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天記神の隠し事1

 ウカ達はプラズマに促されて図書館に入った。重たい扉を開けた先で図書館の館長だと思われる青年の神が挨拶をしてきた。

 「あら! いらっしゃい。……あら……ついに来たのね」

 青年は水干のようなものを着ており、頭には五芒星を模したかのような黄色の星形の帽子をかぶっていた。

 どこか女性にも見える。

 「……こんにちはー……えーと、男性?」

 「体は男性だけれどハートは女性ですわよ」

 青年は丁寧にお辞儀をしてきた。

 「あ、そうなんだ。でさ、あの、館長さんの神?」

 「そうですわよ。私は……天記神(あめのしるしのかみ)。歴史神の一柱。よろしくお願いしますね」

 「あめの……しるしのかみ……。なんか知っているような……」

 ウカがつぶやいたところでミノさんも頷いた。

 「……俺も知っているような気がすんだよなぁ」

 「僕は全然わからないんだけどね」

 ミタマが眉を寄せる。

 「俺もわからないが……ウカとミノさんには何か繋がりが?」

 リガノも小さくミタマに言う。

 「……とりあえず、中に入れ」

 プラズマが稲荷達を図書館に入れた。中は本ばかりで上の方はどうやってとるのかわからないくらい本棚が積み重なっている。

 天記神は稲荷達を閲覧席に座らせると人差し指を上に上げた。わずかな神力が指先に集まった後、本が一冊ゆっくり上の方から降りてきた。

 「……ん? なにこれ」

 ミタマが覗き込み、リガノがタイトルを読む。

 「タイトルは、冷林(れいりん)とキツネの話……? 高天原北の主、縁神(えにしのかみ)の話か?」

 リガノは本を手に取った。

 「ええ、そうです。あ、本を開くならしおりを持っていってくださいませ。その本は『体験型』ですので」

 天記神が意味深なことを言い、リガノはしおりを渡された。

 「体験型って?」

 ウカが代わりに尋ね、天記神はにこやかに説明を始めた。

 「文を読む本もあるのですが、木々の記憶を本にしたものもあります。こちらは記憶を直接見て、感じる本となります。本から出たい場合はしおりを地面に置いていただければ出られます」

 「へぇ……リガノ、あけてみて」

 ウカがリガノにそう言い、リガノは眉を寄せたまま頷いた。

 リガノは本を開いた。

 白い光が稲荷達を照らす。

 「うわわっ!」

 ウカが目をつむり、次に目を開けると、山の中に立っていた。

 「はい?」

 ウカが辺りを見回すとリガノ、ミタマ、ミノさん、そしてプラズマがいた。

 「入れたな。じゃ、ミノさんの歴史を見ていこうか」

 プラズマが道を歩き出した。ここは人間が登り降りする参道のようだが、雰囲気が今とは違う。

 ずいぶん前のような……。

 「ずいぶん前……というか、懐かしい」

 ミノさんが唸りつつ、つぶやいた。

 「懐かしい?」

 「懐かしいな……なんだ?」

 山を下ると小さな集落があった。昔ながらの茅葺き屋根、田んぼ、畑。

 だが、この地形に見覚えがあった。

 「ここ、ここじゃん!」

 ウカが意味不明なことを叫び、ミタマがあきれた。

 「うん、まあ、ここだね。僕らが住んでる地域だ。昔の姿かな? 僕やリガノ、イナは元々この辺の稲荷じゃなかったからこの辺は知らないんだよね」

 ミタマが辺りを見回し、山の地形が変わっていないことに気がついた。

 リガノは苦笑しつつ、答えた。

 「ここは今でもずっと『坂の町』だな。どこまでも坂、自然と共存を目指した地域だ。この時代より……人が多く、豊かな地だ」

 「この高台にあったのが、あの神社だ」

 プラズマが坂の上を指差した。

 「え、ミノさんの神社?」

 「いや、あそこはミノさんのじゃない。あんたのだよ、ウカちゃん」

 プラズマがウカにそう言った。

 「……え、私、こんな古くから……」

 「疑問に思うだろ。あそこはミノさんの神社じゃなかったかと」

 「……うん、まあ確かに」

 プラズマは今度は道の横にあった林を指差す。

 「あそこは、冷林(れいりん)の分社だ。誰かが『冷えの林』を広めた」

 「ひえのはやしって?」

 「霊が通るから寒く感じる林ってことだ。冷林はこの地域の話じゃないんだが、そこの林は木が高くてやや涼しい。誰かが冷林の話をここに適用したんだよ」

 プラズマがそう答えたがウカは眉を寄せた。そんな稲荷達を見たミノさんが頭をかきながら追加で説明する。

 「あー、おたくらが……こばるとを探していた時に落ちた崖あたりの林だよ、ここは」

 「ああー、そんなことあったなあ」

 参道を歩いていると、時間経過を感じた。なんというか、ページをめくっているかのような感覚だ。

 集落が近くなり、もうひとつ、小さな社があった。

 一匹のキツネがタヌキと目の前を通りすぎた。タヌキは複数で走り去る。

 「タヌキ……。あの地域、タヌキいるからねー」

 ミタマがあきれつつ、一匹の異様なキツネを見た。キツネはタヌキには見えていないようで神霊的な存在であることがわかった。

 「この地域にはキツネはいないよね」

 「ああ、いないみたいだな」

 ウカの言葉にプラズマが答える。

 時期は現在初夏のようで、稲が元気に育っている。しかし、歩いているうちに突然に稲がしおれた。

 「あ、あれ? さっきは元気だったのに、稲が枯れてる」

 「飢饉だね」

 ミタマが静かにつぶやいた。

 「飢饉!? なんで急に?」

 「ウカ、ここは本の中だ。木の記憶だぞ」

 リガノに言われ、ウカは気がついた。

 「あ、ああ、そっか」

 人々が痩せ細り、太陽を恨めしそうに見ている。雨が降っていないのか。

 キツネは悲しそうに村を見ていた。

 タヌキはいなくなってしまった。

 やがてキツネは村へ食べ物を運ぶようになった。いつの間にか、高天原産の「現世にはまだない野菜」まで運ぶようになる。

 「トマトだ……。この時代には……ないはず」

 「……あれ、俺かも」

 ミノさんがつぶやくが、リガノが否定した。

 「ミノさん、あのキツネはメスだ」

「……メス……?」

 「メスだ」

 リガノにミノさんは苦笑いを向けた。

 「なんで俺だと思ったんだろ?」

 「続き見るぞ」

 プラズマが先を見るように促した。


※※


 天記神の図書館に、ある青年と少女が現れた。

 「いらっしゃいませ……あら……」

 天記神が挨拶をしようとしたが青年は天記神を睨み付けた。葉やツルが髪として生えている着物の青年はなぜか怒っているようだ。

 「冷林の記述はこれか」

 「お兄様、お怒りをお鎮めくださいませ」

 「……オオヤツヒメ……。ハナイズミヒメは冷林のせいで……」

 青年は少女に悔しそうに呟いた。

 「ま、待ってください……そちらの本には……」

 天記神が青年を止めるが青年は少女と共に本へと入っていった。

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