう。


「しかし、赤いですね」

「それは宝石かしら。発動しないみたいなの」

「なるほど……我が神、琥珀のペンダントなどは如何でしょう。きっと似合います」

 

 誤魔化す。ヨージの鑑定眼に間違いがなければ、これは火属性魔法の魔導頁玉だ。

 高価取引される物体だが、値をつけるのは、大体裏社会のニンゲンである。

 こんなもの、この宗教には置いておけない。然るべき鑑定の後、処分するなり、売り払うなりして雨と治癒の光の資金源にした方が良いだろう。

 

「ミュア、ありがと」

「いいえ。本当に、お世話に……ええ、本当に。何もかも、貴方達のお陰。とても、返せない程、大きな恩だわ」


 根幹魔力パルスへの接続、以降増え続ける村からの信仰により、今のミュアニスは以前の雨秤と同等程に力を戻している。火の神インガを抑制する事も暫くは必要無い為、その力は存分に振るわれるだろう。

 この村は、もう大丈夫だ。

 信仰獲得の初手としては最悪の選択肢であり、酷い苦難も背負ったが、一柱の神を救う事が出来た。彼女はこれから、亡くなった雨秤教団の教徒達と、両親家族への祈りを捧げながら、暮らして行く。彼女のような不憫な神に、幸多からん事をと願う他無い。



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