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魔法少女バスターズ&フレンジャーズ  作者: 橋比呂コー
File8.車輪の魔法少女
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作戦開始

 刹那主導の地獄の訓練を繰り返しつつ、約束の日を迎えた。幾分対応できるようになったものの、未だ単独で詩亜の暴走の解除には至っていない。無論、詩亜のトラウマの克服などお話にもならなかった。

 今回の作戦では詩亜は運転手に専念してもらうため、それほど支障はなかった。問題とすべきはターボババアが幾程の実力を有しているかである。魔法少女用の特殊弾丸が数発直撃しても健在だった。それであっさり倒せるとは思っていなかったが、下手をしたらやたらと再生力が高い可能性もある。


 幾何かの不安を抱えつつも、一同は支部近くの駐車場に集合していた。作戦支援としてMSB専用車を借りることはできたが、運転手までは用意してもらえなかった。今回はカーチェイスになるため、後方部隊を同乗させるには荷が重いのだろう。また、勝手にターボババアを追ったことへの戒めもあるかもしれない。


 約束の時間よりも少し遅れた原田が合流したことで、刹那は作戦の確認をする。

「作戦なんて物々しいこと言ってるけど、やることは前にターボババアをおびき寄せた時とほぼ同じよ。隣町の海道を高速で通行。ターボババアが出現して動向を確認し、敵意が認められたら仕留める」

 魔法少女が出現した後ならまだしも、確定的に出会えるわけでもないのに高速道路を封鎖するわけにはいかなった。そこで、妥協案として浮上したのが、夕時になると交通量が減り、比較的高速走行できる海沿いの国道だった。


 前回と布陣はほぼ同じ。違う点は原田がいるかどうかだ。ターボババアが本当に彼を目的としていたなら、全く異なった反応をするはず。そうでなかったら捜査が振り出しに戻るので、彼には悪いが何らかの動きを示してほしいところだ。

 できるだけ目立つ位置ということで、原田を助手席に乗せる。後部座席の窓際には戦闘力に優れる刹那とマシュが陣取る。間に挟まれる六花は肩身が狭そうであったが、ライフル銃を構えてやる気は十分だった。


「なあ、君が運転してくれるんだろ。腕前は自信があるのかい」

「えっと、頑張り、ます」

「そう緊張しなくていいって。ターボババアだっけ? あんなの、本当に来るか分かんないから、軽くドライブを楽しもうや」

「は、はあ」

 自分が置かれている立場を自覚しているのか。そんな横やりを入れたくなるほど、原田は詩亜へのナンパにご執心だった。後部座席の三人が放置を決め込んだのは彼に呆れたからではない。この後、彼に訪れる悲劇を哀れんだからだ。


 詩亜は深呼吸をするとエンジンをかける。勢いよく始動音が鳴り響いたかと思うと、力強くハンドルを握った。

「よっしゃ! しっかり掴まってな!」

「お、おう」

 原田が明らかに引いていた。困惑する彼を置き去りにし、車は急発進する。説明を求めるように原田が後部座席を振り返ったが、刹那たちは素知らぬ顔をしていた。ターボババアと詩亜の運転。両者に対応しなければならず、彼に構っている余裕はないのだ。


 警察に見つからなかったのが奇跡な勢いで車は目標の海沿いの国道に差し掛かる。日が照っていれば、車窓から流れる水平線が絶景であった。しかし、斜陽となった今では、遠方の漁船の光が怪しく輝くばかりだ。


 一本道とはいえ、急カーブや急こう配が続く難所である。若葉マークが外せないぐらいの技量のはずなのに、難なく走り抜けているのは天賦の才だろうか。

「おらぁ! どこだ! 魔法少女!」

 いつ現れるか分からない敵を前に口を開けずにいる一同。そんな中、詩亜の威勢が独壇場となっていた。

「なあ、ターボババアなんてのは本当に来るのかよ」

「確証はしかねるわ。説明したように、運の要素が大きく絡むから」

「君たちみたいな可愛い子とドライブできるから悪くはないが、俺も暇じゃねぇんだけどな」

 ぶつくさ文句を言いながら、原田は窓によりかかって頬杖をつく。走り続けて一時間は経とうとしただろうか。マシュが唐突に「なんだろ、あれ」と声をあげる。


 後方よりどんどんと大きくなっていく異質な走行音。車ともバイクとも違う。例えるなら、台車を無理やり高速走行させたような。

 当惑する原田をよそに、刹那たちは内心ガッツポーズをしていた。ようやく釣れた。

「どこだ」

 その声が聞こえるや、原田は情けない悲鳴をあげる。出現したのは運転席側だ。刹那はライフル銃を構えるも、発射するのを堪える。まだタイミングではない。


 ターボババアは急減速したかと思うと、路肩に回り込んで猛進してくる。そして、刹那たちの車に追いついたかと思うと、助手席に乗っている原田と真正面から対峙した。

 間近で観察すると素朴だが整った顔立ちではあった。だが、見惚れる暇など許さないとばかりに、大口を開けてニタリと笑う。

「見つけた」

 サイドミラーをがしりと掴み、窓ガラスを叩いてくる。正面衝突したなら別だが、そうでないなら車の強化ガラスはそう簡単に割れることはない。だが、ターボババアが叩きつける拳で徐々に亀裂が入ってきている。


「詩亜、車を止めて」

「しゃらくせぇ」

 言いつつも急ブレーキを踏む。前のめりになりつつも、刹那は車から飛び降りる。そして、車内へと執着しているターボババアに倶利伽羅丸を突きつけた。

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