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「わたしとしては、永藤隊員の島への同行は構わないと思うがね。確かに、彼女が抜けることでの既存A班の戦力ダウンは由々しき問題だ。けれども、彼女がいなくとも、既存部隊は他支部に引けを取らないぐらいの戦力を保持している。それに、起こるかどうか分からない問題に神経質になりすぎるのもいただけない」

「しかし、そうは言っても」

「それに、永藤君は長期の入院生活から復帰したばかりではないか。それでいきなり部隊のリーダーに立つには荷が重い。戦闘のリハビリと療養を兼ねて、神崎君に同行させるのも悪くはないだろう。

 あと、君のことだからお上の反応を心配しているだろうが、そこは問題ない。私を誰だと思っているのかね」

 長官にとっては最後の一言が効いたようだ。聖沢はMS細胞の権威。お上の連中との繋がりも根深い。さすがに上層部のお許しが出たとあれば、長官も従わざるを得ないだろう。


「仕方ない。今回は同行を許可しよう。ただし、あくまで目的は糸と針の魔法少女の討伐だからな。刹那たちに乗じて羽目を外さんように」

「心得てますよ。聖沢さん、ありがとうございます」

「礼には及ばんよ。君の活躍を期待している」

 それだけ言い残すと、聖沢は含みのある笑みを残して退出していく。その姿を刹那はただ見送るしかできなかった。


 刹那たち三人が連れ立って廊下を歩いていると、どこかで見たような顔が騒いでいるのが目についた。嫌な予感がしつつも、不自然にUターンするわけにもいかない。と、いうか、そのうちの一人とばっちり目があってしまう。

「先輩! 助けてくださいッス」

 往来だというのに、大仰に手を振る。無視しようとすると、庇護欲を掻き立てられるように縮こまっている人物と対面してしまった。あいつだけならそのまま素通りでもいい。しかし、明らかに巻き込まれてしまった彼女をそのままにしておくのは酷だろう。


 間が悪いことに、空気を読めない娘が余計なことをする。

「りっちゃんじゃん、どうしたの」

 会話に応答してしまった以上、無関係ではいられなくなった。おまけに、永藤も嫌な顔をしながらも立ち止まっている。実のところ、彼女にとっても見過ごせない事態ではあるのだ。


「聞いてくださいッスよ。佳苗が九重島に行くって聞かないんス」

「どうしてそうなるのよ」

 六花の報告に刹那は頭を抱える。六花と詩亜に詰め寄っていたのが彼女ということで、諸悪の根源は把握できる。しかし、いかなる理論でそんなとんちきな要求が出てくるのか。


「隊長! 九重島に行くって本当ですか」

「ああ。同行が決まった」

 猫なで声で甘えてくる佳苗を永藤は冷淡に応答する。一体いつの間に永藤の同行情報が漏れ出たのだろうか。組織の機密保持に不安を覚えるが、詩亜が耳打ちしてきた。

「刹那さんと永藤さんが言い合っているのを偶然耳にしたみたいです」

 長官に直談判しにいく直前のことだろう。周囲のことなど警戒する余裕がなかったので、厄介な人物の接近を許してしまったのは迂闊だった。


 そして、どうして揉めているか大体予想がつく。

「ずるいですよ。私も連れて行ってください」

 懇願され、永藤は渋面を作った。自分も似たような案件で問題を引き起こしていたことなど棚に上げているかのようだった。

「どうしてついていきたいのか理由を聞こう」

「隊長が行くからです」

「却下だ」

「っていうか、あんたに決定権はないからね」

 ごく自然とリーダーとして振舞っているため違和感がなかったが、今回の作戦で彼女に裁量はない。ともあれ、そう簡単に引き下がる佳苗ではなかった。

「相手がどんな奴か分かんないけど、うちに出動を要請するぐらいでしょ。ならば、強敵なのは間違いない。頭数は多いに越したことはないじゃない」

「理屈としては筋が通っているのよね」

 それは永藤も同感であるらしい。本来予定していなかった人物が一人増えたのだ。もう一人増えたところで支障は無かろう。それでも拒むのは、単に面倒くさいからである。


 論戦で分があると見極めたか、佳苗は更に攻勢をかける。

「私が抜けることでA班の戦力ダウンを気にしているのなら問題ないわ。私や隊長抜きでも十分戦えるぐらい強いんだから。あの班で前線に立っている私が保証するから間違いないし」

 どや顔で胸を叩く。永藤は歯ぎしりしていた。さもありない。同じような理由で西代長官に歯向かっていたのだ。もちろん、刹那にも反撃するカードは無い。


 もしかしたら助け船になるかもしれないと六花たちに視線を送る。だが、

「先輩たちがどう思うか気にしてただけで、私はこいつが増えても問題ないッスよ」

「えっと、大勢で行けば、鬼に金棒、です」

 あっけらかん、およびおずおずと意見陳謝する二人に期待できそうもなかった。もちろんのこと、

「よーし! みんなでバカンスだ!」

 こいつは論外である。


 結局、S班の四人に永藤と佳苗を加えた六人で九重島への魔法少女討伐部隊が組まれることとなった。

「さっそく準備する必要があるッスね。外出許可を取ってくるッス」

「あんた、どこに行くつもり」

「もちろん、準備ッス」

 サムズアップするが、嫌な予感しかしない。刹那も誘われたが、固く辞退しておいた。マシュはともかく、詩亜も同行するからあまり下手な真似はしないと思うが。


 刹那の不参加で六花は食い下がるかと思われたが、あっさりと三人で準備に赴くことにしたようだ。代わりに、「お土産楽しみにしておいてくださいッスよ」とウィンクされたので、刹那はゲンナリとするのであった。

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