デッドリーパー捜索命令
純子が予期した通り、情報を仕入れてからしばらくして、西代長官より招集がかかった。指令室に集められた少女はそわそわと落ち着かない様子だ。それもそのはずで、A班のみならず、B班までも集結しているのだ。
「緊急の指令があるってどういうことッスかね、先輩」
「どんな依頼だろうと、隊長と一緒に行動できるなら本望だわ」
六花と佳苗はそれぞれ敬愛する先輩にすりよっている。あらかじめ事情を知っている刹那はともかく、永藤もまた落ち着いた様相で長官の机を見据えている。
ややあって、西代長官が咳払いしながら入室してきた。おしゃべりに興じていた少女たちは一瞬で押し黙り敬礼する。
「諸君らに集まってもらったのは他でもない。魔法少女に関する緊急の指令が下った。もったいぶったところで無意味だから先に言っておこう。魔法少女デッドリーパーが出現した」
その名が出た途端、隊員たちはざわめきだした。逆に刹那は予定調和というように拳を握っている。
西代長官は背後のスクリーンにニュース映像を流す。最近のワイドショーで繰り返し報道されている、とある殺人事件のものだ。
「既に知っている者もいると思うが、央間市にて会社員の男性二人が殺害される事件が発生した。報道では容疑者は捜査中となっているが、殺害方法からデッドリーパーであることはほぼ確実である」
静まり返った室内で、西代長官はさらに続ける。
「既に逃走している可能性もあるが、奴はこの周辺に潜伏していると考えられている。そこで諸君らには奴の捜索を担当してもらいたい」
「捜索? 討伐では無いんですか」
永藤が質問する。西代長官は渋い顔でうつむいた。
「もちろん、最終的には討伐を目指す。だが、まずは捜索を念頭に置いておいてほしい。正直、奴に対抗できる有効な手段は無いと言ってもいい。唯一、倒せるとしたら君たち全員で袋叩きにすることだ。なので、発見次第他の隊員に報告。そして、交戦を避けながら、このポイントに誘導してもらいたい」
スクリーンを地図に切り替える。示された地点は市街の外れにある広場だった。周辺に住宅が少なく、数十人が集団で戦うのに十分な面積がある。袋叩きにするなら最適な場所といえる。
「念には念を入れておくが、誘導するにあたって最低限の攻撃を除き、決して交戦しようとしてはならない。正直、単独で勝てるような相手ではないからな」
彼の視線はまっすぐに刹那を捉えている。当人は不敵な笑みを浮かべている。長官は苦虫を嚙み潰したような顔をしたが、すぐさま咳払いをして平生を取り戻す。
「君たち全員に集まってもらったことから分かる通り、今回の任務はA班とB班全員で行う。この支部が発足して以来となる大規模な作戦となるが、気を引き締めてとりかかってもらいたい」
「了解」
永藤を先頭に一斉に敬礼する。かくして、最悪の魔法少女との死闘が幕を開けたのである。
西代長官から作戦が伝えられてからしばらくして、テレビでも例の殺人事件の容疑者は魔法少女デッドリーパーであるとの速報が流された。同時に、央間市に対して緊急避難命令を発令。住民に不要不急の外出を禁じる処置を施した。殺人事件に対する対応としては異例であるが、相手はその気になれば百人規模の人物を殺せる存在だ。おまけに、現状最強の武装組織でも倒せるかどうか確証はないと来ている。災害を想定して行動しても十全とはいえまい。
市街に繰り出した刹那は六花と二人で捜索にあたっていた。今回はあくまで討伐ではなく捜査がメインだ。その範囲が央間市全域にあたるうえ、A班とB班の合同任務ときている。なので、少人数の気心の知れた者同士となるのは当然である。
刹那としては単独で挑みたかったのだが、六花が勝手に付いてきた。厄介払いするわけにもいかないし、彼女ならば足手まといになることもなかろう。とはいえ、いつもはのんきに揺れているアホ毛がしなだれているのは気のせいではあるまい。
平日の昼間とはいえ、普段なら多くの人で賑わっている。なのに、深夜かと勘違いするほどに人影がない。車すら滅多に通らないため、車道を我が物顔で歩いていても支障がないレベルだ。
「先輩。本当にこの辺りにデッドリーパーはいるんスかね」
「犯人は現場に戻るって言うでしょ。それに、こっちには強力な支援者がいるんだから」
首をかしげる六花に、刹那はスマホを見せびらかす。得意げにダイヤルした先はもちろんあいつだ。
「もしもし、純子。例の作戦は進めてる?」
「問題ないさ。着実に情報は集まっているよ」
電話先から得意げな声が伝わってくる。自然と刹那の口角も上がった。
実は、あらかじめ純子にはデッドリーパーについての情報を集めてもらうように依頼していたのだ。指示自体は漠然としていたが、それで刹那の要求を満たすことができるあたり、彼女の非凡さが窺い知れる。
彼女の自室のパソコンには無数のSNSが同時に表示されていた。それらを逐一確認しつつ、刹那との通話を進める。
「いくら非常事態宣言が発令され、外出が規制されているとしても、人間の野次馬根性ってやつは抑制できないのさ。台風の時を思い出してみろ。強風や大雨の中で出歩くバカが必ずいるだろ」
「ああ、いるッスね。私もやったことあるッス」
「あんた、何やってんのよ」
刹那のスマホのスピーカーを起動しているため、両者の会話は六花にも聞こえている。相棒の若気の至りに呆れたのはさておき、純子の報告を待ち受ける。
「今回の例も然りだ。いくら災害レベルの殺人鬼が潜んでいると注意喚起したところで、探しに出回る奴はいる。それで、面白半分にSNSに投稿してくれれば、そこから奴の現在地が割り出せるというわけさ」
本来であれば糾弾されるべき行為ではあるが、現状においてはありがたいの一言だった。なにせ、一切対抗手段を持っていないのにも関わらず捜査に協力してくれるのだから。
とはいえ、都合よく有益な情報が舞い込んでくるほど甘くはない。純子の目論見通り、「デッドリーパーがいるかもしれない央間市に来てみた」のような投稿は散見されたのだが、実際の目撃例は皆無だ。
もちろん、刹那と六花も純子に任せきりというわけにはいかない。潜伏していそうな路地裏などをつぶさに探っていくが、雑多な虫ぐらいしか出てこない。
これといった進展がないまま、闇雲に時間だけが過ぎていく。幸いなのは曇り空で外気による体力の消耗が少ないことだろうか。だが、暗雲とした空模様は行く末を指し示しているようで不気味である。
事態が動いたのは捜査を開始してから二時間が経過しようとしていた時だった。突如として刹那のスマホがけたたましい着信音を鳴らす。その相手は純子だった。
「喜べ刹那。ようやく有力な情報をつかめたぞ」
その報を受け、刹那はガッツポーズをとる。呼応して六花も拍手を送っていた。




