直談判
唐突な申し出に刹那は言葉を失った。と、いうのも永藤にしてはありえない申し出だったのだ。
彼女は基本的にチームプレイを重視する。いかにして集団を勝利に導くか。そのためなら私利私欲を犠牲にするのも厭わないはずだ。だからこそ、最強と名高い央間支部A班をまとめあげることができているともいえる。
そんな彼女がチームメンバーをおざなりにした提案を持ちかけるだろうか。単純に考えれば戦力が増えるのだから二つ返事をしたいところ。まして、刹那たちに勝るとも劣らない実力の永藤が加わるのである。
だが、刹那は返答を渋っていた。代わりに投げかけたのは、
「どうしてこの討伐戦にこだわるの?」
至極真っ当な疑問だった。永藤は頭を掻く。よもや、即決を期待していたのか。さすがにそこまで刹那は浅はかではない。
しばし永藤はこめかみに指をあてる。そして、深く息を吐くと刹那に向き直った。
「針の魔法少女。あいつは私の因縁の相手なんだ」
予想外の返答に刹那は「はぁ?」と素っ頓狂な声をあげる。とはいえ、思いつめたような表情を前に刹那はすぐに我に返る。
刹那にとってのデッドリーパーのように、魔法少女に対して因縁を持つ隊員が他にいても不思議ではない。それに、先ほどの西代長官の話から気にかかっていたことがあった。
「もしかしてだけど、前に針の魔法少女と戦った央間支部の隊員ってあんただったわけ」
「そうだが」
あっさりと返答を得る。永藤は央間支部設立当初からの隊員だったと聞いたことがある。A班の隊長を務めているのもその実績があってのことだ。
「針の魔法少女サウザ。あいつは髪の毛を針にして自在に操る能力を持っている。それだけでも厄介だが、単純に戦闘能力が高いんだ。あの頃はまだ右も左も分からなかったから、全力を出せていたとは言えない。それでも、今のA班がぶつかったとしても苦戦を強いられるぐらいの実力はあったと断言できる」
「あんたにそこまで言わせるぐらいの相手が出たってわけね」
刹那は顎に手を添える。そうなると、なおさらもう一人の糸の魔法少女の存在が気がかりだ。針の魔法少女に匹敵するぐらいの力があるのなら、刹那たちの手に余る可能性すら出てくる。
「じゃあさ、直談判しに行こうよ」
明後日の方向から声が響いたので、刹那と永藤は肩を震わせる。発言の主はマシュだ。蚊帳の外に置かれていたので存在を忘れかけていたが、ずっとやり取りを観察していたらしい。
「まさか、西代長官に永藤の同行を懇願しようっての。あのおっさんが許可するとは思えないわよ」
「だが、許可なしに行くわけにはいかないだろう。ってなことで、一緒に来てくれ」
永藤は刹那とマシュの肩に手を置く。痛覚が刺激されるほど力が込められており、拒否を示す余地は無さそうだ。
刹那としては、永藤が加わってくれるのならば言うことはない。味方にしてこれほどまでに心強い人物を他に知らないからだ。
「ダメだ」
指令室で事の経緯を説明し、西代長官から下された判断がそれだった。あまりの即決に開いた口が塞がらなかったほどである。
「どうしてですか。A班でしたら、私が不在でも回りますよ」
「確かに、君が長期入院している間でもA班の出動要請があり、その任務はすべて滞りなくこなしている。しかし、君が不在の間にA班ですら窮地に陥る強敵が現れんとも限らん」
ターボババア戦の時に現れたテミスとベルの存在が尾を引いているのだろう。央間支部の主力が出払っている時に襲撃されたら、最悪壊滅すらもありうる。
「央間を離れるといっても、うまく事が運べばほんの数日でしょう。あいつらのことを危惧しているのなら、そんなピンポイントで隙を突いてくるとは思えないわ」
「だが、万が一のことも考えられる。私だって、神崎や永藤以外の隊員の実力は認めている。しかし、窮地に活路となるのは絶対的なエースの存在だ。いたずらに隊員たちの士気を下げるわけにはいかん」
頑として譲れんと長官は腕を組む。その主張は尤もなことだった。隊長が復帰するという朗報が流れた矢先に、個人的理由で離脱するなど裏切りもいいところだ。隊を任された身として、やろうとしている選択がどれほどの愚策かは自覚しているつもりだった。
それでも、永藤は一歩も引かなかった。言い返す言葉は無いが、ひたすらに長官を見据えている。そんな永藤に並び立つと、刹那は頭を下げた。
「私からもお願いします。永藤を同行させてください」
「神崎。お前、何を言って」
「彼女の気持ちは私もよく分かります。聞きましたよ、針の魔法少女サウザ。奴は永藤にとって因縁の相手だと」
西代長官は舌打ちをする。奴と永藤が戦ったことは長官もまた把握していた。なので、この展開は半ば予期できたことでもあった。
「永藤ちゃんも一緒に来てもいいんじゃないかな。だって、針の魔法少女ってすごく強い相手なんでしょ。自信を持って送り出した私たちがあっさり負けちゃったら、面目丸つぶれじゃん」
「マシュ、貴様」
「まあ、マシュの言うことにも一理あるかもね。央間の体裁を守るために、あえて全力の部隊をぶつける。それで、九重の部隊に恩を売っておくのもありなんじゃない」
刹那があっけらかんと言ってのける。応援要請を受けておいて、はみ出し者を送って負けましたなんてことになったら、支部の名折れである。央間が襲撃を受けるかどうかは不確かな一方、九重島が窮地に立たされているのは明白。ならば、支部の垣根を越えて全力で支援するという考えも通用するはずだ。
「なるほど。面白い考えを言ってくれる」
「聖沢さん」
拍手をしながら西代長官の隣に並び立ったのは聖沢だった。どうしてここにいるんだという刹那の言外の問いを汲んだのか、
「あれだけ騒がしく乗り込んできたのだ。おちおち研究もしてられんよ」
と、気になって指令室を訪れた旨を伝えた。




