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龍女皇陛下のお婿様  作者: 俄雨
扶桑事変
308/339

妙高島戦1


 その武器を見た瞬間、頭の中の『ロック』が一つ外れた。


 ルルムゥの武器はオートピストルだ。


 現文明における銃はそのほぼ全てがボルトアクションライフルであり、ボルトを起こし、引き、弾丸を薬室に押し込み、ボルトを戻す……という、一連の動作が必要となる為、マシントラブルは少ないが速射性が無いに等しい。


 またハンドガンは、有る事にはあるが、趣味人やアウトローの武器であり、軍事的実用性は無いと断言されている。


 それを言うのも、獣相手では威力と精度が足りず、ヒト相手では防御魔法と対物魔複合装甲の鎧に弾かれるからだ。ヒトを狙って撃ち殺そうと思えば、どうしても銃や弾薬は大型化するのである。


 昔から銃という存在に何か、大きな引っかかりを、エオは覚えていた。


 武器の進化過程が、狂っているのではないか、という事だ。どう考えてもこの武器はそもそも『火薬ありき』の武器なのではないか、そうでなければ取り回しが悪すぎる、汎用性が低すぎるのではないか、と。


 だが、その武器を目の前にし、また空中庭園の書物から得た知識が改めて湧いて出た今、その引っかかりが取れたのである。


 火と火薬を制限する大樹教が、人類の戦争の『度合』を調整している事は知っていたが、なるほど、こんな武器が巷に溢れれば、戦争はより凄惨で苛烈になるだろう。何よりも治安が激烈に悪化するのが目に見える。


(あ、そうかあ。ガス圧で給弾と排莢するんだ。火薬が一般的なバルバロスなら、わざわざ魔化反応鉱物なんか使わないですもんねぇ)


 初期動作こそ必要にはなるが、一度撃ち始めればボルトアクションなどという動作を必要とせず、連続して弾丸を発射出来る。何よりもそれは火薬式なので、雷管を叩くのに魔法の才能が必要ない。あらゆるシロウトに銃とマニュアルを与えるだけで、命中精度はともかく戦場に無限に弾丸をばら撒ける。


 更に。


(ぐっ……魔力無効化弾丸……ッ)


 ルルムゥと呼ばれる神が放つ弾丸は、防御貫通弾を越える突破能力がある。明らかに被弾した部分をくり抜くようにして貫いて来るのだ。これを、エオは一度フォラズ村で喰らっている。あの時は即座にシュプリーアが回復したが、今は近くに居ない。


「自己紹介ッ!! 名乗り口上とかありませんかッ!?」

「防御が分厚い。それによく避ける。アズダハの流れを感知して短期未来予測をしてる?」


「喰らったら痛いんですよ、それッ!! 急になんなんですか、もうッ」

「作戦続行」


「趣の無い神様ですねぇッ!! フレイヤさん、防御支援ッ!!」

「禁制弾ぶっ放して来るなんて、現代の神は狂っているのですか……?」


「ガタガタ言ってると死にますよッ!! 援軍を呼ぶ余裕を作らないとッ」

「ポータル禁止領域に設定された事を認めます。敵も馬鹿じゃありませんね」

「ぎゃーッ」


 ポータル禁止。この土地に縁もゆかりもないであろうルルムゥだけに出来る芸当ではない事を考えると、裏に居るのは統春で間違いないだろう。つまりルルムゥの出現は予定されていた行動だ。ポータル禁止を可能にする方法は幾つか存在するが、どれも無効化には、原因の特定が必要になる為、今は動きようがない。


「ふむ。魔法無効化弾丸とはいえ、純度が低い事を認めます。その証拠に防御魔法で一応は威力が減衰している。この弾は、極まれば高等神の脳天もぶち抜けますよ」


「分厚く張れば即死は免れますかねぇ……?」

「ジリ貧です」


 岩陰に隠れ、敵の戦力を考察する。周囲を探っても、先ほど棺を担いで上陸した者達以外、敵勢力は見えない。ルルムゥに関してはコチラの探知を逆探知してやって来たような素振りであり、ヨージの話から亜空間移動が可能であるようだ。


『エオッ』

「ヨージ、これどうしましょお……防御ガンガン抜いて来るんですよっ」


『旧ルールでは弾丸を亜空間移動させてきました、物陰に隠れても警戒を緩めてはなりません』

「サイアクッ最悪ですッ!!」


「魔力感知、エオーナ様、首を左に五度傾けてください」

「よいしょ」


 バシュンッ、と耳元を弾丸が抜けて岩を貫く。


「あぶなぁッ」

「亜空間魔法自体には魔力がありますから、感知は可能である事を認めます」


力量看破サーチ出来ますか』

「出来る事を認めます」


 情報が共有される。ルルムゥ、レベル52、火属性。人10神70精10竜10、分類上神、魔撃士。使用スキルは読み取れないが、器用(DEX)敏捷(AGI)知性(INT)に特化した、『避けて中てる』軽装備魔撃士だ。


「少なくとも感知範囲に支援者はいませんねー。軽装ですからこちらの攻撃が当りさえすれば、殺せるか撤退させられると思いますけど」


「種族特性に竜がありますね。ヨージ様、あの神に由縁のある竜はどなたで」

『……現状、存在が不確定な、ニーズヘグですが……』


「種族特性に現れるって事は、間接的に存在している事の証明では?」


『どうでしょう。血縁であるなら特性に出るでしょうし、遺物などからの加護でも出るでしょう。火竜党の奴等も、ニーズヘグ系と思しき魔法を使用していましたが、存在が確認されないからには、該当の竜からの直接的な魔法は本来使えないものですし……トリックがあるものかと、軍でも検証していましたね』


 今はそこを探っても仕方がない。一先ず切り替えて相手の出方を見る。ルルムゥは隠れる訳でもなく、安定した足場に立ち、銃口をこちらに向けているだけだ。


『あと五法分は耐えてください。上空から奇襲します』

「あんまりヨージに手間を掛けさせたくないので、倒します、通信終わりッ」


『え、ちょ』

「フレイヤさん、魔力感知が得意ですね」


「はい。恐らく種族補正かと。レベル自体はまだ47ですが、感知だけならば皆さんに劣らないものかと」


「フレイヤさんは当ると即死でしょうから補助を。エオはアレと正面からやりあってみますから」


「ええ……援軍が来るのに、攻めに転じると? 愚妹の為にも、死なないようにお願いします」

(ギャフ)(ヤラ)Ng(イング)


「あら、身体強化バフ……愚妹と神兄あにの字、これは好きです」

「バフかけておきますから、ここでバックアップ宜しくお願います」


 エオは刻印術士だ。描いたルーン文字を媒介にあらゆる攻撃と防御と支援を行う総合職である。聖モリアッドではこの文字に悩まされたが、今は比較的身近にあるものであり、幾つかを母であるユーヴィルから習っている。


 また、この新ルールにおいては一般的な魔法文字という扱いである為、使用が容易だ。


 一文字一文字に意味があり、これを組み合わせる事で魔法を発現させる。繋げ、解釈し、意味を与えるという恣意的な魔法であり、自己の知識と発想力が多大に威力に影響がある。


 一文字、二文字程度ならば消耗も少ないが、五文字以上からは魔力を割合で持って行かれる為、魔力配分だけは間違えられない。また効果が高い分、口頭のみならず筆記という手間も必要となる。空中だろうとどこだろうと、書けはするが、書くという行動がロスだ。


(アンスル)(言葉に力を)(ケン)(火を防ぎ)(エオー)(守り給え)」

「――ルーン、ルーン? あ、今扶桑はルールが違う。警戒」


「さ、お相手しますよぉ。何でもかんでもヨージ任せにしていられないんですから」

「アオバコレタカはいないの?」


「さて、どうでしょう。貴方の隙を狙ってるかもしれませんよ?」


 ルルムゥが統春と、どの程度繋がっているか、どの程度情報を知らされているかは不明だが、少なくともヨージ・衣笠との衝突は前提であっただろう。本来ならば、本土に仕向けられた衣笠真百合に釘付けにされていた筈のヨージであるから、つまり急いで作戦を切り替えた上で、ルルムゥが投入されている事になる。


 注意すべきはルルムゥ本人もそうだが、彼女が運んで来た棺が気になる。

 あれには何が入っているのか。


(ティール)(身体強化)、(ニード)(速攻)」

「――!!」


 ぶっ叩いて喋るならそれでよし、時間がかかってヨージが来たならそれも仕方なし、とにかくぶつかってみない事には分からない。自身の太腿を平手で打ち、ルーンを発動させる。


「――ッ」


 直立も難しい岩場を兎もかくやという素早さで駆け飛び強襲。拳がルルムゥの防御魔法に直撃し、一部破砕する。衝撃を流しきれなかったルルムゥがヒラリと飛び退いて距離を取った。


「ルーンアイテムなし? 筆記もなかった」

「色々考えてやってるんです」


 詠唱の他に筆記が存在するこの魔法は、他の魔法系統と比べてどうしても初動が遅い。事前に魔力を帯びた石などに書き込み、アクションを減らすのは当然だが、それでも遅いとエオは考えていた。


 結果思い至ったのが、自身の肉体に刻む方法だ。書き込んで詠唱して発動、という条件しか説明には無かったので、制約は無いと判断したのだ。一度発動すれば消える為、何度も同じルーンは使えないが、逆に言えば隙を見ながら再度刻めばロスなく実戦で使用出来る。


 一度は身体に刻まれたルーンの所為で陰謀に巻き込まれたエオであるが、忌避感などはなかった。使えるものは使う、やれる事は全部やる。彼女の基本原理だ。


「『力量看破サーチ』……ヒト? ううん、竜だ」

「良い情報がありましたか?」


「脅威度が上がった。ギア上昇」

「むっ」


 ルルムゥのステータスに変化が見える、補正がかかった。バフというよりも、己に掛けていた制限を解いたか。上限がどこかは知れないが、細かに観察している暇もない。


『右です』


 フレイヤの遠隔会話が脳に響くと同時に前へと出る。後ろを亜空間をくぐった弾丸が突き抜けて行ったが、エオは気にもせず発砲者へと突撃した。


(アンスル)(言葉に力を)、(ウル)(速く)、(ウル)(もっと速く)」


 吶喊。正拳がルルムゥの魔法防御を突き破る。続けざまに左上段蹴、ルルムゥはガードしたが顔を顰めたのが見えた。こちらが理解し得ない謎の耐性などは携えていないと見える。


「ギッ……ッ」

「ハァッ」


 では殺せる。右下から殺気を感じて回避、顎の下を凶刃が霞めて行く。合わせて顔面に肘打ち、仰け反って動きが止まったところで、右手をルルムゥの胸に押し当てる。


「な――」

HHHHH(ハガル)!!(氷結せよ、破砕せよ、粉砕せよ、崩壊せよ、灰燼に帰せ)」


 ルルムゥの胸元に突きつけた右腕を、左手でなぞり、(ハルガ)ルーン五つ分を同時発動する。周囲の熱の全てが奪われ、究極的に圧縮された冷気が、無慈悲にも密着状態で光線の如く放たれたのだ。


 莫大な冷気と蒸気が噴出、気圧差で爆風が巻き起こる。

 エオは隙無く跳び上がって距離を取った。


 即死。話は聞けないだろう。

 

『情緒がない事を認めます』


「ヤれるときにヤらないと後で酷い目に遭うんですよ。消耗を抑えてーとか、相手の出方を見てーとか、それは余裕のあるヒトの意見です」


『それは、はい。しかし神世の氷結魔法かと思った事を認めます。即席、という点でですが』

「周辺地域全部凍らせるような魔法は撃てないですねー」


 消費した分のルーンを再度書き込んで装填。殺した確証はあるが残心は怠れない。死んだ、消えたと思った奴が立ち上がって来る事など日常茶飯事だ。特にヨージが戦ったような相手というのは、生命活動を停止させたからと止まるような敵ではなかったので、エオが警戒するのも当然だった。


『……魔力感知』

「むー?」


 冷気の霧が晴れる。岩陰から、先ほど消し飛ばした筈の神が顔を覗かせた。


「傷一つ無いのは変ですね」

『エオーナ様がルーンを行使した瞬間に、あちら側からの魔力は感じなかった事を認めます』


「つまり、今の魔力感知が、エオの攻撃前後で初」

『そうです――あ、遠ざかって行ったことを認めます』


「逃げたー?」

「一目散、といった様子」


 安全を確認したのか、フレイヤが岩陰から出て来る。自己保身の強そうな彼女が出て来るからには、脅威が去ったとみて良いが……。


「エオ」

「エオ、ご無事かしら?」


 上空からヨージとフィアレスが降って来る。なるほど、増援の気配を察知して逃げたか。


「上空から見える程の魔法でしたね。消耗は?」


「ほぼないです、傷もありません。ただ、殺したと思ったんですけど、無傷で出て来て、逃げましたね?」


「無傷、というのは気がかりですね。しかし逃げたなら戦う以外の目的が重要だという意味でしょう。奴等が運び込んだ棺が気になる、全員戦闘態勢で、感知を怠らず行きましょう。ゼロツー殿と我が神はどうしました」


「ポータル禁止にされちゃいました」

「島ですから、近くに呼んで徒歩、という訳にも行きませんね……連絡だけします、行きましょう」


 ヨージがあれこれと手配しながら先を進み始める。流石の手際の良さは、経験の違いだ。ヨージ自身はエオ達に戦闘など望んではいないだろうが、敵がいる限りは戦わねばならない。常にヨージが居るとも限らない。であればやはり、自分でも戦え、かつ指揮出来るだけの技量と度量が欲しくなるものだ。


「はい、はい。結界を破壊したらまた連絡します。ポータルでも距離はありますが、お二柱の魔力なら届きますね。では」


 ゼロツーと我が神は危急に備えつつ、上洛を狙って暴れる北東蕃軍の妨害をしていた筈だ。本来なら一発で飛んで来られる援軍であるが、こればかりは仕方ない。


「さて、奴等の目的は何でしょうね」


 警戒しながら進む。目的、というからにはこの島に必然性が存在する。であればそれは鍵分身しかないだろうが、ルルムゥはともかく、棺なるものをわざわざ運び込む意味は知れない。


 棺であるからには中にヒトが入っているのだろうか。兵器を運び込む為の偽装も考えたが、別にひっそり入島するのであれば、棺に詰める意味もない。ヨージはコレを気にしているのだ。


「扶桑に起こる問題って、常にバルバロスなんですね」


「奴等に扶桑本土攻撃能力はありません。結果周辺諸国への工作や破壊活動などのテロが主になる。四光教国の崩壊もそれが原因ですし、フェニクス島侵攻もそうです。大扶桑全部を相手に戦う力はない、しかし弱点を突くだけの攻撃力を有しているとすれば、それを最大限に生かす動きになるでしょう」


「つまり、今この状況に乗らなきゃ損ってカンジです?」


「今の状況丸ごと全部、奴等のせいである気もしますが、その割にはすこし行動が鈍い気がします。しかしルルムゥがいるとなると……」


「なると?」


「最低限、カルミエスタ・エベルナインが関わります」

「キシミア自治区の大魔女ッ!!」

「関係性の詳細は不明ですが、カルミエの下で働いている様子です」


 大帝国の大陸南部に位置する、イナンナー所属の自治区、キシミア。ビグ村で起きた事件の後、新天地を目指して赴いた場所だ。エオが初めて外国人と交流した場所でもある。


 イナンナー本土気質は比較的少なく、エーヴという街神が治めており、そこで巫女として潜入していたのが、カルミエスタ・エベルナインという女だった。


 休眠した根幹魔力帯パルスラインを掌握しエーヴを無力化、疑似竜を顕現させて、イナンナー本土進攻の試金石にするつもりでいたらしいが、結果ヨージと元扶桑の科学者、三三寺みさんじヒナによってその野望は砕かれた。


「統春にカルミエ、魔女二人ですか。このポータル禁止も、あの二人が関わっているなら納得です。とはいえ魔術的な結界である事に変わりはないでしょうから、起点はありますね。棺の所在を確認してから、起点を破壊しましょう」


「今から部隊を分けた方が良いのじゃないかしら?」

「愚妹もそう提案します」


「我々は分隊に満たない。敵戦力も解らない。四人を二人にして良い事なんてありません」


 フィアレスの口元が曲がる。彼女が旧ルールのままの竜精ならば誰もそれに意見はしないだろうが、今は違う。ヨージは冷静だ。余程の事が無い限り選択を間違わない。問題は、彼に降りかかる災難の大半が、余程であるという事ぐらいだろう。


「ここから鍵分身のある祠を遠見出来ますか」

「やってみまーす」


 大岩の陰に隠れ、遠く遠くにある岬に安置された祠に視界を伸ばす。敵が何をするかは分からないものの、目標物など限られる故に、一番警戒すべきはやはり祠だ。遠見の魔法を全員で共有する。


 丁度、人夫が黒塗りの棺を下ろしたところだ。近くにルルムゥの姿もある。ルルムゥが封印を切り、蓋が開けられる。


「……先制攻撃したいですが、祠を巻き込めばタダでは済みませんね」

「解ってやってますね、たぶん」


 棺の中身はわからない。だが、蓋が開いた瞬間、人夫が倒れ――業火に揉まれ灰となって散った。


 ――ただの炎ではない。強烈な火炎魔法の気。ヨージの目の色が変わるのが分かった。


「ヨージ、あれ」


 ルルムゥが亜空間魔法を行使する。そのまま穴に手を突っ込んで引き抜いた。

 握られていたのは、鍵だ。


「え、どういうことですかあれッ」


「祠を開く、破壊する、というギミックを、すっ飛ばしたと考えるのが妥当でしょうね。結果鍵分身が起動していない、のでしょう」


「い、インチキくさぁッ!!」


 鍵を引き抜いただけでは留まらない。今度はその鍵を、棺の中の、何者かに託したのだ。

 

 しかし次の瞬間、ルルムゥが身悶えし、全身がしわがれ、白髪化し、老化するように衰退して卒倒する。原因の詳細を遠目から窺う事は出来ないが、その死にざまは鍵分身の即死魔法に似る。ルール違反者へのペナルティだろう。


 だが目的は成されたと見える。


 祠が燃え、棺が燃え、ルルムゥの遺骸も燃え、その中からゆっくりと、何者かが身を起こした。


「ヨージ、ヨージ、攻撃しませんと」

「前言を撤回します。僕以外、結界の結節点を探して破壊してください」


「ヨージは?」

「僕はやる事があります」


 炎に塗れた男が目を覚ます。その胸には鍵が半分埋め込まれるようにしてあった。周囲に揺蕩う熱を払うと、それ等全てが男の手の中に納まり、全容を露わとする。


 銀髪に、浅黒い肌、そして、紅い目。


「生きていてはいけない男だ」

「ヨージさん、あれは」


「アスト・ダール」


 既に、皆の声は彼には届いていなかった。


 冷静である事は正しい。美徳だ、皆の安全の為にも、それが一番だからだ。ヨージはその辺りを決して濁さない。ただし、自分の命は勘定に入っておらず、また、彼を曇らせるものが目の前にあれば、その限りではない。


 彼もヒトの子であり、何よりも、敵は何度殺しても現れる悪夢である。


「みんな、下がりましょ。男の子が戦うって言うんですから」

「エオ、正気ですかしら? あれはミーティムも手負いにしてますのよ」


「それも含めてヨージに任せましょう」

「冷静な判断ではない事を認めます」


「じゃあ皇女として命令します。全員下がって」


「それは逆らえませんからズルですわよ」

「全面的に肯定しますのでユーヴィルに告げ口しないでください」


 敵の戦力は不明だ。全員で掛かって行くのが正しい。が、ヨージがそれを望まないのであれば、それに従うべきなのだ。


「結節点を破壊したら直ぐゼロツーさんと我が神を呼びますから、勝とうが負けようがそれがリミットです。ヨージ、いいですか?」


「エオ」

「はい」


「有難う」

「えへへ。エオは、貴方と我が神の為にいるんですから、当然です」


 権力で無理をきかせたフレイヤとフィアレスの背中を押してその場を下がる。ヨージにここを任せる事もそうだが、いよいよ手の込んだ作戦のように思えて来たからだ。この状態で敵が他にアクションを起こさない訳がない。


 結界の結節点とて、容易に奪還出来るようにはなっていないだろう。


「勝算があると見込んでの事ですの?」

「ありませんけど」


「ではなぜ。非合理ですわ」

「好きなヒトがやりたいって言うんですから、任せるでしょう?」


「それで彼が死んだらどうしますの」

「というかーです」


「え?」


「彼が懸念するのは、周りを巻き込む事です。彼を一番上手く運用するとすれば、それは一人にする事だとエオは思いますねー。あと純粋に信じてます。彼、無理なものは無理と言いますし、大勢に影響なければ逃げますよ?」


「けれど、四番鍵は奴に握られている。大勢では?」

「何にせよゼロツーさんと我が神、出来れば赤城王も必要でしょう?」


「それはそうですが」

「さ、行きましょう。エオの予感では、結節点の護りも固められている筈ですし」


 斜面を下りながら食い下がるフィアレスを言いくるめる。フィアレスの納得如何は関係ない。どうせすぐ現実はやって来るのだ。


「ほらやっぱり」


 雑木林を抜けた先、磯の岩陰に数人の鎧武者が控えているのが見えた。


 ……一人、二人を相手にするような状況は既に過ぎている。援軍は幾らでも必要だ。その為にもまずは、ポータル禁止にしている結界を破壊しなければならない。


 当然、ヨージは心配である。また傷を作り、心を病むかもしれない。しかし、それ自体を自分がどうこう出来るとも思っていなかった。自分の役目は、そうなった後のケアである。


「たぶんかなり高位の侍です。奇襲をかけます」

「キモの座り方が、もう既に女の子じゃありませんわね」


「フレイヤさんも物陰から支援してくださいね?」

「……」


「フレイヤさん?」


「ハッ。あまりに真っ直ぐな愛でしたので、眩暈と胃痛と胸焼けで意識が遠のいていました。支援了解した事を認めます。どうぞ」


 フレイヤの本心がどこにあるのかなど解らない。人様の恋路をどう見ているかも、さして興味もない。ただ彼女の瞳には少しだけ、エオに対する羨望が見て取れた。


  



 相対するにあたり、選択肢は幾つもあった。


 息を顰めて奇襲するのがセオリーだが、これは早速に破棄。

 近づきながらトラップを仕掛けて誘い込む方策もあったが、破棄。


 真正面から、叩いて潰して殺す、これが最善策として第一候補に挙がっている。


 勿論感情は多大に含まれているが、殺しても殺しても己の眼前に現れる化物を、間接的な方法で殺害するのは不確定要素が多く、殺した、と実感出来ないのが最大の問題だ。


 生きていてはいけない生物が居るとするならば、間違いなくコレだ。


 ヨージ・衣笠の倫理観や遵法精神をもってしても、問答無用で人権なるものを与えてはならないと考えざるを得ないのが、コレである。


 生きていればいるだけヒトを殺す。

 存在しているだけで村も街も国も燃える。


 どれだけ大雑把な秤にかけたとて、被害の想定は確実なまでに甚大であり、一切の手心なく殺害するべき、という方に傾く。


「貴様が存在出来ている理屈を考えるのも億劫だ」

「――……」


 半裸のアスト・ダールが携えているものは剣のみ。奴が得物としたのは『火竜剣』と呼んでいた剣であった。見た目は似ているが、怖気が走るような脅威を感じられない事から、レプリカだろう。


「何度僕の前に現れる。貴様はいつ死ぬ? いつ消える?」

「――……俺にも、わからん」


 フェニクス島で、そしてバイドリアーナイ領で幾度か言葉は交わした。しかし、それが会話らしい会話として成り立っていた事はない。お互いに喋りたい事を喋っていたに過ぎない。


 だが今、アスト・ダールは確実に返事をした。


「今の俺が俺である確証がない。だが俺が末端である事は解る。そして、自分の意思でこの世から消え去る事もない。既にそのような判断は通り越している。故にわからん。ただ、消えて良い時があるとするならば」


「――ああ」


「お前と、十全皇に引導を渡した未来だ」


力量看破サーチ』――……通らず。竜種にすら通じた魔法が通らない。体感で言えば、レベル60前後か。奴の胸には肉にめり込むようにして鍵が収まっている。


『鍵』を動力の核としているのが解る。つまり、黒曜と同じだ。その強度、剛性は不明ながら、短期間であるならば戦闘に支障がないからこそ、ここへ投入されているのだろう。


 アスト・ダールは複数存在する、という狂った推測が現実として立ちはだかったのだ。


「泣き叫んで小便を漏らす準備が出来ている、という意味で良いのか、アスト・ダール」

「笑えるほどお前の言う通りだ、青葉惟鷹」


『スイッチホルスター』『オン』


 登録した七つのバフが一挙に掛かる。アスト・ダールが構えるその瞬間にヨージの居合が空間に煌めいた。勢いあまってか、剣先から放たれた衝撃波は周囲に立ち並ぶ岩々を二つにする。


 初遭遇、初戦闘時の再現。あの時は一瞬で首を飛ばす結果となったが今回は――否。


「侮ってくれるな」

「成長してるじゃありませんか、良かったですね」


 迫る。距離を圧縮するような速度で走り一撃、これを火竜剣が防ぐ。次いでヨージの足払いが飛ぶも、アストはこれを回避、更に回避した先にルーン魔石を投げて拘束魔法を発動させようとしたが、それも読まれてアストが蹴り飛ばした。


 数瞬の攻防は目まぐるしく、並大抵の者では目で追えない。


 実力的にも魔力的にも、最盛を誇ったアスト・ダールよりも目劣りするというのが正直な感想だ。だが奴は即死しかねない居合を回避し、追撃も全て凌ぎ切った。


 感性、第六感、そこから齎される機転、それ等が以前に増して研ぎ澄まされているのだろう。

 正直一法秒でも視界には入れたくないが、敵対してここまで生き残れる人類は他に居るまい。


 睨み合いの数瞬の間、互いに弾けるようにして衝突する。


 現状、お互いの物理的感覚的速度は、旧ルールを大きくはみ出した位置にある。走る、避ける、進む、剣を振る、それ等全てが筋力や感覚器の限界を突破したものだ。筋力に関しては単純にして常軌を逸した魔法が、感覚に関しては、魔力と共に寄り添うようにしてある『靄』のようなものが働いている。


 相手の動くそのほんの須臾程前に、未来予測を可能としている。厳密には違うのだろうが、それはヨージが普段相手の呼吸や筋肉の動き、風の流れや魔力の強弱で敵の行動を予測しているものの、上位的互換性のある感覚だ。


 繰り返される剣戟の中、更にアストの感情を読み取るようにして動く。以前よりも格段にやり辛い、能力的には互角前後、そうなってくれば、他に活路を見出すべきだ。


「ところでアスト、貴様は今のルールを理解しているか?」

「俺は知らん。だが『コイツ』は知っているようだぞ」


「そうかい、不愉快な奴だ」

「嫌われたものだな」


「『六元詞纏・二十七式』」

「むぅッ!!」


 更に攻撃速度を上げる。これだけ刀を振り回したのは、九頭樹グルジュの御霊を相手にした時であろうか。あの時は女皇龍脈エンプレスコードをその身に限界まで宿した状態だったが、今はそれが、頼らずとも当たり前に出来てしまっている。


 ――このルールは早く直した方が良い。人類には荷が重すぎる。


「シッ――!!」

「きっ……――」


 そうは思う。思うが、まだルールが直せないのならば、限界まで強くありたい限りだった。

 ヨージの左腕が宙を舞う。隙無く差し込んだつもりであった刀はいなされ、左脇から差し込まれた剣が肉と骨を綺麗に斬り飛ばした。


『自動道具使用』が発動、失った分のHPを補填すると、左腕は直ぐ生えて来た。感覚は……変わらないが、自分でも気味が悪い。


「お前が不死身めいている事ぐらいは知っているつもりだが……いよいよヒトを棄てたか?」

「っつぅぅ……――そういうルールなんだ、イカレてるよまったく。くそったれが」


「口が悪いぞ、青葉惟鷹」

「貴様の前だけだ」


 アストがクツクツと笑う。随分と余裕がある様子だ。殺し合ったあの時、奴に余裕など欠片もなかった。復讐の剣鬼と化した青葉惟鷹を前に、全身を震わせて怯えていたのだ。謎の復活を遂げた後は、ほぼ意識があったかも怪しい。とかく謎が多いのだ、この男は。


「――ふむ?」

「ただで怪我などするかよ」


 笑った口元を抑えていたアストの右人差し指、中指、薬指が、ポロポロと地面に落ちる。切れ味が良すぎる故、暫く生きた筋肉が接合されたままだったのだろう。


 だが、奴が手を振るったかと思えば、指は元に戻っていた。元より不明の再生能力がある男だ、今更驚きはしない。


「存外いいな、ここは」

「雑談でもしたいのか、貴様」


「仮初とはいえ『ヴァルハラ』に酷似している」

「……」


「そういえば、話していなかったか?」

「何がだ」


「俺と木偶……ルルムゥの元いた世界だ。今では神樹ロムロスの天端、ヴァルキリー共が勇者を集めている場所の名前として引き継がれたようだが……そこではない」


「じゃあなんだっていう。旧文明世界の話か?」


「今支配者層に君臨している竜達の出身地だ。俺はそこで冒険者をしていた。選定勇者としてな」

「――……随分喋るじゃないか、アスト」


「興味があるだろう。俺はもう目的を達成している。後はお前と旧交を温めるぐらいなものだ」

「いらん付き合いだ。聞く耳もない。今、ここで、死ね」


「そうだな。確かに。語り合うには互いに殺し過ぎた」


 その目にあるものは、殺意ではなく同情。察せられる感情は憐憫。


「同類扱いでもするつもりか、胸糞悪い」

「遠くはなかろう。近すぎもしないが」


「『空中機動』『空間短縮』『物理貫通強化』『対人特効率上昇』」


「懐かしい。長い詠唱もなく、ただ行動を宣言するだけで齎される魔法に奇跡。なんだかんだと、十全は昔が懐かしいと見える……そうだ、やはり、あの女なのだ」


 目的を達成しているという言葉からすると、鍵を入手した時点で離脱さえすれば奴の勝ちが確定するのだろう。逃げれば良いのにそうしないのは、ヨージの相手をしてみたいのか、はたまたそれが出来ない理由があるのか。


 戦闘中他の事に考えを割かれるのは歓迎されないが、自分の後ろには三人がいる。


 戦果の最大値は鍵の入手とアストの撃破両方が叶う場合。

 最低で撃退、あたりがラインだ。


 最悪は鍵を持ち逃げされた上で誰かが傷つく事だろう。これは絶対避けねばならない。


 ここで鍵を奪われた場合、予備鍵に手を出さねばならない。ゼロツーの語りから想像するに、予備鍵に手を出すのはほぼペナルティと言えた。


 第二鍵と第三鍵がヨージ達に、第一鍵と第四鍵が雁道に渡る。予備鍵がペナルティに近い戦力を有した鍵分身である上に、雁道軍を相手にしなければならなくなってしまう。


 ――出し惜しみはしていられないだろう。


「つぁッ」

「シャアァッッ!!」


 お互い、魔力で強化していなければ、剣も刀も折れているだろう。数十合に渡る斬り合いに先は見えない。ヨージはアストの剣筋に、アストはこのルール上の動きを理解し始めていた。


「ッ!!」


 ヨージがアストの目の前から消える。ほんの一大バーム程度だが、空間を超越するスキルだ。斬り合いとなれば行動を組み立てて考えねば死ぬような状況であるのに、対象が消えてはそれがご破算となる。


 アストの背後、空中に出現したヨージは、後頭部目掛けて刀を振る。が、奴は思い切り前のめりになって回避したかと思うと、そのまま前回転、刃が下部から伸びてヨージを狙う。


「チィッ」


 空中機動で回避、態勢を戻したアストの首元を狙うが剣で防がれ、真正面からかち合う。


「物理法則もクソもない、使っているお前が一番やり難い世界だろう」

「ごちゃごちゃやかましい」


 鍔競り、睨み合い。


 利き腕の右に力を込めたヨージが左手を刀から離す。一般人であれば意味不明な行動だが、それを青葉惟鷹がしたならばただ事ではない。


 突飛な行動に危機感を露わにしたアストが一歩後ずさったところで、ヨージの袖先から樹石結晶が転がり落ち、左手に収まる。そして魔力を込めて握り潰したのだ。


「ガ――ッ!!」

「去らば」


 数値と魔法強度によって支配される世界ではあるが、物理的な干渉に対する生理反応までに適応される事は稀だ。例えば風が強く吹けば倒れぬようバランスを取るし、大きな音が立てば身を屈める。痛ければ痛いし、不味ければ不味い。


 当然、樹石結晶が魔力の臨界を迎えて超発光すれば、驚いて目を閉じざるを得ないだろうし、直視すれば目が潰れる。それは自分も同じだが、決めると計算した上での行動は、不意に喰らうよりも格段に速かった。


「『偽束ぎそく空断からだち』」


 その技が、どのような原理で、何に祈り、どう作用しているのか、その詳細は一切不明だ。効果としては振り抜いた刀の軌道上の物体を消し飛ばすという、白雷剣に似た特性を持つ。忌々しくも九頭樹グルジュと南方大陸を両断したあの力だ。


 ヨージの固有スキル、それを修得する前段階の技である。


 規模こそ抑えられているが、対人に発揮するには強すぎる力と言える。


「ご、ぐぶっ、が、ぬぅッ」


 まだ目は治らない。しかし確実な手応えがあり、アストのうめき声が勝利を確信させる。全神経を集中させて反撃を警戒、目が治り次第トドメだ。


『自動道具使用』が発動。目が治り始める。アストは、腹部を抑え膝をついた状態で居た。即座に行動、首を刎ねに掛かる。


 ――しかし、不思議に思う事が一つ。

 アレを喰らって、何故胴体が繋がっているのか、だ。


「まだだぞ――ッ」


 目も傷も治りきらぬまま、アストが剣を振る。それも見越しての斬撃だったが、アストの剣があらぬ方向へと出張り、それがヨージの刀とかち合う。


 悪運が強いのか、未来を予測したのか、解らないが、死ぬまでは警戒を解けない。


「チッ……」

「白雷剣術――……そうだ、そうだった。スズヤアラタの剣技だ」


「――……」


「俺は、竜人の黄昏とは別口で、動いていた人間だ。奴等と深い関わりを持った事はない。だが、俺も最終決戦には奴等と並んでいた。神魔王ロキは、上位ギルドの大攻勢によって、風前の灯であったが――ユグドラーシルの制御を奪取して純礎大水晶を取り込み、真の力を発揮した奴に、返り討ちにされ――」


 アストが、うわ言のようにして、何かを呟いている。知った事ではない、斬り捨てて終わり――そう考えて斬りかかったヨージだったが、謎の反射壁に弾かれる。


「なに――?」


「そうして――……皆が息も絶え絶えという中、何かが、何かが起きたのだ。あれは、どこから来た? 元から居たのか? どこに隠れていた? あの女が最初からそうだったというのか? あの女は、ロキを、皆を消し飛ばし、世界をも滅ぼした、俺の記憶はそこまでだ」


「何を言っている」


「そこで世界は終わった、という、話だ。気が付けばこの通り、お前と十全を殺す兵器として、再び地に降り立っていた――」



「『記録憑着コンバート』」



「ッッ!!」


 それは、ヨージにして目を剥くような事態だった。


 奴が呪文を発すると同時に島へ暗雲が立ち込める。ゆらゆらと炎が辺りを漂い、それはやがて女の姿となって、奴を背中から抱き留めた。


火竜ニーズヘグかッ!!」


「俺には、成し遂げねばならない事がある。この哀れで愛しい女に、また真実の大空を、自由に飛んで貰いたいのだ」


 アストが炎に包まれる。輝き、煌びやかなその明るい炎は、普段ヨージ達が怖れ、忌む炎とは真逆の、神聖にして荘厳な光源であった。


「お前に、夢はあるか? お前は、何が為に生きている?」


 朱色の軽装鎧。轟々と燃える火竜剣。曇り空に反射するような紅い炎を纏い、奴が構える。


 脳裏に刻まれた心的外傷。焼け落ちた家々、転がる炭化した死体、燃え朽ちる従弟の遺骸。

 吐き気と、嗚咽と、同時に殺意が口からまろび出る。


「世界構造が似ている故、出来るのではと思ったが、出来たな。『鍵』ありきだが……全てに互換性がある訳でもないか。装備は一式揃っているが……スキルは一部抜けるか」


「まだ喋るのか」


「……――嗚呼、覚えているぞ。その、怖気の走る視線。俺は、未だにお前が恐ろしい」

「貴様は僕の過去の残滓だ。残滓が、口を開くな」


「幸い、小水は垂れずに済むらしい。来い、その重責、この剣で払ってやろう」


 憎悪はいとも容易くヨージの理性を食い破った。誰に声を掛けられたところで、アストが死ぬか、自分が死ぬまで、刀を納める事もないだろう。


「……俺は前しか見る事を許されない。お前は、過去しか見られない。皮肉なものだ」


 扶桑に自分がいる理由。ニンゲン関係の整理と、過去の清算。

 その、最大の汚点にくしみと、図らずしも対峙する。





 速やかに、効率的に、合理的に、結節点を破壊して行く。フィアレスはそんなエオを見ながら、これを世俗に置いておくのは無理だな、と考え始めていた。


 専門的な魔法訓練を受けていないエオであるが、軍事訓練は聖モリアッド修道学院で済ませているし、知能は明らかに常人ではなく、精神性が鋼のようだ。竜の血を引いている事も起因にはあるだろうが、それにしても、戦いが上手すぎる。


 ユーヴィルと竜帝陛下が何故この子を聖モリアッドに預けたのか、納得しかなかった。


 有能すぎる。強すぎる。これをニンゲンとして静かに暮らさせる為には、人里離れた場所に置くのが一番だ。


 だが、そうはならなかった。あの二人が考えている以上に、この娘は才能の塊なのだ。人界に収めてはいられない、どうやってもはみ出してしまう。


 今、ルールが変わった扶桑で彼女を縛るものがない。自身の知性と才能と精神を遺憾なく発揮している。


「ま、待ってくれ……こ、殺さないでくれ……」


「貴方のお殿様が良く出来た御仁なら、ちゃんと蘇生してくれますよ。高レベル侍はいるだけで厄介なんです。ダメージも直ぐ回復しちゃうし。蘇生出来るように遺体は残しますからね」


「た、助けてェッ!!」


 ルーン二つ分の水魔法が侍の頭部に打ち込まれる。魔法防御を失っていた男の頭蓋は呆気なく砕け散り、磯に散らばって魚たちが啄み始めた。


「扶桑の侍は命乞いなんてしないとヨージは言ってました。レベルが高くても気迫はありませんでしたし、適性から徴用された民間人かもしれませんね」


「そういうのは、わたくしがやりますわよ」

「いえ、いえ。お構いなく。竜だってヒトを殺して良い気分ではないでしょう?」


「それを貴女が言いますの?」

「だいじょうぶです、なんともありません。これで三つ目ですね。次に行きましょう」


 エオからは何の憂いも躊躇いも悲しみも感じられない。今までニンゲン社会で暮らしていた筈であるのだから、多少の負い目などがあっても不思議ではないのに、それが見受けられない。エオは次の目星をつけてグングンと先に行く。


「フィアレス公には分かりませんか」

「……どういう意味ですの、フレイヤ」


 デカい乳を揺らしてフレイヤがクツクツと笑っている。自分よりもずっと昔からいた神、存在を消された後でも、その無茶苦茶な生と性が後世にも語られ続けた。


 リバース・ユグドラーシルに竜はいない。竜に相当するのが、コイツ等高等神だ。その中でもフレイヤは指折りであり、最後まで抵抗を続けるだけの力があった化物だ。


「愛しい男が信用して送り出してくれたのですから、仕事を全うして褒めて貰いたいのですよ」

「それならば確かに。わたくしは全部一人で出来ますもの」


「女は、多少欠点が見える方が、モテますよ?」

「モテるモテないで生きてはいませんの、わたくしたち」


「ヨージ様だって、何でも出来てしまう女を助けたりはしませんよねぇ」

「フレイヤ」


「ええ」

「殺しますわよ」


「おほほほほ……あ、こわ、その目本当に怖いです謝りますごめんなさい」

「はあ……」


 厄介。厄介極まる。正直この女に関しては何一つ信用出来ない。ルーンで拘束されている為、更には扶桑のルールがある為に今はただの神でしかない女だが、恐らく本来の力を取り戻したならば、フィアレス単独で勝てるかは怪しいのだ。


 口先を封じるようにしなかったのは失敗だろう。コイツの言葉には力がある。言動と行動でヒトを操り惑わせるなど容易いに違いない。そこはヨージも警戒してか、以降シュプリーアには近づかないよう言い含めている。


「それで。貴女から見て、エオはどう見えるかしら」


「ユーヴィルの子でしょう。しかもユーヴィルよりあざとく賢い。正直な話、敵に回すよりも、彼女におべっかを使って取り計らって貰った方が愚妹に利益があります。なのでご安心を、愚妹が貴女達ユグドラーシル派を裏切る事など無い事を認めます」


「どこまで本当やら」


「神兄と愚妹が無事ならば、それで。お仕事を終えたら、十全皇に遠方の島一つ所領でも頂いて、神兄と、時折ヨージ様にうんと慰めて貰います。もうぐちょぐちょのドロッドロになるまで」


「理解に苦しみますわねぇ本当に……というか、後世の人物評が現実にそのままだった、という実例を見せられているのが、凄く嫌ですわ」 


「失礼しました。何せ数百万年まぐわっていないものでして。とはいえ、そう設定されて産まれましたから。貴血達竜種にだって、やらねばならない事、やらずにはいられない事が、あるでしょう」


「そう言われると責める気が減るのが不思議ですわね」


「そう。そういうものですから。役割は大事です。他から見て度し難いものであったとしても、それが愚妹の役割、愚妹のカタチ、愚妹の悦びであり、覆しようのない存在意義です」


 どこか寂しそうに言うのが何ともムカツクが、そうして造られました、と言われれば反論のしようもない。自分達竜種とて役割の為に造られた被造物である。


 ただそれを不自由に思ったり、辛く思ったりする事はない。ニンゲンがどんな感性で居るかは知らないが、この世を運営して行く上で必要だからこそ与えられている使命なのだ。それを誇りに思い、それを第一と考えて生きるのが、一番合理的で幸福である。


 フレイヤもそうなのだろう。ただ、全部理解しろと言われれば首も傾げるが。


「そういう意味で、ニンゲンは大変である事を認めます。エオーナ姫も一応はヒトでしょう。まだ役割もない雛鳥です。しかし血と力だけは有り余っている。最初から役割の有る我々にはない苦悩と懊悩がひしめいている。しかし彼女は愛を信じている」


「……」


「愛が全てをマスキングする。盲目とも言います。果てにどこへ転がるかは知れませんけど……まだ若いのですから、七転八倒して覚えれば良いだけの話。我々超常種は、答えが決まっているからこそ、悩むニンゲンに寄り添えない。答えを急ぎ過ぎる。そのくせ簡単に答えを教えてやれる程の甲斐性もない。でしょう?」


「なかなか耳の痛い話をしますのね」


「役割の違いです。愚妹はその性癖故、神ともニンゲンともまぐわい、寄り添ってきました。本質的な部分まで理解しているなどという傲慢を言うつもりはありませんが、それでも、管理者然とする貴血よりは、多少マシな感性を持っているつもりである事を認めます」


「偉そうねぇ」


「今はこの通りただの下女ですが、一応最高位神でしたので。とはいえ所詮敗北者。しかもこの通り、上手に世界を運営されては、口を出すだけ間抜けというもの。オーディンは阿呆で、トールは馬鹿者、ヨトゥンに敵わぬも道理かと」


 はぁ、と大きなため息。彼女の本心がどこにあるかは知らないが、元の仲間達の方策が大失敗であり、己の後悔するところも大きいのだろう。


 彼女からすると、フィアレスは子供だ。彼女が生きていた時代の事は伝え聞いたものしか知らない。どうして、ユグドラーシルとリバースユグドラーシルが全面戦争となったのか、その理由についてもかなり曖昧だ。知る必要もない、というのが竜達の見解である。


「ヨージ・衣笠」

「彼がどうしましたの」


「魔性です。もし、彼が気になるのならば、貴血もお気をつけて」

「どういう意味ですのよ」


「愚妹程の女ですら少しおかしくなるレベルです。まぐわったらどれほど気持ちが良いのかと想像すると、それ以外考えるのが面倒臭くなるぐらいには」


「恐ろしい事を言わないで頂戴」


「十全皇の婿なのでしょう。まともな男である筈もない。エオーナ姫も、その若さで出会うには最悪な男であった事を認めます。懸念といえば、そのくらいかと」


「長々とご意見有難うございますわ。暫く黙った方が宜しいかと」

「ああ恐ろしい。竜は怖いですね、ええ」


 怖い怖い、と身を摩る。他の最高位神が討ち取られる中、最期まで抗い生き残った神がコレだ。ミドガルズオルム等が慈悲をかけてやる理由などなかった筈である。


 つまり、それだけ殺すに難儀した女なのだ。


「何話してたんですか?」

「世間話ですわよ、エオ、なにか?」


「見てください、この道。漁民の生活道です。先ほども通りましたけど、あちらの木の枝が数本減ってます。道端の小石もさっきと位置が違う。魔力痕跡は上手く消してるみたいですけど、物理的な痕跡がそのままですね、たぶん罠があります」


「……違いがわからないのだけれど」

「エオはわかります」


 完全記憶能力者、というのは稀ではあるが勿論存在する。その特異さから、大体の場合ニンゲン社会の高位に居るか、全てを煩わしく思い隠者をしているか、だ。


 しかしエオの場合は目に映り込んだ光景ひとつひとつを全て記憶した上で、精査して違いを発見出来るだけの処理能力が働いている、明らかに常軌を逸した力だ。覚えようと思って覚えてはいない、全部が脳に収まっているのである。通常のニンゲンなら脳が許容出来ず廃人だ。


「解除したらしたで勘付かれるかもしれませんから、迂回しましょう」


「仕掛けた、という事はわたくし達がこちらを通ると予測していたということですわよね。直接狙いに来ないのはどうしてかしら」


「報告を受けて斥候に来たら、ヤバかったので逃げる為の足止めに仕掛けた、では?」

「ああ……敵うとすら考えていない、と」


 恐らくは北東蕃軍の侍だが、扶桑の侍というには不覚悟が多すぎる事は話題になっていた。このルールでの適性が高く、侍として取り立てられただけの一般人が多い為だろう。高レベル故無敵の万能感に支配されていたのだろうが、いざ戦地に赴き敵と相対してみれば、全く躊躇い無くぶち殺してくる女が跋扈しているのだから、慄くのも仕方がない。


 訓練された軍人や侍ならば任務達成の為にヘタを打たないよう立ち回るのだろうが、根が一般人では臆病風に吹かれるのも納得だった。


「感知。この先の大木に四つの反応がある事を認めます」

「まー、逃げるにしても作戦中に退却指示なんて出ないでしょうからね」


『なんなんだあの女達は……話が違うぞッ』

『もう三つも結節点が落ちてる。ここを破られたら作戦失敗だ』


『どどど、どうするんだ。真正面から戦えるか? 斎島はあんなに強かったのに、一撃で……』

『に、逃げられないだろ。先制攻撃しかない……』


『感知範囲があっちは広いんだよッ!! 先に悟られるッ!!』

『じゃあどうする!! ああなんでこんな事に』


 ベラベラと喋っている辺りがシロウト丸出しであり、いっそ居た堪れない気持ちだ。雁道なる者は確かに数を運用する事に長けてはいただろうが、個々の強靭さが低すぎる。それは強さという意味ではなく、危急に際して立ち上がれるか否かの強靭さだ。


 これが無ければ戦士ではない。指導者ではあっても教育者ではないのだろう。


「感知されてる事にも気づいてませんね。ちょっかいをかけて、大丈夫そうならここから結節点を破壊します」


「あら、今度は殺しませんのね?」


「エオは殺人鬼じゃありませーん。どうせ恐慌状態に陥って逃げ回るのが関の山のニンゲンを殺して回ったりしません。あ、反撃して来たら殺します」


 それはそれでツメが甘い気もするが、皇女様がそうおっしゃるなら頷かなければならないのが竜精という身分だ。相手が馬鹿者ならば苦言も呈するものの、文句を言うには位が高すぎる相手である。


「フレイヤさん、バフってー」

「はい」


「フィアレスさん、カウンター準備」

「ええ」


「はい、行きますよー、ラグハルガ


 慣れたものだった。決められたルーチン通りに作戦を開始、周囲に深い霧が漂い始める。


『急に霧が出て来たな』

『……――ま、魔力の霧だ!!』


『さ、さむい……』

『は、離れるぞ、もう感知されてるんだ……おい、そいつを引っ張って来いッ』


「これで驚いてるようなら、殺す必要もなさそうなので、キメますね」

「……どうぞ」


KKC(ケン)(神世の火よ、畏怖なる火よ、くびきを焼き切れ)』」


 エオが対象の大木に手を翳す。大樹教では忌避される炎だが、扶桑は元から火に対する忌避性が高くない上に、現ルールでは当然のように火属性魔法が使える。更にエオという女は、使えると思ったものは全て使い、しかも才能が飛び抜けているというおまけつきだ。


 まるで手足の如く自由に炎が舞い、大木が炎に包まれる。天を衝くような火柱を目にした侍達が瞠目、叫び声を上げる。


『うわあああぁぁッ』

『逃げろ、逃げるぞ、おい!!』

『ま、まって、待ってくれッ!!』


 侍達が蜘蛛の子を散らすように森の中へと消えて行く。同時に、結節点が破られ、周囲から独特の緊張感が消え失せた。それを確認してから、エオがルーンを唱えて木についた炎を消す。


 驚くべき自在性だ。もはやこの環境において、エオは怪物に他ならない。


「目標達成!! さて、援軍を呼びましょう」

「ヨージさんは無事なのかしら?」


「死んだらエオに通知が来るように設定してあります!!」

「そういうお話ではなくって……まあ良いです」


「あー、もしもし、エオです。ゼロツーさん?」

『はい、こちらゼロツー』


「ヨージに聞いてるでしょうけど、ポータル禁止を解除したので、援軍ねがいまーす」

『了解いたしましたわ。少々お待ちになってくださいまし』


「あ、え、なるほど?」

『いかがなさいましたかしら?』


 エオが耳に手を当てながら、小首を傾げてこちらを見る。

 会話は共有されているので、そこに疑問点を見出す意味が解らない。


「ちょいとおまちを……――フィアレスさん、おかしくないですか?」

「どういう意味ですの?」


「どうって。ヨージが連絡して準備して貰っている筈なのに、少々お待ちくださいって?」

「あ」


 それはそうだ。ヨージ・衣笠が、状況が整い次第来い、と言ったら、こちらの心の準備も無い間に飛んで来るのがあの女だ。


 これは大変にマズい。


「あら、すぐ来られませんか? なんかアスト・ダールが出て来たんですけど」

『まあ、大変ですわね。ええ、もうすぐですから』


「はい、ではお願いしますね、失礼します」


 エオ、痛恨の、会心の顰めっ面だ。

 人様に機嫌の悪そうな顔を向けるような女ではない彼女にして、相当に狼狽している。


「遠隔会話、傍受された上に偽装されてますね、これ……。ヨージとアストが揃っていると聞いて、あの反応は絶対に、絶対にないです。いったいいつから?」


「ここ数日は、こちらの会話が筒抜けであった可能性を考慮せねばなりませんわね」

「ああ、今の世界の通信技術が未熟すぎて、そこに警戒を割いていなかったのですね、お二方」


「外のルールにおいて、超遠距離の遠隔会話の傍受は根幹魔力帯パルスラインに対する攻撃に類しますもの。そうなると管理者が飛んで来る」


「なるほど。短距離の遠隔会話以外は、そもそも警戒するものですらない、と。お粗末である事を認めます」


 短距離の遠隔会話は内在魔力オド外在魔力マナで可能だ。これは空中を行き交う故に傍受を警戒せねばならないが、超遠距離となると根幹魔力帯パルスラインを介する事になる。根幹魔力帯パルスラインに介入出来るのは認可された神および竜種のみで、当然ながらそれが管理地にあれば許可が必要だ。


 そこに不正介入するとなると、管理者の高位神、もしくは竜種が感知する。命をかけてまで傍受しようという馬鹿者はまずいない故、警戒していなかった。


「ふぅー……落ち着いて、落ち着いて。もう個人技をしてるんじゃあないんです、これは戦争、あらゆる手段が尽くされている」


「エオのポータルでは、遠隔地に届きませんわね」


「それに、今ゼロツーさん達がどこにいるのか、大まかしか分かりませんし、そもそも、それすら偽装である可能性がありますね。というか、無事でしょうか?」


「無事だったとしても、アチラもコチラからの遠隔会話を偽装されていますでしょうね」


 エオが頭を抱えて縮こまる。素直にこのままヨージへ加勢した方がベターだろうが、そこはエオのプライドもある。あんなイイ女風を演じておいてやっぱり来ちゃいました、では幼い彼女にはダメージが大きい。


 フレイヤは……口元を抑えて笑っている。性格の悪い女だ。


「菊理様に遠隔会話を飛ばすのは、隠れ家逆探知の怖れがありますから却下。そもそもこの偽装は、個人を絞ったものなのか、範囲で探知しているものなのか、それも不明ですね」


「最低でも根幹魔力帯パルスラインに手を加えている者の仕業ですわね。外のルールなら直ぐ下手人も判明しますが、今の扶桑では一般人すらレベルが高ければ超遠距離遠隔会話が可能である事も考えると、とても絞れませんわ」


「……ヒトが力を持ちすぎないように管理するって、バランスが大変なんですね、フィアレスさん」


「まあ、わたくしの苦労を多少なりとも理解していただけたかしら。そう、大変ですの。飛び出した杭を打ち込むのは」


 さて、どうしたものか。エオを説得するならば出来るだろうが、この数人が加勢してどうにかなる相手なのだろうか。そもそもエオの談を信じるならば、本当にヨージ一人に任せた方が、結果上手く行くのではないだろうか。


 ……なんとももどかしい。力が無いとは、これほど不愉快なものなのか。本来の自分ならば、飛んで行って、ぶっ飛ばして、おしまい。二法分も掛からない。


「ひとつ、伺っても良いですか」


 口元を拭ってから、フレイヤが挙手する。エオが指をさして許可した。


「相手方は間違いなく北東蕃軍でしょう。であれば、ここで用いられている遠隔会話に必要な根幹魔力帯パルスラインとは、大体の場合扶桑雅悦由来のものかと思います」


「そう、ですね、そうですね?」


「別のラインはありませんか? 細かろうと、ユグドラーシルや別の大樹の根が、多少なりとも入り込んでいるのでは? と愚妹は愚考するのですが」


 それは考えたが、扶桑から近すぎるここでは根幹魔力帯パルスラインの占有率が多すぎて、他の根が薄まっている可能性が高い。ルールが異なっているのであれば、そもそも形式が違い過ぎて弾かれる。


 が、エオはガバッと顔を上げた。


「……キシミアでの事です。大魔女カルミエスタ・エベルナインによって根幹魔力帯パルスラインが強制的に占領され、街中から魔力が消え失せました。しかし全域ではなかったので、ヨージはカルミエスタを誘導し、作戦実行者の三三寺ヒナと神グリジアヌが得意とする、南方大陸魔法を用いて、カルミエスタの拘束を図りました」


「キシミアで、南方の魔法を……? ああ、そういう」


「ここは扶桑ですが、所謂端っこです!! ユグドラーシル由来の根幹魔力帯パルスラインを励起させるなら、本土よりもずっと楽なはず!! なによりも、ここに居るのは皇帝の娘と竜精そのものですよッ!!」


「ルールを無視した場合のペナルティが恐ろしいですね」


「まあなんとかします、ナイスアイディア!! エオちゃんポイント500点進呈です!! 1000点で常識的な範囲のお願いを一つ聞いてあげます!!」


「なんでもいってください、愚妹は全力を尽くしてご奉仕します。さ、ご命令を」


「ユグドラーシル由来の何か、リンゴ、エール、トネリコの枝、その他ッ!!」

「街で探してきます。他の準備をお願いします、では」


 そう言ってフレイヤが人里の方へと消えて行く。あまり、ああいった手合いに曖昧な報酬を与えない方が得策であるのだが、エオとしては切羽詰まっているのであろうから、口は挟まない。それで痛い目にあったとしても、良い勉強になるだろう。


「さて、ルール違反した場合、身体の半分は持って行かれるかもしれませんから、フィアレスさんも覚悟してくださいね?」


「貴女のその覚悟の決まり具合が、わたくしは本当に心の底から恐ろしいですわよ」


 ユーヴィルをフィアレスが制御など出来ないように、その娘も、当然のように出来そうにはなかった。


 イカレた親子だ。フィアレスはギンヌンガップより深いため息を吐いた。





固有・死霊祝典夜行ネクロ・リユニオン

闇属性 消費HP10% SP200 MP150

スキル『死霊蒐集』で得た死霊トークンを消費して

最大1000体の物理攻撃力を有する幽体を召喚します。

幽体のHP、攻撃力、防御力は術者のステータスの5%に依存します。

幽体に物理攻撃は無効、闇属性ダメージは半減です。

行動を指定する場合は追加で一体に付き20MPを消費します。

幽体は夜間に召還された場合ステータス上昇補正を受けます。

倒された場合、魂トークンとして保持されますが、再召喚は出来ません。



固有・治癒の雫

光属性 消費MP500

3秒に一度、術者にHPの20%を回復する状態を600秒付与します。

半径10m以内の味方にも作用します。味方の回復量はHPの5%です。

この効果は術者の死亡後も時間が切れるまで継続します。



固有・死せる魔獣の咆哮

火属性 消費SP250

術者に被大ダメージ判定された場合に発動します。

受けたダメージの70%の威力を帯びた弾丸を200発放ち、

一発に付き二つの無効化ディスペルが付与されています。

発射された弾丸は火属性、及び受けたダメージに帯びた属性を上乗せします。



スキル『偽束・空断』

風属性 斬撃属性 命中補正900%

如何なる場合でも無消費で発動可能ですが、24時間で三度までです。

これはスキルやアイテムによって発動回数を増やす事は出来ません。

敵に対して物理攻撃力×魔法攻撃力の1000%のダメージを与えます。

敵の防御力の50%を無視します。

状態・大量出血を付与します。

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