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乱入

「危ないッス!」

 叫び声とともに、一発の銃声が響く。途端、刹那に命中するはずだった健脚が大きく逸れる。そのおかげもあり、刹那はかろうじて難を逃れた。

 確実にやられたと思ったのに、どうしたというのか。態勢を立て直した刹那は目をこする。

「間一髪でしたね、先輩」

 硝煙が残るライフル銃を片手に、六花がブイサインを決める。そこでようやく、異変の全容を把握した。


 刹那に攻撃が命中する直前。六花がライフル銃でクリムゾンソックスを狙撃したのだ。両者が肉薄している状況下、下手をすれば刹那を誤射してしまうかもしれない。その危険性を考慮すれば躊躇してもおかしくない。なのに、間髪入れぬ一撃で撃ちぬいたのである。


 もちろん、右肩を貫いた銃弾は怯ませるぐらいの効果しかない。それでも、慢心を脱した刹那にとっては十分すぎるボーナスタイムだった。

「やはり、接近戦の方がしっくり来るわよね」

 先ほどの展開の真逆を披露するかのように、刹那はクリムゾンソックスに密着する。迫りすぎているせいで、蹴りを放とうとしても満足な威力を出せない。それ以前に、反撃する余地すら許さなかった。なにせ、刹那はクリムゾンソックスの脚にゼロ距離で銃口を突き付けているのだ。


 この蛮行に隊員たちは本気で引いていた。ライフル銃をゼロ距離発射したら反動が来そうなものだが、そんなことは厭わず、刹那は銃弾をぶっ放した。

 クリムゾンソックスはうめき声を漏らす余裕すらない。いくら再生力が優れているとはいえ、銃弾を暴発されては回復が追いつくまい。


 一仕事を終えた刹那は額の汗をぬぐう。目を輝かせている六花は別として、佳苗の「無茶苦茶だわ」というのが隊員の総意であった。

「あんたら、何をボケっとしているの。最後の手柄ぐらいは譲ってあげるから、さっさとトドメを刺しなさい」

 刹那に発破をかけられ、六花を先頭にクリムゾンソックスを取り囲む。そして、ハチの巣にするかのようにライフル銃を一斉掃射した。


 全身の至る所に風穴を開けられ、クリムゾンソックスはしばし痙攣していた。そして、ピタリと動かなくなる。六花が慎重に手首に触る。体構造は人間とほぼ同じのようなので、生存しているなら脈動が伝わってくるはずだ。

「脈無し。死亡を確認ッス」

 その報告を受け、隊員たちから安堵の声があがる。刹那はというと、ライフル銃を返却し、腕をぶらつかせてほぐしていた。再び、ズキリとくるぶしが痛む。命令違反をしたうえ、足のけがを悪化させたとあっては、西代長官がうるさそうだ。

唯一、面白くなさそうなのは佳苗である。はしゃいでいる隊員たちをよそに爪を噛んでいる。その目はまっすぐに刹那を睨みつけていた。


 後処理が面倒くさそうだが、ひとまずは一件落着。そう思われたのだが、そんな空気を打破するかのように拍子外れの拍手が鳴り響いた。

 いち早く反応したのは刹那だ。聞き耳を立てつつ、腰を落として臨戦態勢に入る。

「さすがはせっちゃんだね。手助けしようかと思ったけど、もう終わっちゃったんだもん」

 人の好さそうな笑みを浮かべながら空中浮遊する少女。風に合わせて触手を揺らしている。

「マシュ、どうしてここに」

 まさに急転直下であった。新たな魔法少女の出現。それも、よりによって触手の魔法少女マシュ。


「あれが例の意思疎通できる魔法少女ッスか。生で見るのは初めてッス」

 調子外れの感想を述べる六花だが、どことなく無理をしていることは口調から察せられる。

「私がどうしてここにいるかって? そりゃ友達を作るためだよ」

 緊迫感漂うMSB一同のことなどお構いなしのお気楽調子でマシュは打ち明ける。


「どうせなら魔法少女とも友達になりたかったんだけど、倒されちゃったなら仕方ないか。うーん、もう少し早く来られれば結果は違ったかな。残念」

 あざとく舌を出すマシュ。正直、合流されては厄介なことにしかならなかった。仮に敵対する事態となった場合、倶利伽羅丸を所持しておらず、本気を出せない刹那では圧倒的に不利だ。そもそも、全力を出せたとして勝てるかどうか分からない。


「あんた、どうやって私たちを見つけたの。いくら別の魔法少女が暴れていたとしても、闇雲に探していては、こうも早く出くわすはずはないわ」

「空からずっとせっちゃんを追ってれば、割とすぐ見つけられたよ」

 あっけらかんにマシュは打ち明ける。立体迷路を解く場合、真面目に地上から攻略するのと、上空から俯瞰するのでは圧倒的に後者の方が楽だ。刹那を即座に見つけられたのはそれと同じ理論だろう。

 とはいえ、他の人間から発見されないようにするためには、ある程度の高度を飛ばなくてはならない。それでいて、特定の人物を目視で追跡するとなると、相当な視力が要求される。図らずも、マシュの非凡さが露呈されたこととなる。


「一つ気になったことがあるッスけど」

「くだらないこと言うなら許さないわよ」

「あの魔法少女、先輩のことをせっちゃんって呼んでるッスが、面識があるんスか。だって、初対面の時に名乗ってなかったッスよね」

 痛い所を突かれ、刹那は言葉に詰まる。よもや、人間に化けたマシュと便宜上の友達関係になっているとは明かせるわけがない。


 どうごまかそうか、刹那は腕を組む。沈黙を続けていては、六花からあらぬ容疑をかけられてしまう。それ以上に、マシュが余計な発言をして更にややこしい事態に陥りかねない。

「こ、細かいことはどうでもいいのよ! あいつは敵。それ以上でも以下でもないわ」

「ええー、そうッスか?」

 苦し紛れに叫んでみたが、本当にその場しのぎにしかならなかった。六花の細目がこれほど痛いと思ったことはない。

「せっちゃんとは友達じゃん」

「だから、あんたは黙って」

 黙殺を課されたことで、マシュは頬を膨らませる。刹那は足が痛むにも関わらず、地団太を繰り出す始末だ。


 四の五の言わせる余裕もなく退治できれば問題ないのだが、それができない以上、穏便に立ち去ってもらいのが最善である。しかし、興味津々に近寄っては遠ざかるという遊泳を繰り返すマシュに、お暇するという意向は無さそうだ。

 MSB隊員が沈黙する中、明らかに音程がずれているマシュの鼻歌だけがその場を支配する。そんな硬直を破ったのは一発の銃声だった。

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