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刹那の射撃の腕前

 ずっと傍観に甘んじていた刹那であったが、胸の内にこらえきれない衝動を抱えていた。それは魔法少女を相手にしている時にはいつも沸き立ってくるものであった。名付ければ憎悪とでも呼ぶべきか。

 ただ、これまで以上。いや、これまでに感じたものとは異質の感情が侵食してくる。まるで、自分ではない第三者が体内に潜んでいるかのようだった。気を抜くと自我が保てそうにない。

 それを払拭せんと刹那がとった行動は自明であった。


「何やってるッスか、先輩!」

「刹那、あのバカ」

 六花と佳苗が呼び止める。振り向くことなく、刹那はその場で停止した。

「どういうつもり? 堂々と命令違反なんかして」

「魔法少女を倒すのよ。見て分からない?」

「いや、いくらあんたでも単独で勝てるわけないでしょ。ご自慢の倶利伽羅丸もないのに」

「あんな奴、ライフルだけで十分よ」

「だからって、あんた」

「仁藤隊員、どうしたというのだ」

 イヤホン越しに西代長官が疑問の声を投げかける。上空からのライブカメラで逐一戦況を監視してはいるものの、どうしても若干のタイムラグは発生してしまう。


 それでも、刹那の単独接近をようやく捕捉できたらしく、

「神崎! 何をしている」

 机を叩く音とともに怒鳴り散らす。

「西代長官がヒステリーを起こしているんでしょ。なら、魔法少女は私が倒すと伝えて」

「構わないッスけど、もっとヒステリーを起こすだけだと思うッスよ」

「A班の到着を待てとか反論するなら、待てないが答えだわ。ここに来るまでに何時間かかると思ってるの」

 刹那の意見の方が的を射ていた。MSBの専用車は緊急車両扱いされるものの、交通規制で渋滞中の幹線道路を抜けるのに、どれほど時間がかかるか分からない。それに、かろうじて動いていた電車も、間もなく運転見合わせの処置がとられるだろう。A班が到着したころには、B班の面々は全滅していた、なんて事態になってもおかしくはない。


「西代長官にはこう伝えて。あんな魔法少女ごときに、MSBが全滅したなんてゴシップを書かれたくなかったら黙ってなさいって」

 ライフル銃を構える刹那。相変わらず額から流血しているが、魔法少女の動きに変化はない。むしろ、鮮血を舐めとるや、ケタケタと不気味な笑いをあげた。

「い~じ~んさんに、つ~れられて~、い~ちゃった~」

 魔法少女なりにふざけたことをされているという自覚はあるのだろうか。いきなりトップスピードで突進してくる。


 常人であれば、その風圧だけでもまともに立ってはいられない。まして、足を負傷している刹那が素早い所作など不可能なはずだ。

 しかし、最小限に足を動かすだけで、クリムゾンソックスの突撃を往なす。風圧で短く切りそろえられた髪を揺らす様はむしろ絵になるぐらいだ。


 クリムゾンソックスの攻撃をかわすだけでも苦心していた隊員たちは信じられないという思いで見守る。刹那ならば、初見でも対処できていただろう。ましてや、傍観しながら相手の動きを頭に叩き込んでいたのなら猶更だ。

 刹那が戦うにあたって、最大の懸念は足のやけどだ。しかし、そんなの杞憂だと主張せんばかりの立ち回りを見せていた。なぜなら、戦闘開始からまともに動いていないのである。最小限に数歩移動するだけで、クリムゾンソックスの攻撃をすべて回避している。


「すごいッス。ただ見ていただけなのに、魔法少女の攻撃を完全に見切っているッス」

「ふ、ふん。でも、よけてばかりじゃ勝てないわ。大体、射撃が苦手だから日本刀の倶利伽羅丸を使ってるって話でしょ。ライフル銃でどうやって戦うのかしら」

 佳苗が負け惜しみを言う。ただ、攻撃しないと勝てないことは刹那も織り込み済みであった。


 走力を活かした突進を主軸にしてきたクリムゾンソックスだったが、趣向を変えてきたようだ。軽く屈伸するや、上空へと飛び上がっていく。地上がダメなら空中からというわけである。無論、落下速度が加わっている分、こちらの方が威力は大きい。

 まともに受ければ、最低でも複雑骨折ぐらいのダメージは覚悟しなくてはならない。しかし、刹那は一歩も動こうとしなかった。この機に及んで臆病風に吹かれたか。


 いや、逆だ。刹那は落ち着き払って標準を合わせると、一呼吸のちに引き金を引く。快音が響き、クリムゾンソックスが墜落する。他の隊員たちは二度見したり、開いた口がふさがらなかったりと驚嘆の渦に巻き込まれていた。

 一体、何をしたのか。単純に言えば、飛び蹴りをしてくるクリムゾンソックスを迎撃したのである。

「どういうこと。射撃が苦手じゃなかったの。そりゃ、飛び上がっている魔法少女を撃てば確実に倒せるって私も考えたけどさ」

 佳苗が必死に弁明するのも無理はない。


 体の自由が利かなくなる上空であれば、より確実に狙撃することができる。理屈ではすぐに思いつくものの、実行するとなると話は別だ。なぜなら、現在進行形で飛び蹴り攻撃をしてくる相手を狙わなければならないからだ。もし、外しでもすれば、まともに即死レベルの攻撃を受けてしまう。確実に目標を撃ちぬける射撃の実力はもちろん。攻撃が迫る中でも平常を保つ胆力がなければ成し遂げられない荒業だ。


 釈然としないでいる佳苗に六花が得意気にアホ毛を揺らす。

「確かに先輩は射撃が苦手ッスよ。でも、あくまで先輩の中で、の話ッス。多分、全力疾走するライオンを仕留めるぐらいは余裕でできるはずッス」

「いや、誇張しなくていいから」

 冷静に刹那がツッコむ。ライオンを仕留められるかどうかはともかく、射撃の腕前でいえばMSBの五本指に余裕で入る。彼女にとっては「このぐらい、永藤とかでもやってのけるでしょ」ほどの感覚だった。


 おまけに、ただ撃ちぬいただけではない。クリムゾンソックスは立ち上がろうとするが、バランスを崩して転倒する。よく観察すると、膝小僧から出血していた。

「自慢の足を怪我していては全力を出せないでしょ。私と同じ条件になったことを光栄に思いなさい」

「まさか、弱点を狙い撃ったわけ。どんだけ化け物よ」

 佳苗は自然と身震いしていた。これがMSB最強クラスの実力かと、驚嘆は隊員たちに伝播していく。


 偉業を成し遂げた刹那はというと、悠然とライフル銃を構えていた。相手の機動力は削いだ。同時に、主力攻撃である蹴りも封じたとあれば恐れるに足りぬ。

 しかし、妙なことが起こった。突如としてクリムゾンソックスが消えたのだ。さすがに瞬間移動はできないはず。そう思って振り返った途端、自身の迂闊さを呪った。


 いつの間にか背後に回り込まれていたのだ。魔法少女の再生力は異常だが、この個体は殊更に再生力に優れているのか。それとも、あの一撃が浅すぎたか。いずれにせよ、慢心して窮地を招くなど不覚の極みだ。


 とはいえ、反応できないわけではない。素早く地面を蹴り上げ、軽く跳躍するように退避。いや、無理だ。飛び上がろうとした途端、激痛が走った。火傷が完治していないことが、この局面で仇となってしまったのだ。

 当然のごとく、魔法少女の辞書に容赦の文字はない。刹那の動きが鈍ったところに回し蹴りが迫る。被弾を覚悟し、歯を食いしばる。

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