襲撃者の正体
第2幕! 雷電のセーフハウスを襲っているのは何者なのか!?
ネオ両国シティーの外れ、寂れた居住エリアの一角。その旧式素材で舗装された道を、おいどんはすり足で駆け抜ける。
「たのもー!」
「たーのーもー!!」
廃相撲部屋に近づくにつれ、その声は大きくなってきた。併せて、何かを叩きつけるような音も聞こえ始める。
「たー のー もーっ!!!」
最後の角を曲がり、傾いた門をくぐった。すると、その正体が明らかになる。
バシンッ! バシンッ!
2人のドスコイトルーパーが玄関に張り手をしていたのだ。この挨拶のやり方、間違いない。力士に連なる者だ。
「ごっつぁんです。何か御用ですか?」
おいどんの声に気がついた2人は、振り返ると手刀を切った。よく練られた所作だ。昨日今日で身につく滑らかさではない。
「「ごっつぁんです!」」
なんと、2人とも女性か。その返事で確信できた。ヘルメットのせいで遠くからの声はくぐもって聞こえたし、全身を覆う装甲服のせいで、シルエットも力士にしか見えなかったのだ。
「まぁ、上がっていくでごわす。用件は中で伺うでごわす」
おいどんは、髷アンテナからの電波で玄関を解錠。ガラガラと引き戸を開け、2人を招き入れる。
「「お邪魔します」」
2人はまるで双子のように、同じ動きで玄関をくぐった。
◇◇◇
「何もないところでごわすが、まぁ腰掛けるといいでごわす」
「「ありがとうございます」」
寂れた廃相撲部屋の中、稽古部屋の脇にある一段上がった場所。畳の間においどん達は腰掛けた。
「わぁ〜これが本物の相撲部屋の光景なんですね!」
「こら、ジロジロ見ないの」
呑気に見渡す片方を、もう片方が嗜める。しかし、ヘルメットの目線は2人とも相撲部屋を観察していた。興味津々な彼女達とは裏腹に、寂れた土俵は虚しく中央に鎮座する。もはや稽古をする者はいない。誰がための土俵なのか。
「ははは。好きなだけ見るといいでごわす。目くじらを立てるような奴も、もういないでごわす」
むしろ、興味を持ってくれてありがたいくらいだ。兄弟子に弟弟子、そして親方。皆、去ってしまった。ここに残るは、雷電ただ独りなのだから。
「それで、お二人は何者でごわすか?」
虚しいことを考えても仕方ない。膝を叩いて意識を切り替え、畳の上で正座する2人に向かい合う。
「自己紹介がまだでしたね。失礼しました」
しっかりしている方のドスコイトルーパーがそう言うと、ようやく2人はヘルメットを脱いだ。暑かったのだろう。ふはぁ! と息を吐き、湿気った髪があらわになった。
「小雪と申します。階級は三段目です」
そう名乗った少女は、暗い茶髪に青いメッシュカラーの入ったショートヘアをしている。
「私は小春です。階級は序二段。よろしくです!」
少し砕けた雰囲気の少女。桃色の髪をポニーテールでまとめている。どうせなら力士らしく髷を結って欲しいものだが、階級が階級だ。きっと許されないのだろう。
「若いでごわすな。とはいえ、番付《ID》が付与されるとは……優秀でごわす」
三段目に序二段。どちらもドスコイトルーパー式の正式な階級だ。
「いえ、そんな……私たちは跳ねっ返りです」
おいどんがそう言うと、小雪は焦ったように手を振って否定する。その反応は、謙虚さの表れ……にしては含むところが感じられた。
「と、言うと?」
「管轄だ、手続きだーって。軍警察は動きが遅いんです。それで、我慢できなくて……」
今度は小春が身を乗り出して訴えてきた。その気持ちはよく分かる。管轄だの根回しだの、組織にはしがらみが多すぎるのだ。特に、政治が絡むとなると……
「それで除隊を考えていたのですが、私達を見かねた大関ボーンからあなたを紹介されたのです」
「おぉ、そうでごわしたか」
小雪の口から出た名前に、思わず笑みがこぼれる。大関ボーン。ブラック・鯖寿司で名高い男。ネオ武家屋敷で指揮をしていた、大銀杏アンテナの彼である。
「はい! こちら、大関ボーンからのお手紙です」
小春が封筒を取りだし、こちらに差し出してきた。髷アンテナで一言言ってくれればいいものを。しかし、手紙とは古風な。いかにもあいつらしい。
「少し読ませてもらうでごわす」
封を切り、便箋を取り出す。内容に軽く目を通していくと、事情はもっと複雑なようだった。彼女達はこれを知っているのだろうか?
しかし、それを確かめることはできなかった。
「ぬっ!」
「ひゃ!?」
「何ですかこの音!?」
外からバキバキと木材がへし折れる音、続いて何かの地響きがしてきたのだ。
「おいどんが見てくるでごわす!」
「私も行きます!」
「待って私も〜!」
急ぎ立ち上がると、2人も後に続いた。
◇◇◇
玄関をくぐると、先程まであったはずの寂れた門が崩れている。木製とはいえ、相撲部屋らしく重厚な造りだったのに、それを壊すとは……
「これはいったい……」
小雪も驚いた様子だ。
「あれが、原因でごわすな」
「ゴワッ!?ゴワ〜、ゴワ〜ス!!!」
おいどんの目線の先には、門を壊したであろう、力士と呼び難い贅肉の塊が起き上がれずにもがいていた。
贅肉の塊……いったい何力士なのか!?




