四十六升目。
風に秋の気配を感じるようになった。
そっか。ボクはあの日家を出て、知らないこの町へきて、
知らない駅で降りて、泊まれるトコロを探してたら、幸太に会ったんだ。
それからあっという間に色んなことがあった。
栄子さん、滝口さん、理穂さん、オーナーさん。
色んな人と知り合った。
「アキー」
「なに?幸太」
「お前、高校生だっつってたよな?」
「うん」
「もうすぐ夏休み終わるけど、さ」
「・・・・・・」
「やっぱり学校行きたくなかったり、家には帰りたくないか?」
「うん・・・・・・」
「そっか。でも学校の方は後回しにするとして、
とりあえずそろそろ家に一回連絡したらどうだ?
今更ってところだけど」
「・・・・・・たよ」
「ん?」
「電話したよ!でも!でも・・・・・・」
そっとココアを差し出し、
「でも、どうした?てか、いつ電話した?落ち着いてゆっくり話せ」
優しく笑う。
「あのね。えっと、幸太のところに泊めてもらって、
栄子さんのところ行ったりお買い物行ったりして少し落ち着いてから」
「そっか」
煙を吐くときだけ人にかからないように横へふりむき、タバコを吸う。
それ以外は顔を見て目を合わせてくれる。幸太のタバコを吸うしぐさはボクのお気に入りだ。
しばらくお互い見つめあう。
栄子さんのガレージで寝ていた幸太を起こし帰ってきたあの日。
あの日から同じベッドで寝るようになっていた。
性的なことどころかキスもなかったのだけど、
優しく頭をなでてくれる。それで安心して眠れた。
ずっとこのまま居たかった。
でもそれじゃいけないことも、ずっと続かないことも知ってた。
家と学校。一番逃げていたことを今聞かれている。
でもこれにはちゃんと答えなくちゃいけない。
「お家は怒られた。すごく怒鳴られた」
「うん」
「でもね、捜索願は出してないから気にするなって。
お前が女装して夜遊びして家出なんて、
どう警察に説明すればいいか恥ずかしくてわからないって」
黙ってコーヒーをすする幸太。
「ボクいらないんだよね!?邪魔なんだよね!?」
「少なくとも俺やここで会ったみんなはそんなこと思ってねーよ」
「それは、知ってるけど」
「よし。涼しくなってきたし、行くか」
「行くって?」
「お前の家だよ」
「え?ええええええ!?」




