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天才の弟  作者:
84/85

84 春休み

 オレの日々は平穏だった。何事もなく終業式を迎え、春休みになった。また、ご飯行こう、という会話だけして詳しい予定は立てないまま、だらけている。

 毎日スマホを見て、テレビを見て、なんだか疲れて寝て……そんな生活に終止符を打ちたい。けど、別に学校に行きたい訳ではないと思っているとき、ぴこん、という音がした。先輩かと思い、慌てて通知を見た。


 恭平


 なんだ、小平か。オレは脱力しながら通知をさらに見る。既読はつけないように。


 明日ヒマ?


 暇じゃねえ、と返したいが、事実だった。

 ぴこん、とまた通知がくる。


 モックでラッキーセット食わね?


 こいつ……絶対ラッキーセットのおまけ欲しいだけだろ。

 後で返そう、と思い、目を瞑った。小平だし、急いで返さなくてもいいだろ。

 オレは未読スルー常習犯だった。

 目を瞑ったものの、すぐに眠れる訳でもなく、1時間ぐらいスマホをテキトーに触り、小平の通知に触れる。


 いいよ。残念ながら暇なんで


 今度こそスマホを放り出し、目を瞑った。




「お、草間こっちこっち」

「おー、よぉ小平」

 手を大きく振る小平にオレも軽く手を上げる。

「じゃあさっそく」

 小平が注文しているのを眺めながら、オレもラッキーセットを買うついでになんか買おうとメニューを眺める。期間限定さくら味。さくら味ってまじでなんなんだろ。

 次の方どうぞー、と言われ、無理矢理注文を決める。

「えーと、ラッキーセットとさくら味のパイお願いします」

 結局さくら味を買ってしまった。

「草間、なんかかわいい注文してんな」

「いや……視界に入ったから」

「雑ー」

「で、これ欲しいんだろ?」

 おまけの入った黒い袋を渡す。

「え、いい?」

「そのために呼んだんだろ」

「お見通しだったかー。ありがとう」

「いーえ。つか、何それ」

「今ハマってる漫画のやつ」

 小平はちっさい絵本のようなものを黒い袋から取り出す。

「おまえこそ、かわいいもん好きだな」

「えっこれ結構残酷な話なんだけど?」

「あ、そうなの?」

「食物連鎖の残酷さの話よ」

「あぁそう」

 伏目がちに小平は言った。思ってたのとは違うらしい。今度調べてみるか。

「そういやさぁ、河原さんとは何もなかったの?」

「え?河原さん?」

「そう。なんか仲良いじゃん、女子の中では」

 ズズズッとカフェオレを飲みながら小平は言った。仲良い。まぁ確かにそうか。最近はそんなに話してないけど。

「別に何もないよ」

 あったにはあったが、あれを説明するのは面倒くさすぎる。

「ほーか」

 ハンバーガーを頬張るこいつに言うほどのことでもない。

「じゃああの先輩は?」

 口についたソースを取りながら小平は言う。一瞬どきっとする。まぁ、こいつには言っとくか。

「一応?付き合うことになっーー」

「え、まじ!?」

「え」

 席を立ちそうな勢いでそう言う小平にオレは驚いた。まさかそんな反応をされるとは。

「えーまじか。まじか。えーよかったな!」

「あ、ありがとう……」

 大袈裟とも言える反応に狼狽える。

「え、いつから?」

「えーと、こないだの高校入試のとき」

「そうだったのか!うわ、まじか。全然気づかんかった」

「まぁ、そりゃね」

 ちゃんとは付き合ってないし。

「……の割には喜んでない?」

「え」

 温度差に気がついたのか、小平は真面目な顔をしてこちらを見ていた。

「なんで?」

「だって、草間めちゃくちゃ先輩のこと好きじゃん。の、割には冷めてるっていうか」

「意外と鋭いよなぁ、おまえ」

「そ?まぁ言いたくないならいいけど」

 逃げ場を示すように小平はオレから目を逸らした。

 話したい。けど、全部話してしまえば先輩のプライバシー侵害すぎる。

「……なんていうか、表向きは付き合うってなっただけだからさ」

「……どうゆう」

「いや、あんま深く考えないでほしいんだけど、別に両想いで付き合うとかじゃないって話」

 両想いという単語が自ら出てきたことに静かに驚いていた。恋愛云々になると両想いと表すのに、それ以外ならなんと言うのか。

「そんなこと……もあるのか」

 納得してなさそうな癖に小平は頷いた。

「あんまベラベラ話せないけど、そういう感じだから」

 この話は終わり、というように今度はオレが小平から目を逸らす。

「……なんかあったら言えよ、草間」

「え、ありがと」

「ま!俺も相談乗ってもらうからな!」

 突然笑顔を浮かべる小平にオレも笑い返す。なんとなく隠し事というものが少し減ったからか、気持ちが楽だった。

 いい友達を持ったものだ。



 一頻り喋ったところで店を出て、お互い乗ってきた自転車を駐輪場から出す。

「じゃ、またな、小平」

「おーまた……」

 軽く手を振って自転車に跨る。

「草間ー」

「なんだ」

 もうさっき手を振ったはずなのに、大声でわざわざ呼び止めてくる。と思えば、逆向きにしていた自転車をこっちに向けて走ってくる。

「なんだなんだ」

 オレは半笑いでそう聞く。

「俺、ずっと思ってたんだけどさ」

「何を?」

「草間は、いい奴だ」

 まっすぐ目を見てそう言う。オレは反応に困る。

「え、なに急に。こわ」

 でも嬉しかった。

「てことで、またモック行こうなー」

 小平はニカッと笑った。オレもつられて笑う。

「おー行こう」

「じゃ!」

 手を振った後で気づいた。あれか。クラス替えがあってもってことか。

 クラス替えか。

 あんまり考えないようにしてはいたけど、面倒だな、クラス替えって。小平がいたからよかったものの、オレはまともに話せる相手がこいつぐらいしかいない。



 家に帰って、自分の部屋で寝転んだ。少し移動してご飯を食べて帰ってきただけなのに、久しぶりだったからか、なんだか疲れた。

 いつもの癖でスマホを見ると、先輩からラ○ンが来ていた。

『今度うち来ない?』

 思わず二度見した。

 通知を開くとその前に、近くにおいしい唐揚げ屋さんがあって、と書いてあった。……何かと思った。あれか。前に家教えて、みたいなことがあったからか。そんで、ご飯行こう、と話していたから。

 にしても、一応異性なんだけどいいの、それで。

 とまぁ、オレはもう恋愛感情より家族愛に近い何かの方が大きいと思っていたけど、やっぱりまだ恋愛感情が残っているらしい。もう忘れていいのに。自分の感情の癖にそう思う。

『ぜひ行きたいです』

 文面おかしくないよな、と確認してから送る。そしたらすぐに既読がついた。

 やったー、という犬のスタンプが送られてきた。

 オレはそれを見て、スマホを閉じた。口角は上がっていた。

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