世界最高の「器用貧乏」は、今日も洗濯日和です
数年後の、ある晴れた日のこと。
かつて「呪われた地」と呼ばれていた森の別荘は、今や世界で最も美しく、そして最も「予約の取れない」聖域となっていた。
「テオ様!帝国の第2飛空艇団が、また屋根の上の『落ち葉掃除』を志願して並んでいますわよ!」
「まったく、聖教会の騎士団も負けていないわ。庭の草むしりをさせてくれって、法王自らスコップを持って待機しているんだから」
相変わらずメイド服(でも生地は伝説の神糸)を着たフィオナ様とカトレア様が、呆れたように窓の外を指差す。
そこには、かつての「賢者」や「騎士」たちが、僕に少しでも近づこうと、血眼になって庭掃除を競い合う光景が広がっていた。
「あはは。皆さん、掃除が大好きなんですね。……あ、アポロ。そこはまだワックスが乾いていないよ」
「キュイィィ!」
かつての小さな「アポロ」は、今や部屋の半分を占めるほどの立派な白銀の竜へと成長していた。
……けれど、その役割は相変わらず、僕が洗濯物を干すときに「温かい鼻息で一瞬で乾かす」という、世界一贅沢な衣類乾燥機だった。
「よし、乾いたね。……カトレア様、その服のシワ、闇魔法のアイロンで伸ばしておきましょうか?」
「ええ、お願い。あなたのアイロンがけ、防御力が数倍に跳ね上がるから、もう普通の防具じゃ物足りないのよ」
僕は窓辺に腰を下ろし、慣れた手つきで洗濯物を畳んでいく。
器用貧乏なりに、指先に少しだけ「空間固定」の魔法をかけて、一生型崩れしないように丁寧に。
その頃。
王都の小さな清掃ギルドでは、一人の男が必死に床を磨いていた。
「……クソッ。テオのように、一拭きで汚れを消すには……まだ魔力が足りねえ……!」
それは、かつて僕を追放したガイルだった。
彼はあの日以来、冒険者を引退し、テオの背中を追って「掃除の道」を極めようとしていた。
彼だけではない。元パーティーの仲間たちは皆、それぞれの場所で「身の回りを整える」ことの大切さを噛み締めて生きていた。
世界から魔王の影は消え、紛争も「テオの茶会」に招かれる権利を争う平和なものに変わっていた。
宇宙は今日も、僕がかけたワックスでピカピカに輝いている。
「テオ様、お茶が入りましたわ。……今日のおやつは、昨日魔界から届いた『暗黒の果実』で作ったジャムパンです」
「お、美味しそうですね、フィオナ様。……あ、その前に玄関のタイルだけ、ササッと磨いちゃいますね」
僕はいつものように、なんの変哲もない(僕にとっては)箒と雑巾を手に取る。
世界を救い、神に祈られ、宇宙を掃除した男は、今日も少しも変わらない笑顔で言った。
「僕はただの、器用貧乏ですから」
空はどこまでも青く、澄み渡っている。
テオの別荘からは、今日も心地よい箒の音と、三人の幸せそうな笑い声が響いていた。
ついに『器用貧乏な僕の追放生活』、全40話にて完結を迎えました!
最初はただ「効率よく掃除をしたい」だけだったテオ君が、気づけば魔王を丸洗いし、宇宙の換気までしてしまう……。そんな彼の無自覚な暴走をここまで見守ってくださり、本当にありがとうございました。
ガイルたちの自業自得な末路や、カトレア様・フィオナ様の「お掃除ヒロイン」としての成長(?)など、書きたいことを全て詰め込むことができました。
最終的にテオ君が「やっぱり家事が一番」と笑って終わる。そんな、世界を救っても変わらない日常こそが、彼にとっての本当のハッピーエンドだったのかもしれません。
またどこかで、テオ君が「ちょっとそこ、汚れてますよ」と箒を持って現れる日が来るかもしれません。
その時まで、皆様の毎日もピカピカに輝いていますように!
完結記念の評価・ブックマーク、ぜひ最後によろしくお願いします!




