デッドリーパーとの邂逅
東地区付近と場所は特定できたものの、明確な地点は明らかにされていない。正直、砂漠の中から宝石を探すようなものだ。途中、他の隊員とすれ違ったものの、彼女たちも遭遇できていないという。
そんな状況であるにも関わらず、巡り合うことができたのはまさに運命というべきであろうか。放置してある車の上で不敵に佇む一人の少女と対面できたのは。
黒い外套を身にまとい、顔を隠しているフードを外している。長い黒髪は風に揺れており、その体躯も流されてしまいそうなほど華奢だ。だが、凶悪そうな目つきと犬歯がただの可愛らしい少女ではないことを物語っている。
その姿を認めた瞬間、刹那は武者震いした。自然と倶利伽羅丸を抜刀して奴に突き付ける。
「ようやく出会えたわね、デッドリーパー!」
叫び呼ばれたデッドリーパーは胡乱そうに振り向く。追いついてきた六花は彼女の姿を目にした途端、身をすくめた。常人が睨まれたら金縛りに遭うぐらいの威圧感がある。
それでも、刹那は果敢に歩み寄っていく。その態度にデッドリーパーは口角を上げ、車から飛び降りてくる。
「久しぶりに大暴れしようと思ったがよぉ、全然人がいねぇんだぁ。しかも、やりがいがありそうな相手じゃぁねぇかぁ。少しは楽しませてくれるんだろうなぁ」
独特のねっとりとした口調。すべての運命を狂わされたあの日に聞いた声と全く同じであった。
「あんたを楽しませるつもりはない。私の家族を奪った仇。この手で討ち取らせてもらうわ」
宣戦布告を受け、デッドリーパーは右手を広げる。すると、どこからともなく大鎌が出現した。それを握りしめるや、鮮やかに振り回した。
「先輩、他の隊員に連絡しなくていいンスか。確か、交戦しないで特定ポイントに誘導するんスよね」
「したければすれば。私がこいつの死体を持って行ってあげるわよ」
「ああ、そういう展開になりますよね」
諦めつつも六花は長官に電話を入れる。通話が繋がる前から胃が痛くなる思いだった。
六花ですら視界に入っていないかのように、刹那はデッドリーパーとにらみ合いを続ける。互いに間合いを図っており、まさに一触即発といったところだ。
先に動いたのは刹那だ。気合の雄たけびを発しながら突進していく。デッドリーパーとすれ違いざまに倶利伽羅丸を振るう。
並みの魔法少女ならば一刀両断にされて終わっていてもおかしくはない。実際、先制の一撃でろくに攻撃させずに勝利したことも幾度となくあった。
だが、もちろんのことデッドリーパーは並みの魔法少女ではなかった。太刀筋を見切っているかのように体を反らし空振りさせる。間髪入れずに剣戟を続けるが、ことごとく往なされてしまう。
相手に反撃の機会を与えないよう、連続で攻撃しているつもりではある。だが、デッドリーパーはあえて反撃していないように思える。回避している様に余裕すらにじんでいるのだ。
ひょうひょうとした態度を崩せず、刹那に焦燥が浮かぶ。そんな彼女をあざ笑うかのように、デッドリーパーは鎌を一回転させる。その旋風と倶利伽羅丸が接触する。それが反撃ののろしだった。
ずっと攻め続けていたつもりだった。なのに、刹那はいつの間にやら、倶利伽羅丸によりデッドリーパーの大鎌を防ぐのに手いっぱいになっていた。少しでも肉体と接触したら大怪我は免れない。もちろん、デッドリーパーとしても条件は同じはずだが、彼女の攻撃に迷いは感じられない。それどころか、刹那が切り込んでくるのを歓迎している節すらある。
やむを得ず、刹那は一旦距離をとる。戦闘開始直後だというのに、既に呼吸を乱されていた。交戦して分かるが、奴相手に近距離戦は分が悪すぎる。西代長官の作戦通り、ライフル銃でハチの巣にするのが最も勝率が高そうではある。
「もう、終わりかぁ? なら、こっちからいくぞぉ」
とはいえ、デッドリーパーもわざわざ苦手な遠距離戦を臨むつもりはなかった。刹那はとっさに倶利伽羅丸で防御できたものの、並みの隊員ならば急速接近された時点で鎌の餌食にされていただろう。
完全に攻守が逆転したことで、刹那は露骨に苦悩の表情を浮かべる。デッドリーパーは歓喜の声を上げながら絶え間なく切りかかってきており、それを防ぐので手いっぱいだ。実際に刃を交えたからこそ実感してしまう。奴の太刀筋は刹那の剣戟の勢いをゆうに上回る。つばぜり合いを続けていては、そのうち致命傷を受けるのは明白だ。
なので、刹那がとった一か八かの手段は足払いだった。武器で交戦している最中に足元を狙われたら、どうしても注意がそがれることになる。デッドリーパーといえど、無意識の現象に抗うことはできなかったようだ。
攻撃が止んだ隙をつき、刹那は後方へと退避する。本来ならば反撃に転じたいところであった。だが、受け身の一手を取らざるを得ないほど、デッドリーパーは規格外ということだ。つまらなそうに舌打ちする奴を、刹那は恨めしそうに睨んでいた。
蚊帳の外に置かれた六花は西代長官と連絡をとっていた。高速で繰り広げられる剣術を前に、ゆったりとした着信音はひどくもどかしい。
「倉間隊員か。進展はあったか」
「あったってもんじゃないッス。デッドリーパーを発見したッス」
「本当か」
電話越しからでも長官が立ち上がったのが分かる。実際、目標発見の報を受け、本部は蜘蛛の子を散らしたかのような騒ぎになっていた。
デッドリーパー討伐作戦がいよいよ始動するわけだが、西代長官は六花からの報告に早くも頭を抱えるのであった。
「それで、例の地点への誘導の件だが」
「無理ッス。先輩が現在進行形で交戦中ッス」
苦悩の原因は他でもない。よりによって刹那と邂逅してしまったからだ。隊員で誰よりもデッドリーパーを憎む彼女が対面してしまった場合、どういう顛末になるかは十分予期できた。
なので、対策もきちんと用意してある。
「仕方ない。プランBに移行だ。メンバー全員に通達。神崎隊員が目標と接触し、現在戦闘中。指定地点に合流し、彼女を支援せよ」
西代長官からの命を受け、時間差で「了解」の声があがる。次いで、長官は六花と個別に連絡をとる。
「現場の状況を逐次確認したい。スマホのカメラ映像をこちらへ送ってくれないか」
「オッケーッス」
返答からしばらくして、六花から現場の映像が送られてくる。普段なら遠隔からライブカメラで実況しているのだが、デッドリーパーの所在がはっきりしていないため飛ばすことができずにいたのだ。
刹那とデッドリーパーが刃を交えているのはビルが多く立ち並ぶ繁華街。奇しくもD事件が発生した場所と環境が酷似していた。幹線道路があるものの、十数人で袋叩きにするには狭すぎる。それどころか、デッドリーパーが遮蔽物を利用して各個撃破する戦法で出てこられたら圧倒的に不利だ。
残された勝機は刹那がデッドリーパーの体力を大幅に削ってくれること。現時点で最強の戦力がどれだけ通用するかにかかっている。
「神崎刹那。よもや、君の執念の深さにかかっていようとは。頼むから持ちこたえてくれよ」
祈ることしかできないのがもどかしい。唯一、幸いだったのは最も早く合流できそうなのが永藤と佳苗のペアだということだった。




