20章 襲撃前夜
「おっさん、おっさん。凄い悪い顔してるぜ。」
「どうして、悪い顔しながら笑うんでしょうね、ほんとタチが悪いですわ」
「何だと、俺は司祭様だぞ。敬え!小娘共。」
「ならず者達はおっちゃんの玩具にされに来るだけだよな。馬鹿じゃねーの。」
「本当ですわね、貴族たちも悪魔に手を出すより危ない事に気づいていない様ですわね。」
「おっちゃん、善人のふり上手いからな~、賢者とか笑うぜ!魔王だよなどう見ても。」
「えっ?賢者様が魔王・・・・」
兵隊さんが青い顔をして震えだしたので、俺は営業員時代に習得した愛想笑いスキルと教員時代に習得した屁理屈スキルを使って兵士を丸め込む事にした。
「ははは、彼女達は極度の緊張をほぐす為に冗談を言っているのですよ。」
誤魔化す時にはなるたけ専門用語を使い難解な言葉を多用するのがコツである。政治家の答弁が代表的である。因みに中身は全くない。また優秀な人間ほど分かりやすく簡単な言葉で説明する事が出来る。
「あっ、誤魔化した!」
台無しである。兵士に取り合ってる時間が勿体ないので迎撃準備に入る。
「全員整列!集合!」
各子供達にチーフスペシャルとスピードローターを2個づつ支給する。子供達も週のうち3日は射撃訓練をしているので、10メートル以内なら確実に当てる腕を持っている。子供達は手が小さくて握力が弱いのでシングルアクションで撃つように訓練している。因みに俺ならダブルアクションで10メートル先の飛んでるハエに当てる事が出来る。
ヒメは俺と同じ45口径ガバを携帯している、常に子供達を守っているのだ。そしてチチは俺より手がデカイので50口径のデザートイーグルを腰につっている。腕は大した事ないがAK-47と同じ位破壊力が有るので何処かに当てれば何とかなるだろう。
64式も俺とヒメとチチに装備する。これで100人までは何とかなるだろう。
敷地にも杭を打って有刺鉄線で周りを囲んだ、空いてる入口は1か所だけだ。
発電機を回しているのでこっちには電気もあるのだ。敷地に熱感知器も置いて夜間の侵入も警戒する。獣人は大抵人間より夜目が利くが、夜に弱い牛族などの為に暗視装置も召喚して夜間も順番で警戒した。
「賢者様、何ですかこれは。夜でも周りが見えますよ!」
「賢者魔法です。」
「凄く、美味い食事でした。王都の貴族でもこれ程の香辛料や味付けの物は食べてないでしょう。」
「賢者の知恵です。」
兵士が、俺達に興味を示して色々聞いて来るが、内部事情を知られたくないので適当に誤魔化す。敵に色々知られて警戒されると困るのだ。敵にはこちらの実力を知らせない、相手が油断してる隙をついて一撃で仕留めるのが、孤児院の基本の戦い方だ、勿論俺が決めた。手を差し伸べてくれる者には祝福を、敵には死を与えるのだ。
次の日の昼前位に騎士が4人程こちらに近づいている報告を受けた。
「おっちゃん。4人くるよ。」
「分かった、直ぐ行く。」
子供達には、トランシーバーを持たせてあるので、情報は共有出来ている、勿論見張りには双眼鏡も持たせている。でかい奴なので周りが明るくはっきり見える。因みに元の世界では良く月を眺めていた、クレーターまでハッキリ見えるので何となく面白かったのだ。
「何ですか、これは離れた相手と話せるのですか?、こっちは遠くのものがはっきりと見えますね!いや~賢者様の魔道具は凄いものですね!」
何だか飯を食わせて、風呂に入れて一晩泊めてやったら、この兵士偉くなついてしまった。一緒に戦うと言い出した。教会所属の兵士なので普通の兵士よりは強いらしい。
4騎が近づいてくる、長距離射撃で片付けようかと思ったが、何だかやたら装備が良いので様子見をすることにした。キラキラ光った鎧を着ているのだ。
「あ!あれは、聖騎士ですよ!敵じゃありません!」
「聖騎士?なんじゃそれ?」
聖騎士とは教会の持つ最高戦力らしい、兵士の中でも優秀な上位100名が聖騎士と呼ばれるそうだ。
聖騎士が敷地に入って来る、俺はゆったりと歩いてゆく、隣にヒメがいる。チチは用心の為に子供達の傍においている。4人の騎士は馬から降りて俺の所に歩て来た、敵意は無い様だが、俺みたいに油断させていきなり襲う連中かも知れないので警戒だけはしておく。まあ、抜き打ちで2秒で4人倒せるので余裕だ。ヒメも鬼人特有の馬鹿げたパワーと反応速度で4秒で4人やれるだろう。
「賢者様とお見受けします、我々は枢機卿の直属の聖騎士です。知らせを持ってまいりました。」
先頭の騎士が俺に言った、女だった。金髪の美人さんだ、後の3人は180センチを軽く超える男達だ。年齢は20半ば位なのかな?
「そうだ、枢機卿からは賢者と呼ばれている、今は名誉司祭だがな。」
「貴族の雇ったならず者達が、街を出ました。総数30名。明後日位にここへ到着するでしょう。我々はあなた達を守る為に参りました。」
どうやら枢機卿が俺達を心配してよこした聖騎士らしい。貴重な情報を貰ったので俺の町にいれて歓迎することにした。
「おっさん、腹減った。何か美味い物食べたい。」
「そんじゃ、賑やかになったからバーベキュー行くか!」
子供達は皆大喜びで食べていた。聖騎士達も余りの美味さに驚いていた。
「賢者様、このような豪華な食事でもてなして頂きまして、感謝にたえません。」
聖騎士の隊長が挨拶に来た。偉く美人の騎士だ。170センチで素晴らしいプロポーションだ。金髪に青い瞳というのが異世界を感じさせる。彼女の名前はセリカだそうだ。部下はレビンにトレノにスターレットというそうだ。いずれも枢機卿の虎の子の戦士らしい。
「いや~、わざわざこんな所まで助けに来てくれてありがとうございます。」
「ふふ、我々が居れば安心ですぞ。賢者様を守って差し上げます。」
副隊長の大男、レビンが言った。190センチ位あるオーガみたいな男だ。
「大口叩いてるおっさん、そんなに強いのかい?」
チチが肉を食べながら近づいてきた。目に嫌な光が有ったから遊ぶ気らしい。
「俺は、聖騎士の序列30位だ、つまりこの国の兵士で30番目に強いってことだ。お嬢さん、だから安心してよいぜ!俺は10人相手でも負けないぜ。」
「ふっ、見せてもらおうか聖騎士とやらの力を・・」
俺が見せたアニメの台詞を言ってみたかったチチが言い放った。こいつあのキャラのファンだったなそういえば。で、当然の様に模擬戦になってしまった。腹いっぱいになった俺達はコーラを飲みながら観戦することにした。俺達は娯楽に飢えているのだ。町づくりばっかりしてきた反動なのだから仕方ない。
「大丈夫ですわ、レビンは手加減が上手いですし、私は回復魔法が使えます。」
おれの横に来た、セリカがこっそり俺に言った。
「そうだな、うちのシスターはハイヒールが使えるから骨折位までなら平気だよね。」
フルプレートを着た聖騎士がロングソードを構えた、対するチチは何処から引っ張り出して来たのか50キロ位有る総金属性のデカイ盾を構えて、右手には30キロ位有るハンマーを持っていた。凄く機嫌が良さそうだ。
ちょっとだけ見合っていたが、レビンがいきなり前に出てきた。言うだけあってノーモーションの移動でかなり早い。だが、チチはチビの時でもオーガに突っ込んで行く程の本物の肉食獣なのだ。レビンの動きに反応したチチはデカイ盾ごとレビンに突進する、物凄く早い。
ドガン!という金属同士がぶつかり合う音がして、レビンは3メートル程吹き飛ばされた。驚いてるレビンにすでにチチは30キロの戦闘用ハンマーを叩きつける。流石は30位、無理な体制からでも剣でガードする。
バキン!
チチのハンマーは剣を叩き折りレビンの左肩を粉砕した、痛みに顔を歪めるレビンを蹴り倒し顔の真横にハンマーを叩きつけて戦闘終了だ。
「ふふ、おっさん修業が足らないぜ。」
周りの騎士達は呆然としていた、最初の一撃が頭ならそこで副隊長は即死だったはずである、チチは手加減して勝ったのだ。この女の子は物凄く強い。副隊長を子供扱いなのだ。
「では次は私の番ですわね、隊長さん私に稽古をお願いしますわ。」
腰に日本刀を刺したヒメがやってきた。副隊長より隊長の方が強い事に気が付いている様だ。
「このままでは、我らの立場がないな、仕方ないお相手しよう。私は序列19位セリカだ。」
「私は賢者の第一夫人ヒメですわ。」
また、俺をネタに遊んでいるが黙っていた。喧嘩すると負けるからだ。負けない為には喧嘩しなければ良いのだ、これが大人の知恵ってやつである、
今度も静かな立ち合いだ、2人共静かに闘志を高めている。セリカは自然体の構えでロングソードを構えている。確かに副隊長より強そうだ。ヒメは腰を落として剣はまだ抜いていない、相手に自分の間合いを見せない戦法だ。
セリカが前に出ようとした瞬間ヒメの腰から一筋の光が現れた。
キン!
澄んだ音と共にセリカの剣が2つになった。ヒメの神速の居合切りだ。相手より一瞬遅く動くが相手より速く攻撃する神技・後の先。鬼族の化物じみた反射神経とパワーの複合技だ。
「ま、参った。」
セリカが力無くうなだれている。多分ヒメの剣が見えなかったのだろう、ヒメがその気になればセリカの首は落ちていたハズだ。大丈夫だ、俺もヒメの剣は見えないから。ドンマイだ。
「安心めされて下さい、ミネウチですわ。」
そうヒメは時代劇マニアなのだ、やたら時代劇を見て研究するのだ。作り物のでたらめな剣法を実際にやって見せる化物なのだ。
その後プライドをへし折られて、沈んでいる聖騎士達を俺は風呂とアニメで慰めた。




