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苦戦

「一体何しに来たのよ。あんたには出撃命令が下ってないはず。そもそも、足のやけどでまともに戦えないんだから、単なるお荷物じゃない。しかも、六花と同じく浮ついた格好しちゃって」

「この格好は六花のせいだから、文句はあいつに言って」

「先輩、ひどいッス」

「それよか、戦闘に集中しなさい。あんな三下、私ならとっくの昔に殺してるわよ」

 嫌味を返され、佳苗は犬歯をむき出しにする。反論する代わりに、ライフル銃片手に突貫していった。


 憎まれ口を叩いた刹那だったが、佳苗の言うところの「お荷物」には違いなかった。堂々と命令違反をして参戦したら後が面倒だ。そもそも、倶利伽羅丸を持ってきていない現状、丸腰で挑むしかない。いくら刹那といえど、徒手空拳で魔法少女に勝つ自信はなかった。


 なので、自然と傍観する羽目になる。「あかいくつ~」という調子はずれの歌とともに、クリムゾンソックスは飛び蹴りを連発している。この攻撃は純子からの情報通りだ。推測されうる攻撃パターンの内の一つに、見事に含まれていたのだ。


 よって、ある程度戦闘シミュレーションを組み立ててある。それが故に、もどかしかった。B班の面々は誰一人として、まともに手傷を与えられていないのだ。仮に、A班が出撃していたら、刹那を抜きにしたとしても、そろそろ相手を虫の息にできていただろう。


 実のところ、個々の隊員の体力を抜粋すれば、A班とB班で大きな差があるわけではない。刹那や永藤は別格だとしても、六花や佳苗がA班に交じっても、問題なく活躍できるであろう。

 だとしたら、両班における決定的な違いは何か。一言で表すなら「実戦経験の差」である。


 魔法少女が出現した際、優先的に出動命令が課されるのはA班だ。そのため、どうしてもB班とは魔法少女との交戦経験で差が生まれてきてしまう。

 簡易に例えるなら、スポーツの試合を想定するといい。繰り返し実戦形式の練習を積み重ねてきたチームと、ぶっつけ本番で試合に挑むチーム。どちらが試合を有利に運べるかは指摘するまでもあるまい。


 そして、実戦経験の乏しさは別の弊害をもたらしていた。

「こんの! ちょこまかと動き回って」

 一向にクリムゾンソックスの動きを補足できず、佳苗は闇雲にライフル銃を連射する。

「うわ、ととと。佳苗、危ないッスよ」

「うっさい! そんなとこでボケっとしてる方が悪いでしょ」

 うっかり、仲間を誤射しそうになる場面もしばしばだ。多人数でライフル銃を主力にしているがための弊害が生まれたともいえる。

 もっとも、A班であれば、同士討ちなどという間抜けを犯すことはない。刹那がその前に標的を片付けるから。と、いうのはさておき、そうでなくとも、最低限の連携は確立されているのだ。ともあれ、このままでは一方的に蹂躙されるのも時間の問題である。


 刹那が居ても立ってもいられず指を伸ばす。その瞬間、ひときわ大きな銃声が響いた。

「やったわ。私にかかればこんなもんよ」

 偉ぶって、佳苗がライフル銃を杖のように地面に突き立てる。彼女が放った一撃がクリムゾンソックスの眉間を打ち抜いたのだ。普通の人間であれば致命傷となる。戦況が有利に傾いたことで、ほかの隊員も歓喜の声をあげる。


 しかし、刹那は難しい顔をしていた。魔法少女相手に油断は大敵。この後に起こりうる展開が容易に予想できたのだ。

「い~じ~んさんに、つ~れられ~て、い~ちゃった~」

 更に調子の外れた歌声を奏でながら、クリムゾンソックスは突貫する。

「危ないッス!」

 六花が忠告する。その声に反応した時には既に手遅れだ。隊員の一人が吹っ飛ばされ、停車中の乗用車に叩きつけられた。更に、別の隊員二人も悲鳴をあげてその場に倒れる。


 絶句する佳苗。先ほどよりも明らかに魔法少女の動きが素早くなっている。瞬間、当の魔法少女と対面した。額から出血しながらも、ケタケタと口角を全開にしている。B級ホラー映画に出てくる化け物みたいな存在を前に、彼女は及び腰になる。

「あれで死なないとか嘘でしょ」

 魔法少女の再生力が異常なのは嫌というほど予習してきた。しかし、実戦経験の浅い彼女らにとって、「あの一撃をまともに受けて死なない」というのは驚愕に足りうる事実であった。


 広がった動揺は悲劇の呼び水となる。「あかいくつ~」と歌い、舞い、クリムゾンソックスは回転脚を披露する。直撃こそ避けられたが、旋風にあおられ一人の少女が擦過傷を負う。

「どうする、佳苗」

「どうするったって」

 B班の隊長は誰かと尋ねられれば、実力的に佳苗ということになる。西代長官もそのことは把握しているようで、積極的に彼女に指示を飛ばしている。

 しかし、統率力という観念からしたら、圧倒的なカリスマ性を持つ永藤には遠く及ばない。この局面ではそれが色濃く出てしまっていた。


 西代長官の方針は相変わらず「足を狙え」である。佳苗もそうするのが一番だと分かってはいる。しかし、攻勢に転じられるような状況ではない今、具体的にどう立ち回ればいいか。恐慌にかられて銃を連射する者もいるが、下手に魔法少女を挑発するだけに終わってしまう。このままでは、全滅するのも時間の問題だ。


 ふと、全員のインカムが通信を傍受した。声の主は西代長官である。

「B班諸君、聞こえるか。作戦の変更を伝える。極力、魔法少女との交戦は避けよ。A班の合流まで民間人の避難を優先させるんだ」

「長官! それって実質的な退避命令じゃないですか!」

 佳苗が声を張り上げる。さもありなん。打開策が見いだせていないものの、戦えないわけではない。しかし、そんな彼女の考えを見透かしたように、西代長官は続ける。

「このまま戦い続けていては、いたずらに戦力を減らすだけだ。今回の件は、靴の魔法少女の実力を見誤った私の判断ミスでもある。幸いにして、A班が処理に向かっている魔法少女は間もなく討伐できる見込みだ。防御に徹するのであれば、君たちでも対処できるであろう」

「もはやこれまでってことッスか」

 肩を落とす六花。B班の誰しもが反論したかったが、そうするだけの根拠を見いだせずにいた。仕方なしに、魔法少女から距離を置こうとする。


 だが、そんな彼女たちとは逆方向へと歩みを進める者がいた。負傷して起き上がれずにいる隊員はその姿を目にし、「へっ」と間抜けな声をあげる。

「借りるわよ」

「ちょ、ちょっと」

 有無を言わさず、隊員が手にしていたライフル銃を強奪する。半分ほど銃弾が使用されていたが問題はない。一切の迷いなく、魔法少女との距離をゆっくりと詰めていく。

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