討ち取れ、悪代官!
CMも明け、雷電と悪代官の戦闘再開です!
「くっ、卑怯でごわす」
「何を今更。力士の言葉を借りるなら……猫だまし、猫だまされるは、世の常よ」
開き直った悪代官の俳句と高笑いが畳の敷き詰められた部屋に響き渡る。だが、こんなところで負けるわけにはいかない。力いっぱい四股を踏む。その鈍くも力強い響きが、高笑いの残響を打ち払った。
「貴様の悪行もここまでよ。おとなしくお綱を頂戴するでごわす」
おいどんは中腰の構えで悪代官に対峙する。しかし奴は不敵に笑いながら口を開いた。
「断る、と言ったらどうするね?」
「笑止、相撲で決着をつけるのみでごわす!」
おいどんは、まわしに付けられたスイッチのひとつを押した。まわしガジェット、A C Sを起動させたのだ。低い唸り声のような駆動音と共に、非常用明太子が循環。良質なタンパク質とカプサイシンが力士の肉体を活性化させる。
「おいどんの四股名は雷電っ! さぁ、いざ尋常に立ち会えいっ!」
ACSにより熱を帯びる体と心。気合の入った叫びが、こだました。
「ふははっ! どうやって相撲を取るつもりだ? ここに土俵は無いぞ」
「土俵が無ければ、作ればいいのでごわす!」
おいどんはまわしに手を突っ込み、秘密兵器を取りだす。
「なるほど……DSKIのポケット土俵か」
「そう、シーズン保証付きの正規品でごわす」
スイッチを押してから、それを放り投げる。すると、ポケット土俵はみるみる膨らんで立派な土俵を展開してみせた。生活費を切り詰めて買った甲斐があるというものだ。
「さぁ、きさんも力士の端くれであろう。まわしを付けるでごわす」
おいどんは土俵へと歩み寄り、悪代官を指さす。だが、奴の不敵な笑みは崩れない。いや、一層いやらしさを増している。
「ふはは、断るっ!」
悪代官の声と共に天井の板がパカリと開く。そこから現れたのは謎めいた装置。ピカリと光ったかと思えば、青白い雷光を放ちながらビームが降り注いだ。
「ごわす!?」
「ビームの檻だ。これで土俵には上がれまい!」
これでは進むことも引くこともできない。この雷電、新たなる不覚っ! 粘り腰で天井裏を攻め続けていれば、こんな小細工なんぞ看破できたのに。そう思い至り、悔しさがにじむ。
「しかし、天然の力士がまだ残っていたとはなぁ」
悪代官は高笑いをしている。その近くでは、臼に残るできたての餅がほくほくと湯気をあげているのが見える。
「今は養殖の時代だ。この、脱法ちゃんこで育つ養殖力士のなぁ!」
ビームの閃光で気が付かなかったが、いつの間にか悪代官は土俵の中心にいた。そして奴の前には鍋が置かれている。無理やり食欲をそそらせるケミカルな香り。あれがそうなのか。
「見ろ! 食えば食うほど、肉体が逞しく育つのだ!」
悪代官は立ったまま、脱法ちゃんこをかきこむように貪りはじめた。その直後、奴の身体は痙攣するように震え、軋むような音をあげながら膨らみ始めたのだ。その様子は、着物の上からでもはっきりと見て取れた。
「どうだ! お前ら天然がトロトロと年月をかけてやっとの思いで育てる肉体。それにたった1食で追いつけるのだっ!」
悪代官はちゃんこを口にしながらも、ボディービルダーのようなポーズを取ってみせる。その瞬間肉体の膨張に耐えきれなくなった着物がはじけ飛んだ。着物の下から現れたのは、まわし一丁で輝く、見事なまでのアンコ型な肉体であった。
「そのような粗製の肉体に何の価値があるでごわすか!」
とはいえ、美味そうに脱法ちゃんこを貪る姿に仄かな羨ましさを覚えた。それと同時に、おいどんの中に掻き立てられた食欲とは違う電流が走る。これは……そう、閃きの類だ。
「……」
「ふはは! 天然の肉体を越えるその様を、指をくわえて見ているがいい!」
奴は何か言ってるが、それは些事だ。おいどんが考えるべきは、あの餅のことだけ。……いける。あの餅ならば、射程圏内だ。
「スゥゥゥゥゥゥッ!!!」
思い切り息を吸う。もっと、もっと。すべてを吸い込むくらいに強く!
「お? この期におよんで悪あがきかぁ? いいぞいいぞ〜」
まるで競争するかのように脱法ちゃんこをかきこむ速度をあげる悪代官。それに構わず息を吸い続けていると、臼の餅が微かに揺れた。
「な、何ぃ!?」
そして、とうとう餅が臼を飛び出しおいどんにむかって吸い寄せられる。秘技でも奥義でもない。純粋な息の吸い込み。しかして餅は動いた。これが力士の技の妙だ。
「餅を……吸い寄せただと!?」
「あち、あち!」
キャッチした餅は熱々だ。それに堪えながらも、次の策のため動き出した。
「どすこいっ!」
おいどんは餅をレーザーに近づける。すると餅はチリチリと焼け、表面がぷくりと膨らみだす。
「ふははは、何をするかと思えば最後の晩餐か。味わって食うがいい。なんなら合成きな粉くらいはくれてやるぞ」
油断したな。おいどんはすかさずまわしに手を入れ、醤油瓶を取りだす。そして、今まさに焼けている餅にドバドバと醤油をかけた。
ジュゥゥゥゥッ!!!
醤油の焦げる小気味の良い音とともに、餅の膨らんだ部分が爆ぜた。そして、尋常ではない量の煙が立ちこめる。部屋全体が煙で満たされるまで数秒とかからなかっただろう。
「むおおっ!? 見えん!!」
「行くでごわす!」
おいどんは右手で餅を抱えながら、左手で畳に手をかける。床に潜るために。あのビーム、床下までは届いていないのが見て取れたのだ。そして見立ては正しく、床下を通り抜けることができた。おいどんは混乱する悪代官の背後を静かに取る。次の一撃のために。
「貴様ッ!」
背後の床を、頭から突き破って飛び出すおいどん。そして、驚いて振り向く悪代官。だがもう遅い。おいどんの餅は、既に攻撃態勢にある。まわしから取りだしたからすみを餅で包み、更に海苔で挟んだのだ。
「どすこぉいっ!」
おいどんは手をつき出し、悪代官の口に、からすみ磯辺餅を突っ込んだ。
「爆ぜろ! からすみっ!」
その言葉と共に、からすみ磯辺餅は奴の口の中で小さな連鎖爆発を起こした。
「うごあっ!? パチパチするぅ!! これがボラの生命力なのかぁっ!!?」
口を抑えながらもだえる悪代官。バランスを崩した今こそが好機だ。
「さぁ! 観念して相撲を取るでごわす!」
「く、くそっ……!」
おいどんにまわしを掴まれ、土俵の中心へと連れてゆかれる悪代官。やはりだな。
「なぜだ!? 体格も力も、天然力士を上回っているはずだっ!」
腕を振り回し、股を割って踏みとどまろうと抵抗する悪代官。だが、腰が入っていない。体の使い方がなってないのだ。いかに力を持とうとも、使いこなせなければ無いも同然だ。
「鍛錬、努力、経験こそ、力を身につける近道でごわす!」
おいどんは腰を落とし丹田に力を入れた。重心を安定させ、悪代官の懐へと入り込む。後は体全体を使って押してやれば良い。
「そ、そんな……ぐわぁーーっ!?」
たやすく寄り切られる悪代官。奴は土俵の外へ転がり、力なく倒れ伏した。
「ごっ! つぁん! です!」
おいどんは手刀を切る。これで脱法ちゃんこの流通ルートをひとつ潰した。おいどんの勝利でごわす。
Bパートも終了、今回のCパートで一段落です




