長屋アパートメントの用心棒?
新キャラ登場!
「嫌でござる! 嫌でござるっ!」
広告を片手に訪れた長屋アパートメント。その一室を訪れた結果、眼前の女浪人は暴れている。なぜこのようなことになったのか。
「ぜーったいに働かないでござる!」
玄関先に寝そべり、無駄にキレのある動きでジタバタする様は、まるで水揚げされたイワシのようであった。
「この人が……凄腕用心棒なんですか?」
イワシを見下ろす秋良。まぁそう言いたい気持ちは分かる。おいどんも、これを用心棒と認識することを脳が突っ張って拒んでいるのだから。
「凄い、子供のころ塩まき屋ファミリーを買ってもらえなくて暴れた小雪ちゃんよりも激しい動きしてるよ」
「小春ちゃん?」
「んんんっ!」
余計なことを言い出した小春を、小雪が肘で小突く。あれか、あかりの灯る大きな相撲部屋でお馴染みの大人気玩具か。小雪も小さい頃はやんちゃだったのだな。今の落ち着いた姿からは想像できん。
「そもそも何でござるか! この広告は!」
女浪人はイワシであることを止めた。起き上がって、おいどんの手から広告をひったくる。おや、彼女が出した広告ではないのか。では一体誰が……
「アタシが出したのさね」
振り向くと同時に隣室の扉が開かれ、和服を着た老婆が現れた。六眼式のゴーグルデバイスを着用しており、目を見ることはできない。だが口元が微笑んでおり、敵ではないことが伝わってきた。
「ババァ! 何を勝手なことをしてるでござるか!」
女浪人は床に寝転がったまま老婆を睨みつける。だが老婆は動じず、それどころか傘立てに入っていた箒を手に取って、ゴルフの要領で振りかぶった。
「嫌なら滞納してる家賃払いなっ!」
「あーれぇーっ!?」
老婆は箒で勢いよく女浪人を掃き、玄関先から部屋の中へと転がしてしまった。あの女浪人を、まるで木の葉のように軽々とだ。どうやら、この老婆もただ者ではない。
「アタシはここの大家。電子演算器・グランマだよ。まぁ上がりなさいな」
こうして、おいどん達は長屋アパートメントに上がることになった。
◇◇◇
通されたのは古めかしいフローリングタイプのリビングだった。だがリビング続きで5畳ほどの和室とも繋がっており広々とした印象を受ける。やはり畳のある部屋は落ち着くな。
「超電磁コタツに合成みかんもあるよ。好きに使うといいさね」
「やったー!」「わー」
グランマの言葉を聞き、小春と秋良は一目散にコタツへと駆け込んでいた。小雪ものそのそとついて行く。これで、リビングに残るのは大人だけとなった。
「さて、若い子は抜きにして、仕事の話をしようじゃないか」
「そうでごわすな」
グランマが手のひらでテーブルの方を指してくれたので、椅子を一脚借りて腰掛ける。グランマも向かいの席に腰掛けた。
「拙者はまだ若いでござるから……」
コタツに向かって一切の足音を立てずに行こうとする女浪人。だが、無慈悲にもグランマに肩をむんずと掴まれる。
「あんたは20後半だろ」
強制的にグランマの隣へと座らされる女浪人。これでやっと会話になるな。そう思っているとグランマの方から話を切り出してきた。
「それで、用心棒としてあの少年の護衛を頼みたいのかい?」
「お見通しでごわすか」
この短時間で秋良の素性を調べたのか? 元の仕事はフィクサーかブローカーか、いずれにせよグランマは底が知れない相手のようだ。
「最近アケボノの連中が妙な動きをしてたからね、覗いていたのさね。多少の察しはつくよ」
なるほど。東グループとは関係が良くないという表明か。それなら協力に積極的なのも頷ける。ブラフでなければの話だが。
「ただの弁当じゃないんだろう?」
そうグランマは尋ねる。声色からして、探りというよりも単なる興味だろう。いささか早い気はするが、彼女らを信じ、おいどんから歩み寄ることにした。
「食ってから1日経つでごわすが、みなぎる活力は未だ残るのでごわす」
おいどんは手を握っては開いて確かめる。まるで相撲力が底上げされたかのような感覚が残り続けているのだ。
「単に美味いだけのちゃんことは一線を画すでごわす。もしこれが脱法ちゃんこに使われれば……」
「世は更に乱れる、でござるか」
おいどんは頷いて応える。この力が養殖力士に行き渡れば、軍警察ですら負ける可能性がある。何としても秋良は守らなければならない。
「それで、強いのか?」
おいどんは女浪人を見た。ボサボサの髪、ヨレヨレの着流し。だが刀だけはしっかりと手入れされている。機械仕掛けが施された分厚い鞘は、光沢を放っていた。
「強いよ。知る限り、ネオ両国の剣士の中で二番目に腕が立つ」
「腕は無いでござるがね」
彼女の腕を見ると、確かに義手だ。しかも両手。先程、あれだけバタバタしていたのに違和感が無かったのは見事な技術だと感心する。無駄な技術ではあるが……
「一番は、やはり奴でごわすか?」
「そうさね。ムサシスラッシャー、東の用心棒」
グランマは笑いながらその名を口にする。さすがにネオ両国シティーの生ける伝説より強いとは言えなかったか。とはいえ、比較するほど腕は買っている……と。
「いやぁ、それほどでも」
にへらと顔を崩し、照れながら頭を搔く女浪人。そんな会話をしていると、長屋が揺れた。グランマの表情が険しくなるのが分かった。
「また来たね」
「何がでごわすか」
おいどんの質問に答えたのは、外から響いてくる拡声器の声と、機械の駆動音達だった。
「オラオラ! 解体すっぞ!!」
窓の外を見ると、重機の群れが迫っていた。地上げカンパニーだ。
塩まき屋ファミリーは、女の子達の憧れの的なのでごわす。




