マジガル談義
興味本位で手にした瞬間、眼球を全開にすることとなった。
「魔法少女ふたりでマジガルのDVDじゃないッスか! 純子先輩もマジガル好きなんスか!」
「その作品に目をつけるなんて分かっているじゃないか。幼稚園ぐらいのときに買ってもらったやつでね。昔はよく見ていたものさ」
「同じやつ私も持ってたッス。懐かしいッスよね」
「その、マジガルっての、なんなの?」
「「知らないのか」」
六花と純子が見事にハモる。マシュは思わず耳をふさいだ。
「魔法少女ふたりでマジガル。普通の中学生エリカとカレンが魔法少女レッドマジガルとブルーマジガルに変身し、ダイアクトーを復活させるためにワルイコトエナジーを貯めている悪党たちと戦う物語ッス」
「子供向けながら高いクオリティで人気を博したんだよな。あれが日曜の朝にやっていたのが信じられないよ」
「せっちゃん、知ってた?」
「さすがにマジガルは知ってるわ。私も見てたし」
「私も。スペシャルハートとか見てました」
「続編ッスよね。アクアスターや5人でマジガルズも捨てがたいッス。あとはソウルキャッチは定番ッスね」
「ソウルキャッチを推すとは分かっているじゃないか。あれは名作と名高い」
「ソウルキャッチは、水木那奈が声優をやっているやつでしたっけ」
「ブロッサマジガルッスね。個人的には相棒のマリンマジガルが推しッス」
「あんたら、マジガルで盛り上がりすぎでしょ」
スペシャルハートの辺りから刹那は全くついていけていない。日曜朝にやっている子供向け番組はわりと早く卒業した口である。無論、マシュが蚊帳の外に置かれていることは言わずもがなだった。
「でも、残念ッスよね。途中で打ち切りになったんじゃないッスか」
「あの化け物たちのことを『魔法少女』と呼称するようになり、魔法少女アニメが一斉に放送自粛になったんだっけな。風評被害もいいところだよ。アニメで描かれている魔法少女とは別物なのに」
憤まんやるかたなしと、純子はスナック菓子を貪る。人間を超越した魔法のような力を持つ少女だから「魔法少女」と呼ばれているだけであり、従来の意味の魔法少女とは特段関係性はない。もっとも、バーニングレッドのように魔法としか思えない力を持つ個体もいるから、一概に違うとは言えないわけだが。
「でも、今度久しぶりにマジガルの完全新作が放送されるッスよね」
「え、そうなん、ですか」
「Hiro Girlsマジガルだったな。ようやく、風評被害から脱したようでうれしいよ」
その後も公式サイトを開いたりしていて、完全に刹那とマシュは取り残されていた。純子はともかく、詩亜がくいつくのは意外であった。メジャーなアニメ作品であり、ファン層が厚い証拠だろう。
そして、マシュが「そんなに面白いなら見てみたいな」と発言してしまったことに端を発し、ひたすらマジガルのアニメを流す鑑賞会と化してしまった。正直、今更子供向けアニメを楽しめるわけはないと高を括っていた刹那であった。だが、純粋無垢にアニメを楽しむマシュに感化されてか、次第に釘付けになっていくのであった。
もちろん、夜更かしをして長官に叱られたのは言うまでもない。
新たにS班が発足して数日。魔法少女が出現する気配もなく、ひたすら鍛錬に励む日々が続いていた。
詩亜は引っ込み思案な性格に難はあるものの、基本的な訓練は難なくこなしている印象だった。唯一不可解だったのは、射撃訓練を金属アレルギーで欠席したことぐらいだろうか。そんな内情を抱えているなら、MSBに採用されたこと自体謎になってしまうが。
そして、マシュは訓練において手加減という言葉を知らなかった。この日の走り込みでも、刹那が全力疾走してかろうじて肉薄できるぐらいの走力を披露してみせたのである。刹那が訓練で疲労困憊する姿など、他の隊員にとっては珍獣を眺める心地だった。
「マシュ、あんた少しは手を抜きなさいよ」
「本気じゃないと訓練にならないじゃん」
「まあ、それはそう、だけど」
涼しい顔で正論をぶつけられ、文句を飲み込む刹那であった。マシュがまだ底力を発揮していないとしたら鍛錬不足ということになってしまう。もっと精進せねば。
そんな決心をしていたところ、西代長官から招集がかかった。対象となったのは刹那、マシュ、六花、詩亜というのが作為的だ。
「訓練途中で悪いのだが、君たちS班に出撃要請がかかった。ただちに現場に向かってもらう」
「おお! 初仕事だね。あれ、じゅんちゃんはどうするの」
「純子は足の怪我で実戦参加できないって前に言ったでしょ。リモートでサポートしてもらうわ」
汗をぬぐいながら、刹那はマシュを窘める。相変わらず分が悪い時に出現するなと文句の一つでもぶつけたいところではある。だが、久しぶりの出動なのだ。倶利伽羅丸を握っているかのように拳を固める。
出現地点は隣町。車で数十分といったところだろう。既に機動隊が応戦しているという。
「私たちに出動要請がかかったということは、相手はそれほど大したことはないかもしれないわね」
「どうしてッスか」
「デッドリーパークラスの相手ならA班に真っ先に要請がかかるはずでしょ。主力部隊を動かす必要性がないなら、そういうことってわけ」
「だが、油断は禁物だ。君にマシュ。この二人だけでもA班に匹敵する戦力があるのだからな」
「そういうことにしといてあげるわ。さっさと行くわよ」
三人を先導して訓練場を後にしようとした刹那。だが、直前になって西代長官が待ったをかける。
「神崎、言い忘れていたことがある。宍戸隊員に決して武器を握らせてはならん」
「金属アレルギーだからですか? まさか、徒手空拳で戦わせるわけじゃないですよね」
あまりに不可解な忠告に刹那は首をかしげる。射撃訓練を欠席していたことと関係があるのだろうか。
「詳しい理由を説明すると時間がかかるから省かせてもらう。とにかく、彼女には徹底的に後方支援を担ってもらう。魔法少女は神崎隊員とマシュ。そして、補助として倉間隊員で討伐できれば御の字だ」
刹那とマシュの二人であればそんじょそこらの相手には後れをとらないだろう。だが、すんなりと許諾しかねる命令ではある。当人が押し黙ったままというのも謎を極めた。
ともあれ、うだうだと西代長官に逆らっていても詮無き事である。裏方隊員が運転するバンに乗り込み、現場へと急行する。
魔法少女が暴れていたのは住宅街の一角だった。昼下がりでもともと人気は少ないのだが、機動隊員により住民の避難が完了しているのか完全に静まり返っている。
静寂が場を支配しているのは住人がいないためだけではなかった。機動隊員が集結してはいるものの、交戦している様子はない。一様に空を見上げ、そのまま固まってしまっている。
「なんだか妙な雰囲気ッスね。本当に魔法少女はいるッスか」
「デマじゃないの」
疑いかかる六花にお気楽を貫くマシュ。油断させておいて奇襲するつもりかと、刹那は倶利伽羅丸を抜刀する。
「多分、あれじゃない、ですか」
詩亜がおずおずと天を指差す。その先を追うように顔を上げ、一同は「あ」と声を漏らした。
問題の魔法少女は電線にぶらさがっていたのだ。両腕の筋肉が異常に発達しているうえ、普通の人間よりも長い。テナガザルという比喩がしっくりする。それでいて、従来の魔法少女と同じく、可憐なドレス姿であどけない少女の顔立ちをしているのだ。
ちなみに、本家だとスプラッシュスターが好きです。オトナプリキュアで咲舞復活とか神すぎるんですけど。




