No. 11
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僕達はその後、柊さんの母親の遺体の対処として警察に連絡を行った。流石にというか、当然のことながらそのまま誰かが気づくまで放置なんてことはできるはずがない。
警察がやって来ると僕達は話を聞かれることとなったが、母親の状態に詳しい柊さん以外の僕とワタリは、彼女よりも早く解放されることとなった。
「それにしても、本当に優しい子だね、柊ちゃんは。やつあたりをされたあげく、呪いまでかけられたというのに、死に際の謝罪……しかも直接的ではなく遺書による間接的な謝罪だというのに、過去の遺恨を無かったことにして許しちゃうんだから。まぁ、許さなかったところで今回の件に関しては、その相手が既にいないんだからどうしようもないことではあるわけだけど。きっと彼女なら、相手が生きていようといまいと結果は変わらないのかな」
「……あぁ、そういう人だよ柊さんは」
「はは、優しいのは良いけど、優しすぎるのも問題な気がしちゃうんだけどな。僕みたいな人間からしたら。そうだ、優しいと言えば君もずいぶんと優しいよね」
「ん? 何のことだ?」
「柊ちゃんをかばった時のことさ」
あぁ……あの時のことか……。
「何をしたかは見えなかったけど、一瞬で柊ちゃんの前に割って入って、自分が傷つきながらも彼女を守っちゃうんだからさ。いやはや、あの速さには度肝を抜かれたよ。君は予知能力者か何かかい」
「僕にそんな力はない」
「んじゃ、化け物だ」
「僕はれっきとした人間だ!」
「おっとそうだったかな。にしても、あの速さで動ける奴がただの人間だなんて、ちょっと無理があるんじゃないかな」
「お前には言われたくないよ!」
というか、僕よりもお前の方がよっぽど化け物じみてるよ!
「はは、面白いね君は。あぁそうだ、一つ忠告をしておくけどね。他人を守るのは構わないけれど、自己犠牲っていうのはあまり良くないよ。自分を守ってくれた結果怪我をされたんじゃ、守られた側だって申し訳ないだろうし。僕の知り合いにもそういうの嫌いな奴がいるしさ。自己犠牲は自己完結の自己満足だとかなんとか……まぁそれはともかく、多少は自分の体も大事にした方が良い」
「え、あ、おう。珍しいこと言うじゃないか……でもやっぱり、誰か大切な人間が困っていたら自分のことなんて考えてられないだろ」
「自分を省みずに他人を助けるのって、そこそこカッコいいけどさ……いや、君の方針をとやかく言うつもりはないけど、自分を省みないことはもうどうでもいいけど……自分を振り返ることが君には必要なんじゃないか……? そろそろ、他人に向き合うだけじゃなく、自分に向き合っていく必要が、あるんじゃないかな」
「は? それはどういう……」
「ワタリさん! 室戸くん!」
声のした方に僕は顔を向ける。どうやら話終わった柊さんが警察の人の元から走って来たようだ。
「話は終わったのかい」
「はい。あの、ワタリさん、室戸くん。今回は本当にありがとうございました!」
「いや、僕は何もしてないよ。柊さんを助けたのはワタリだし」
「いやいや、君だって彼女の異変に気づいて僕に知らせたり、身をていして守ったりしたじゃないか。しっかり働いているよ君は」
……本当ならもっと早く気づけていれば良かったんだけどな……もう少し早かったら、グラウンドの噂を調べている時にでも気づけていたら、もう少し違う結果が得られたかもしれないのに……。
「あの、それで今回の件のお礼をしたいんですけど……」
「あぁそれは気にしなくていいよ」
「え、でも……」
「今回は僕の確認ミスで君達を危険な目にあわせちゃったからね。それでチャラだよ。お礼はいらない。どうしても何かお礼がしたいなら、四津木くんにでもしてあげてくれよ。──それじゃ、さよならだ。柊ちゃん、四津木くん」
「は、はい。さようなら……あ、あの! 今回は本当にありがとうございました!」
立ち去っていくワタリに柊さんがお礼を言って頭を下げると、ワタリは振り返ることはせず、ただ後ろ手に手を振ってその場から姿を消していった。
□■ 後日談 ■□
卯掘神の件を解決してから二日ほど。
僕は柊さんから近況報告とお礼を兼ねて近くのドーナツ屋さんに来ていた。女子におごらせるのはためらいがあったが、お礼をどうしてもしたい、という彼女の勢いに負けて押しきられてしまった。
「柊さん、その、気持ちの整理とかって……」
「あ、そんなに気を使わなくても大丈夫だよ。薄情だと思われるかもしれないけど、私あまり引きずってないの」
「そうなのか?」
「うん。なんだかね、遺書に書かれていた言葉を思うとね。良かったって思っちゃうんだよね。お母さんはちゃんと、私達を愛してくれていたのがわかったからさ。悲しいは悲しいんだけどね」
「そうか……」
強いな……柊さんは……。
「室戸くんは大丈夫なの?」
「ん?」
「腕の怪我、大丈夫なのかなって……」
「あぁ、全然大丈夫だよ。もうすっかり治っちゃったしさ」
「ほ、本当に?」
「本当に」
「室戸くんって、怪我の治り物凄く早いね……良いことだけど、ちょっと驚きだよ」
「本人である僕が一番驚いてるよ。ははは」
本当、不思議なほどに傷の治りが早い。……自分のことを振り返る……か。僕の体に、いったい何があるというのだろう……。
「……そうだ。卯掘神の方はどうなったの?」
「あ、ウサギ様はしっかりした祠にしっかり移しました!」
「ウサギ様……まぁいいか。あれから特に問題はないってことでいいのかな」
「うん。お父さんもちゃんと説明したらわかってくれたから、何の問題もありません!」
お父さん納得したのか……柊さんが説明上手なのか彼女のお父さんが寛容なのか……どっちにしろ凄いな……。
「まぁ、柊さんが大変なことになる前に問題を解決できて、本当に良かったよ」
「ん~……」
「ん?」
柊さんは自分の人指し指を唇に当て、突然思案顔になり「う~ん」と唸り始める。
「どうかしたの柊さん?」
「さん付けで呼ばなくていいよ。というか呼ばないでくださいな」
「え?」
「ほら、君って天海さんとかは呼び捨てでしょ? 私のことも、呼び捨てで呼んでほしいな。その方が、なんだか親密な感じがするから」
「え、あ、わかった……それじゃ……」
なんか変に緊張してきた僕は一度深呼吸をしてから自分を落ち着かせ、そして口を開く。
「柊……これで、いいのか?」
「ふふふ。うん! それでいいよ、ありがと!」
嬉しそうに笑う彼女を見ていた僕はなんだか恥ずかしくなり視線をそらす。
「そうだ。柊さんも」
「ん~?」
「柊……もさ、僕の呼び方変えてくれよ。これじゃ不公平だよ」
「不公平って……あはは! わかりました。私も呼び方を変えます! ……って……あれ?」
「ん? どうかしたのか?」
「君の名前、何だったっけ? 忘れちゃったな~!」
「ちょっ……お前……」
柊さんはいたずらっぽい表情でそう言って僕に微笑みかけてくる。
僕は、彼女が絶対名前を忘れていないことに気づいていたが、終業式の日の放課後に言ったこと、もしもまた忘れたとしても何回でも答えてやる、というその約束を守るために、僕は僕の名前をため息をつきながら答える。
「僕の名前は、室戸四津木だよ」
「そうですか。──それじゃあ、今回は助けてくれてありがとう。これからもよろしくね、四津木くん!」




