意外なやつとの遭遇
純子が掴んだのは短文投稿型のSNSに寄せられた一文だった。「やべえ、本当にいた」とのつぶやきとともに、一枚の写真が投稿されていた。
ビルの立ち並ぶ繁華街で一人の少女が首を伸ばしている。フードは外されているが特徴的な黒い外套をまとっており、知る者が見れば一発で奴だと分かる。他に人影がなく、それが却って合成写真のような違和感を生んでいた。
ネット上でも「いたずら乙」などと、作為的なものだと指摘する声があった。だが、国家組織の機密情報にアクセスできる純子が素人の合成写真を見破れないわけはない。すぐに解析した結果、「ビンゴ」と指を鳴らしたのだった。
「一応、合成写真によるいたずらという線は捨てきれない。けれど、素人が使いそうなソフトを使って弄ったような形跡はなかったんだ。むしろ、若干ではあるがシャッターを押した際に手振れを起こしている。合成写真ならば、ネット上に転がっている背景写真を使うはずだから、手振れが起きる可能性は低い。こいつは現地で撮られたと仮定していいだろうね」
「毎度のことながら、よく一枚の写真からそこまで推察できるわね」
戦友の手腕に刹那は脱帽するばかりであった。
「そして、ここからが本題だが、この通りは東地区かと思われる。小さくバス停が映り込んでいるのだが、停留所を検索したところ、該当するものがヒットした。こいつが撮られたのは三十分前だ。そこから移動しているとは思うが、魔法少女とはいえ徒歩での移動距離はたかが知れている。東地区を重点的に探すのが最も効率がいいだろうね」
「ありがとう、助かったわ、純子」
お礼を述べて通話を終了するや、刹那は真っ先に駆け出す。遅れじと六花も追随する。
刹那たちがいた中央地区から徒歩で移動するなら三十分以上かかる。もし、デッドリーパーが中央方面に向かっていたとしたら、途中で鉢合わせるかもしれない。もちろん、東地区にも他のMSB隊員の捜査が及んでおり、発見報告が挙がる可能性もある。ただ、刹那の本望は自ら奴と遭遇することだ。獲物を追う肉食獣のごとく、脇目も振らず走り抜けていく。
そんな刹那の執念が実ったのか、ついに対面を果たすこととなる。ただし、全く予期しなかった相手とだが。
「あれ、せっちゃんじゃん。切羽詰まってどうしたの」
「マシュ。どうしてここに」
ビルの曲がり角を曲がった先で、厄介な存在とぶつかりそうになった。低空飛行しており、触手を剝き出しにしている。初対面の時と同じようなドレスを着用していて、普通の人間だとカモフラージュするつもりは毛頭無さそうだ。
「触手の魔法少女じゃないッスか。先輩、どうします」
「退治したいところだけど、それどころじゃないのよね」
「せっかく会えたのに、扱いが存外すぎない?」
マシュはブータラと不平を露わにする。正直、マシュとの邂逅は想定の範囲外すぎたのだ。前哨戦として交戦するべき相手ではないし、素直に見逃してくれるとも限らない。
今すぐに倶利伽羅丸を抜刀したいところ、必死になって左手で右手を抑える。そのまま刹那はマシュに尋ねた。
「もう一度聞くけど、どうしてこんなところにいるのよ」
「バイトしてたら緊急事態宣言が発令されたとかいって、みんなお家に帰っちゃうんだもん。仕方ないからせっちゃんと遊ぼうと思って、空から探してたわけ」
MSB隊員しかいないのであれば、上空から探索すれば容易に刹那は発見できるだろう。ただ、低空飛行していたのならば、他の隊員に見つかってもおかしくはない。ただ、その点に関しては急上昇するなどしてうまく逃げてきたそうだ。
「それに、こんだけ人が少ないなら、ビルの屋上からでもせっちゃんを判別することができるし」
「あんたの視力ってマサイ族並みなの」
「多分、それ以上あると思うッスよ」
一般的に鳥類は視力に優れているとされている。マシュも飛行能力を有している以上、並外れた視力を持っているということか。
それはさておき、どうにかしてマシュをやり過ごさねばならない。そのために最適な話題を探っているのだが、全然思い浮かばない。地団太を踏む刹那に感づいてか、六花が助け船を出した。
「そういや、空を飛んでいて妙なやつを見かけなかったッスか。例えば、黒い外套を羽織っているやつとか」
「あー、いたね。そんなの」
あっさりと有益すぎる証言が飛び出し、刹那は無意識にマシュに肉薄する。
「どこ! どこにいたの!」
「ちょ、ちょ、ちょ、近いって」
六花に袖を引っ張られ、ようやく刹那は居直る。マシュの触手がへたれているのは気のせいではあるまい。
「えっと、あっちの方角かな。全身真っ黒な子が歩いてたよ。なんか気になったから覚えてるんだ」
そう言って指差した先は刹那が向かっている方向と合致した。純子の捜査の裏付けもある。奴が潜伏していてもおかしくはない。
「でも、あの子には近寄らない方がいいと思うな。遠目でもすごく嫌な感じがしたし。もしかして、せっちゃんが追っている魔法少女だったりする? だったら、なおさらやめといた方がいいよ」
マシュの語り口からは普段の軽率さが消え失せていた。伝播されたのか六花が「どうしますか先輩」と心配する始末だ。
だが、刹那の答えは変わらない。
「奴がいると分かったのなら、行くしかないじゃない。おあいにくだけど、あんたとは遊んでいられないの。さっさと行かせてもらうわ」
マシュが口を開きかけたが、刹那は強引に押しとおる。その勢いはマシュが反撃し損ねたぐらいだった。
残された六花はどうしようかと首を左右に動かしていたが、「待ってくださいよ」と慌てて刹那の後を追っていく。
「本当にやめておいた方がいいのに。せっちゃんのバカ」
独り言ちつつも、マシュも遥か後方から追尾していく。そして今度こそ、運命の瞬間が訪れるのであった。




