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魔法少女バスターズ&フレンジャーズ  作者: 橋比呂コー
File6.手腕の魔法少女
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魔法少女とは何者か

「マシュと言ったか。生で見るのは初めてだけど、本当に魔法少女なのかい」

 純子が挑発するようにグラスを揺らす。すると、マシュはおもむろに立ち上がってどや顔を披露した。

「変身」

 特撮ヒーローよろしくポーズをとり、指を鳴らす。途端、髪が伸び、肩から触手が出現した。衣装も隊服からドレスに変更されている。


「おおー! 生変身! すごいッス、もう一回やってもらっていいッスか」

「いいよ~」

 マシュは人間形態と魔法少女形態に繰り返し変貌する。その度に六花は声援を送る。デパートのヒーローショーを応援する子供みたいだと思ったが、声には出さないでおく刹那だった。


「しかし、分からないな」

 純子が唸っている。凝視され、マシュが腕で体を抱いた。

「服が一瞬で変わっているのはどういう原理だい。下着ぐらい覗いてもいいはずなのに、その瞬間すらない」

「ああ、それは私も思ったわ。本当にどうなってんの、それ」

「先輩も魔法少女になったときに服が一瞬で変わったじゃないッスか」

「そうだよ、どうやったんだよ」

「マシュ、あんたは便乗しなくていい。どうやるもなにも、そもそも魔法少女への変身の仕方すら分かんないから」

 刹那が変身した際は、隊服が白装束へと変化していた。もちろん、その仕組みを把握しているわけはない。むしろ、刹那が教えてほしいぐらいだ。


「多分、特撮ヒーローが変身した時に服が変わるのと同じ理由なんじゃないッスか。光学迷彩で変わったように見せかけているとか。原理はあるだろうけど、追求しちゃダメなやつッス」

「ツッコんだら負けというやつかな。服が変わること自体はさしたる問題じゃないからね。変身が解けたら素っ裸になるわけではないだろう」

「そうだったら大惨事だったわよ」

 思わず刹那は自分の体を抱き寄せる。全裸でデッドリーパーと交戦するという間抜けを犯さなかったことを鑑みると、光学迷彩説が濃厚だろう。


 むしろ、純子が指摘した通り、議論すべきことは他にある。

「服がどうこうはどうでもいいわ。それよりも、魔法少女そのものの方が問題だわ。マシュ、単刀直入に聞くけど、あんたら何者なの」

「質問が漠然としすぎだよ。うーん、せっちゃんたち人間とは違うと思うけど。どう答えたらいいかな。魔法少女は魔法少女としか言いようがないな」

 人間は人間だみたいな返答に、刹那は頬杖をついていた腕を挫く。質問が悪いから自業自得ではあるが。


「魔法少女の正体についてか。ネット上でも色々と議論が重ねられているな。面白そうな説はいくつかあるけど、決定的なものは無さそうだ」

 純子は片手間でパソコンを操作する。刹那も興味本位で調べたことがあるが、小説投稿サイトに載せたらどうというものばかりで、すぐにページを閉じたぐらいだ。


「フッフッフッ。魔法少女の正体ならこれという説があるッス」

 自信満々に胸を張る六花。興味を示したのはマシュだけだった。刹那と純子は無言でお菓子を咀嚼している。

「ずばり、異世界からの転生者ッス」

「ネット小説の読みすぎじゃない」

「真面目に聞いてくださいッスよ」

 刹那の上半身を揺さぶる六花。ただ、純子は「面白そうじゃないか」と眼鏡をかけなおした。


「魔法少女が人間離れした力を持っているのは転生した際のチート能力ッス。小説だと異世界に転生した時にチート能力を貰って無双するじゃないッスか。あれの逆バージョンッス」

「まあ、それは分からなくはないわね」

「そして、意思疎通できないのは元々異世界人だからッス。あいつらは付け焼刃で覚えた言葉しか使えないッス」

「でも、マシュは普通に会話できてるわよね。あんた、異世界人なわけ」

「違うと思うな。チート能力? ってのも貰った覚えないし」

 魔法少女当人に否定され六花は崩れ落ちる。

「第一、うわ言をしゃべっているからって異世界人だなんて短絡的すぎよ。全く理解できない言葉をしゃべっているわけでもあるまいし」

「さっきは肯定してくれたじゃないッスか。詩亜はどうッスか。私の説、いいと思うんスけどね」

「え、ええっと」

 いきなり話を振られ、詩亜は困惑する。先ほどからずっと借りてきた猫のようにおとなしかったのだ。


「そんなに緊張しなくていいわよ。こいつらは基本、バカな話しかしないから」

「す、すみません。あんまり、女子会、っての慣れてなくて」

「おお! 女子会。いいね、いい響きだね」

 興奮して腕を振り回すマシュ。言われてみれば女子五人が同室で団らんしているのだ。女子会の範疇には入るだろう。


「それで、魔法少女でしたね。私は、異世界人説はありだと、思います」

「ほらぁ、詩亜ちゃんも言ってるじゃないッスか」

「眉唾ものの説だけど、あながち的外れでもないんだよ。ネット上でも異世界人ではないかとつぶさにささやかれているし」

 更に助け船を出したのは純子だった。六花が唱えている通り、この世ならざる力を持っているのはチート能力のせいだというのを根拠にしているようだ。


「それに、魔法少女というなら刹那自身も心当たりがあるんじゃないのかい。デッドリーパー戦で変身したというし」

「だから、あれは覚えがないって言ってるでしょ。さっきも聖沢宗清っていうおっさんに追求されて辟易してたんだから」

「聖沢宗清に会ったんスか」

 大声を張り上げて前かがみになる六花。その衝撃たるや、詩亜までもが飲みかけたジュースを吹き出しそうになるぐらいだ。


「聖沢宗清って誰? 偉い人なの?」

「偉いってもんじゃないッス。MS細胞を発明し、日本で最もノーベル賞に近い男と称されてるんスから。現役総理大臣と同じぐらい知っていて当然ッスよ」

「魔法少女研究に強力な助っ人を呼んだという噂が立っていたが、まさか聖沢宗清だったとはね。お上も幾分本気を出してきたじゃないか」

「そんなすごい人なんだ。名前からして男の人だよね。西代というおじさんみたいな人かな」

「あのハゲと比べ物にならないわよ。まあ、会った感じ、うさんくさいおっさんだったけど」

「聖沢宗清をおっさん呼ばわりできるの先輩ぐらいなものッスよ」

 将来、教科書に掲載されるかもしれない人物をコケにしているのである。六花が呆れるのも無理はない。


「ともあれ、魔法少女の正体については神のみぞ知るというわけだね」

「なんかはぐらかされた気がするッス」

 六花は不満げではあるが、これ以上議論しても有益な説は出ないだろう。毎度のことながら判断材料が少なすぎるのである。


 六花は背の後ろに手をついて足を伸ばす。自室にいるかのようなくつろぎぶりだ。刹那が「はしたないわよ」と足を叩くのも無理はない。

 すると、六花の指先があるものに触れた。アニメのDVDのようだ。幾分と昔の作品なのか年季が入っている。

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