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第二章

 女は結婚していた。名前を(うえ)()()()()と言った。当時二十三歳だった。事情はわからないが、子供の産めない身体だった。また、DVの被害者であった。打撲傷や(あお)(あざ)は身体の至るところ、無数にあった。左の上腕と右手の指に骨折歴があった。肋骨にもひびが入っていた。左耳の鼓膜が破れており、ほとんど聞こえない状態だった。夫との性交渉はいつもレイプまがい、と言うよりレイプそのものであったという。彼女には睡眠薬自殺を図った過去があり、精神科に通院歴があり、PTSDの診断を下されていた。

 よってこのアパートに住みはじめたのも、夫のDVから逃れるためであった。貯金が多少あり、当時働いてはいなかった。

 その年の冬のある日、朝の十時ごろだったと思う。隣から男性の怒鳴り声とかなり大きな物音がした。が、それは十秒ほどのことで、すぐに静かになったから気にも留めなかった。恐らく例の如く借金取りでも来て少し暴れたのであろう。私にとって無関心を装うことは、こういうアパートに住む者としての性癖になってしまっていた。だが、私はその時異変に気づくべきだったと、後になって悔やんだ。眠っていたなんて、言い訳にすらならないのだ。

 遺体が発見されたのは、その二週間後のことであった。真冬だったので部屋の外までは屍臭も漂っては来なかったけれど、遺体の状態はひどいものだったという。口をガムテープでふさがれており、手首もガムテープでぐるぐる巻きにされていた。下半身は裸で幾度も(りょう)(じょく)された痕跡があった。(おびただ)しい精液が衣服に付着していた。死因は首を絞められたことによる窒息死であった。

 そのしばらく後、彼女の夫である(うえ)()和弘(かずひろ)という男が、富士山麓の青木ヶ原樹海の山中において、首吊り死体となって発見された。DNA鑑定の結果、友梨菜の衣服や遺体に付着していた体液は、和弘のDNAと一致した。調書は被疑者死亡のまま送検された。

 彼には過去に他県の某市に暮らしていた時、結婚歴があり、その妻をDVの後遺症によって死なせていたことも明らかになった。傷害致死の容疑がかけられ、一旦逮捕されたものの、彼は精神科への十年近い入院歴があり、精神鑑定の結果、不起訴処分になった。


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