押し出せ! 地上げカンパニー
長屋アパートメントの外に出る頃には、地響きが更に大きくなっていた。
「立ち退け立ち退けぇ!! ここは百本木ヒルズの第14駐車場になるのだ!!」
地上げカンパニーの工事車両が土煙を上げ、群れをなして迫ってくる。ざっと見たところ数十両はいるだろうか。まるでサバンナに住む量産型ヌーの大移動だ。
「このままでは、拙者のニートライフが!」
少し遅れて女浪人もやって来た。見れば笠を被っている。まさかそれを着けていて遅れたのか? なんて図太い奴だ。
「お前も更地にしてやろうか!」
先頭のダンプカーから、安全帽を被った男が身を乗り出して叫ぶ。ダンプカーはそのまま勢いよく突っ込んで来るので、おいどんはACSを起動し、四股を踏んで待ち構えた。
RIKI-SHIFTデバイスが反応し、SU-MOTIONがおいどんの手足をなめらかに動かす。流水のようなしなやかさが、ダンプのエネルギーを横へと逃がした。
「どすこいっ!」
「安全第一ぃぃぃぃっ!?」
おいどんのいなしでダンプカーは横転し、盛大に爆発する。理由は……分からない。
「よくも壇府郎を!」
続けてショベルカーが突っ込んで来た。キャタピラ特有の音を鳴らしつつ、アームを振り回す。やりづらい相手だ。
「くっ!」
おいどんが数歩下がると、おいどんの横を女浪人が駆け抜けて行った。一陣の風のように。
「ニトロ居合斬りっ!」
掛け声と共に女浪人の腰にある鞘が火を吹き、刀が勢いよく射出される。マズルフラッシュか!?
「ご安全にーッ!?」
その勢いのまま繰り出されたニート喪女浪人の一太刀。撫でるような一閃に、ショベルカーのショベルはいとも容易く切断される。その鮮やかな業前に、おいどんの記憶が揺さぶられた。
「思い出したでごわす。ニトロ抜刀術。その継承者と言えばただ一人、仁虎井メイ」
「ふへへっ、それほどでもないでござるよ」
再び照れながら頭を搔く女浪人。なるほど、本人で相違ないか。家賃滞納を見逃してでも手元に置くのも納得だ。グランマの慧眼よ。
「その調子だよ、ニト浪人。きっちり長屋を守るのさね」
「ババァ! 夕飯は奮発するでござるよ!」
ニト浪人。そういう名で呼ばれているのか。
「しかし、働かないのではなかったのでごわすか」
「これは、自宅警備でござる!」
何と勝手な無職だ。だが、こんな心強い無職もそうおらんだろう。おいどんとニト浪人、2人で長屋の前に並び立つ。
「攻強開発推進機甲をなめるな! 合体っ!」
叫び声と共に、重機が合体してゆく。一つの塊になったかと思うと、巨大ブルドーザーへと変貌した。しかし、一部欠けているような……
「くそ、2台足らん!」
「構わん突っ込め!」
どうも先程倒した2両分が足らぬようだ。しかし巨大ブルドーザーは、そんなことお構いなしに長屋ごと押しつぶそうと突進してくる。おいどんとニト浪人を押しつぶすには十分な質量を持っていた。
「おおおっ! 止められないでごわすっ!」
いなすために排土板に組み付いたが、勢いを止められず押されてしまう。
「太刀の通る場所が見えぬでござる!」
ニト浪人も攻めあぐねている。敵が大きすぎるのだ。腰を落として踏ん張っていると、小雪達もやって来た。
「雷電さん! 右に3歩ずれてください!」
小雪に従い、身体をずらす。すると、手応えが変わるのが分かった。
「これは!」
原理は分からぬが、力の伝わり方が違う。僅かにブルドーザーの動きが遅くなるのが分かった。小雪は見抜いているのだ。ブルドーザーの力の流れを、その集約ポイントを。
「小春ちゃん!」
「分かるよ、ここだね!」
小春も加勢してブレードに組み付く。すると、ブルドーザーが更に遅くなった。まさか、小春も分かるのか!?
「速度が落ちたぞ! 工期が遅れるっ! アクセル全開ぃ!!!」
巨大ブルドーザーが唸りを上げる。しかしそれに伴い、行き場を失った力が蓄積していくのが手を通して伝わってくる。合体した接合部が浮かび上がり、隙間が生まれるのが見えた。
「見えたでござる!」
その隙間をニトロ抜刀術で穿つ。ニト浪人の一撃で、巨大ブルドーザーはあちこちから煙を噴き出し始めた。
「暴走!? 止まれないっ!? クソーッ覚えてろ!」
暴走したブルドーザーは、分裂しながら明後日の方向に走り去ってゆく。長屋アパートメントは無傷だ。おいどん達の勝利でごわす。
「……腕が立つのは本当でごわすな」
「そうでござろうとも」
おいどんは髷アンテナを操作する。銀行口座にアクセスし、虎の子を引っ張り出す。
「積立金を解約、少年の用心棒として雇うでごわす」
「……へ?」
呆然とするニト浪人に構わず、手続きを進める。忘れてはならない。ここに来たのは用心棒を雇うためだ。それも凄腕の。
「入金を確認したよ。契約成立さね」
「拙者の引きこもりライフがーっ!?」




