四十升目。
どうしよう。
頭の中でいろんな事がぐるぐる回る。
こんなふうになっちゃったのは幸太のせいだ!
気持ちが整理できなく、
八つ当たりと思いながら、幸太のばか!
と感情が先走って行く。
ぐるぐる回り続ける頭の中。
「おい、明子、大丈夫か?」
幸太の声が聞こえる。遠くから。
「明子ちゃん!」
肩をつかまれて軽くゆさぶられる。
滝口さんだ。
目の前に幸太の顔があった。
背の低い明子と視線が合うように中腰になって心配な顔で見ている。
「明子」
遠かった幸太の声がいつもの距離で聞こえた。
滝口さんがゆさぶってくれたおかげだ。
「愛し合ってるって叫んでからしばらく固まってたぞ。
こっちが固まりたかったわ」
「驚いた?」
いたずらっぽい笑い方をしたつもりでこたえる。
いつもの雰囲気に戻そうとする。いつものボク・・・・・・。
いつものボクってどうだったっけ?
「お前、なんか無理してないか?」
心配したままの顔で幸太が聞く。
「ごめん、俺がいきなり抱きついたせいだよね」
滝口は本当に申し訳ないと頭を下げる。
「二人とも大げさ。大丈夫だよ!
慣れてない冗談やったら自分でも固まっちゃった」
笑顔でこたえる。自分でも厭な作り笑顔。
もうこんな顔したくないと決めてたのに。
「そっか。お前がそう言うならそれでいい。
でもなんか話したくなったら、遠慮なく話せよ」
幸太が軽く笑いながら頭をなでる。
「よし!そろっと行くか。準備おっけ?」
雰囲気をいっきに変えるように滝口が明るく声を張る。
『この人たちは腫れ物に触れないようにって事じゃなく、
ボクが自分で話すときをちゃんと待っててくれているんだ』
そう思うと目頭が熱くなる、けどここで泣いてしまったら台無しだ。
元気よく
「はい!準備おっけーですっ」
返事をする。




