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サイバーパンク相撲バトル ネオ両国シティー場所  作者: 秋松カブトムシ
第2幕 襲来! ドスコイトルーパー!
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7/18

ストリート・レスリング

「これは…」


「養殖力士の成れの果てでごわすな」


 未だ起き上がれず、もがき続ける贅肉の塊。法定食度《ほうていしょくど》を守らずに、脱法ちゃんこを過剰摂取したに違いない。過ぎたるは何とやら。肥えるばかり、あのような張れぬ足腰では相撲を取れないだろう。


「あーあ、立てねぇでやんの。これじゃ野良相撲《ストリート・レスリング》になんねーじゃん」


 新たな声に目線をやると、壊れた門を踏み越えて引き締まった体型の男が現れた。浴衣から覗く浅黒い肌には、刺青が浮いている。


「なんだぁ、ここは。モノホンの相撲部屋じゃねぇか。初めて見たぜ。ぼろいなぁ」


 男は頭を掻きながら、興味なさげに母屋を眺める。だが、男が小雪達を視界に入れると、途端に顔色を変えた。


「おぉっ!? そこの2人、賞金首の小雪と小春じゃね?」


 驚いたな。ギャングが軍警察の要人なんかに懸賞金《バウンティ》をかけたという噂はよく耳にするが、階級の低い2人にかけるとは……。手紙は事実と見ていいだろう。


「意味が分かりません。人違いでは?」


「間違いないんだなぁ〜これが。裏社会の大物が、君たちに懸賞金をかけてるんだわ」


「えぇ!? どういうこと?」


 小雪がはぐらかそうとするが、男の会話に小春が乗ってしまう。これでもう誤魔化せないな。どうするべきか。考えているうちに、男が2人に歩み寄る。遠慮なくズカズカと歩き、おいどん達を警戒する素振りすらない。


「さぁな。とりあえずこっち来いよ。番付《ID》を消去して出荷準備をするから」


 男が小春に手を伸ばすが、小雪が割って入り男の手を払いのけた。


「小春に触れるなっ! どすこぉぉい!」


 払いのけた手を返すようにして、小雪の張り手が炸裂する。早い。それに、並の力士よりも鋭い。男の頬に間違いなく当たった。だが……


「効かねぇなぁ」


 男はビクともしない。まるで岩や大木に小石が当たったかのようだ。


「きゃあっ!?」


 それどころか、またたく間に小雪は組み伏せられてしまう。


「小雪ちゃん!」


「おいおい、あんま暴れるなよ。無傷で引き渡せって条件らしいからなぁ」


「ほぉう、誰でごわすか。その大物とやらは」


 そのひと言で小雪を組み伏せる動きを止め、おいどんの方を向いた男。やっとこっちを見たか。男はおいどんを一瞥すると、気だるそうに口を開いた。


「さぁねー。俺との野良相撲で勝ったら教えてやるよ。お じ さ ん」


 ゆらりと立ち上がり、首を傾けたまま据わった目を向ける男。その背後で小雪が這って男から離れるのが見えた。


「よかろう。受けて立つでごわす」


 挑発には乗らぬ。だが勝負には乗ってやる。小雪が逃げる時間を作るために。おいどんが浴衣を脱ぎ捨てると、ようやく男の目が見開かれた。


「おぃマジか! 天然力士かよ!? 初めてだぜ、本物をぶっ潰すなんて」


 獲物を見つけた獣のように歯を剥いて歓喜する男。なるほど、生粋の 相撲狂い(ジャンキー)か。その相撲への貪欲さ、正しく活かしていれば大成していただろうに、もったいない。


「おいどんも初めてでごわすな。無礼な小僧と相撲を取るのは」


 おいどんの安い返しに空気が冷えるのが分かった。乗ったな、安価《リーズナブル》な挑発に。向かい合ったな、驚異《インクレディブル》なおいどんに。


「言うじゃねぇか。後悔すんなよ」


 男もおいどんに対抗するかのように、浴衣を脱ぎ捨てた。その下に隠されていた装備が月明かりに照らされて浮かび上がる。


「あれは!? 軍の87式装甲服(まわし)!! まだ正式配備されてないはずなのに、どうして……」


 小春に助け起こされた小雪が目を見開いている。どうやら最新式を通り越した、配備前の装備らしい。


「どおりで小雪ちゃんの張り手が利かないわけだね」


 小春の言葉にも納得だ。確かに2人が身につけている82式装甲服(まわし)よりも前衛的なシルエットをしている。流したのは、軍警察か開発企業か……いや、詮索は後だ。


「かまわんでごわす。相手が何であろうと、取組で応えるのがおいどんの相撲道」


「いいねぇ そうこなくっちゃ」


 男が装甲服《まわし》を起動させる。モスキート音のように甲高い音が、鼓膜に張り手してくる。


 おいどんも、まわしのスイッチを押しながら四股を踏み、A(アサルト) C(チャンコ) S(システム)を起動させた。


「四股名、雷電。いくでごわす」


「ここら一帯の野良相撲《ストリート・レスリング》を仕切ってる。賭場流華院《トバルカイン》だ。短い間だけど、覚えときな」


 野良相撲《ストリート・レスリング》ならば、土俵は不要だ。相撲を取る場所が土俵になるからだ。高まる緊張の隙を縫って、おいどんは小雪達に目配せした。


「そうだ、大関《オズ》ボーンの立ち合いを見たことがあるでごわすか?」


「いえ」


「ならば照覧あれ! かのブラック・鯖寿司《サバス》。その一端を披露するでごわす!」


 おいどんがまわしから取りだしたのは、力士のまわしにも使われるバイオ帆布《はんぷ》。光を飲み込むように漆黒だ。そしてこれは、シルクのように薄い特注品でもある。


「はっ! 布切れが何だってんだ!」


なめるなよ、昆布のまろやかさを。


「どすこいっ!」


 おいどんが腕を振るうと、バイオ帆布は波打つように賭場流華院《トバルカイン》へと襲いかかった。


「おせぇな……っ!?」


「掴んだでごわすな?」


 素手で引き裂こうとバイオ帆布を掴む賭場流華院《トバルカイン》。しかし、その余裕綽々な表情は一瞬で歪むことになった。


「くそっ……千切れねぇ! 何だこの頑丈さは!」


 バイオ帆布は破れず、そのままの勢いでトバルカインをみるみる巻き取ってしまう。そう、鯖寿司の白板昆布のように。


「こいつ、エネルギーを吸い取ってやがる!? まわしの出力が……」


 成功だ。おいどんの髷に搭載された測定機は、まわしの出力がおいどんのそれと同等になったことを示している。


「これで対等でごわす。さぁ、いくでごわすよ」


 おいどんは突進し、賭場流華院《トバルカイン》とがっぷり四つに持ち込んだ。もちろん、装備頼みの若造なぞに負けはしない。そのまま数メートル押し込んでみせる。


「クソっ、この野郎っ!!!」


 だが、賭場流華院《トバルカイン》も野良相撲の元締めを名乗るだけのことはある。踏みとどまると、おいどんを押し返し始めた。


「押されてる!」


「雷電さん!」


 押され続けた踵が、崩れた門の残骸に引っかかる。おいどんは門の残骸に踵を預け、踏ん張りを強めた。賭場流華院《トバルカイン》の押し込もうとする力の流れ、それが止まり、浮ついたその一瞬をおいどんは見逃さない。


「うっちゃりぃぃぃぃぃ!」


 うっちゃり1番、稽古は2番、3時のおやつは鯖寿司。投げ飛ばされた賭場流華院《トバルカイン》は空を飛び、最寄りのうっちゃりあの支店へと突っ込んでいった。


「うっちゃりあの親方にカウンセリングを受けるがいいでごわす」


 ごっつぁんです。手刀を切り、取組を締める。


「ゴワスー! ゴワスー!」


 おお、そういえば、彼もいたのでごわすな。お帰りいただこう。おいどんは彼のまわしを掴んで持ち上げた。


「おまえもでごわす! 相撲部屋《ジム》で痩せてくるでごわす!」


「ゴワーッ!?」


 こうしておいどんは、不躾な侵入者2名を追い返した。


 ……そういえば黒幕の正体を聞きそびれたな。後で捕まえに行こう。


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