全裸で戦闘開始
────ザアアアア……
目が覚めると、雨が激しく窓を叩いていた。
雨音の向こうからは、人々の悲鳴や何かが爆発しているような音が聞こえてくる。けど、私には関係ない。どうでもいい。
「……」
ベッドでごろんと寝返りを打って仰向けになり、両手足を広げて大の字になる。電気の点いていない真っ暗な天井をぼーっと見つめる。今が何時なのかわからない。
不意に。
「……おかぁ……さんっ……」
最期のお母さんの姿が……ゾンビと化していたお母さんの姿が声が、脳内に再生された。生ぬるい涙がつうっ……と、耳の方に零れていく。布団を被り、ぎゅっと体を丸める。
あの後。
お母さんの会社の前で暫く泣き崩れた後。ほとんど覚えていないけど、私はどうにかして家に帰ってきたみたいで。その後は血塗れの制服を洗濯して、お風呂に入った記憶がおぼろげにある。洋服と下着は着けるのが面倒……いや、そこまでする気力が無かったのだろう、全裸でいる。それからはずっと、ベッドで寝たり起きたりを繰り返していた。目が覚める度にどうしてもお母さんのことを思い出すから、ベッドから出られずにいた。
「……喉、渇いた。おなかもすいたな」
布団にくるまり、ポツリと言う。生きる気力を失っていても、喉は渇くしお腹も空くようで。
ごそごそと布団から出てスマホを見る。時刻は夜中の3時すぎ。閉めていた部屋のカーテンをすこし捲り、外を見る。私のマンションの前から、何体ものゾンビがゆらゆらと彷徨いていた。すると。
「きゃあああああ!!!だ、誰かーーー!!!」
女の人の悲鳴が聞こえその方に目をやると、近所に住むおばさんがゾンビに襲われていた。私は気力無く、おばさんが複数のゾンビに押し倒されて肉を食い引き裂かれている様子をぼーっと傍観していた。不意にそのおばさんと目が合うと「タスケテ」と、口をパクパクさせているのが見えたが、すぐに力尽きてしまった。
「……」
おばさんが力尽きた後も、私はゾンビに喰われている様をぼんやりと見てからカーテンを閉じた。
ふらふらしながら部屋を出て、台所へ行って冷蔵庫を開ける。が、冷蔵庫は調味料やミネラルウォーターのペットボトルしか入っていなかった。喉が渇いていたので取りあえずペットボトルを手に取り、ごくごくと飲む。
「……はぁ」
500mlのペットボトルを一気飲みしたその時だった。
ドン!!ドンドンドンドンッ!!!
どきっとして、私は空のペットボトルを床に落とした。入り口のドアを誰かが激しく叩いている。しかも、その音がだんだん増えていく。恐らくこれは人間じゃない、ゾンビだろう。しかも1体じゃない……
「嘘でしょ?なんで私がここにいるってわかるのよ?!」
私は慌てて、あの時使っていたシャベルを探す。けど、シャベルはどこにもない。
「もしかして、途中で捨てちゃったのかな?」
玄関入口でシャベルを探している間も〝ドンドンドンドン!!〞とドアが激しく叩かれる。今にもドアが破られそうだ。
「どうしよう、何か武器になるもの……それとも──」
死のうかな。と、心の中で思う。私の唯一の家族だったお母さんも死んじゃったし。私はもう、天涯孤独だし。生きてても意味がないし。
ドンッドンドンドンッ!!!
今にも壊されそうなドアの前で、私はぼんやりと佇む。
「……もういいや。もういいよねお母さん。私もすぐに、お母さんのところに行くからね──」
そう、呟いた時だった。
『どうか生きて……生き延びて幸せに、なって。友加里…愛…して──』
電話越しで、ゾンビになる前のお母さんが言った言葉を思い出した。
ドンドンドンッ!!
ドンドンドンドンドン!!
ドアを叩く音がだんだん煩く感じてくる。死んでいた心が、だんだん甦っていくような感じがした。ふと、玄関に立て掛けられていた傘が目に入り、私はその傘を手に取ると、ドアから離れた。
「……はぁ。わかったよ、お母さん」
そして。
ドッ!!バァンッッ!!!
ドアが叩き壊され、ゾンビどもが流れ込んできた。
私は傘を両手でギュオッと強く握ると。
「うわあああああ!!!」
大声をあげながら、ゾンビどもに突っ込んでいった。




