#1 のぞかれた情事
最初に零を見たのは、3月下旬。
春休みに入ってすぐ、桜のつぼみが膨らんだ頃だった。
入学式の手伝いで登校していた僕は、一仕事を終え生徒会室に戻った。
「弦、おつかれさま」
副会長の如月が微笑んだ。
「もう夕方か……。うちの教師たちは、生徒会を便利屋だと勘違いしているよな」
「生徒会長は大変ね、頼られてばかりで」
帰り支度をしていると、背後から如月が抱きついてきた。
「ねぇ、弦。しようよ」
「……またか」
ブレザーの中に、如月の白い手が滑り込んできた。
湿った空気の中で、僕は如月の誘いに乗った。
別に、断る理由がなかったからだ。
生徒会室にはソファもあるのに、如月は冷たく固い机に背中を預けることを好んだ。
いつものことだった。
如月の甘く掠れた声が、生徒会室に滲む。
「おい、少しは声を抑えろよ」
「いいじゃん、誰も来ないんだから」
ミス聖音高校、その才女の本性を知ったら、どれだけの男子生徒ががっかりするか。
――いや、むしろ喜んでファンが増えるだけだな。
「ねぇ、もっと……!」
如月の喘ぎはさらに熱っぽくなる。
意味のない熱。
だけど、そんな熱でも、ないよりはマシだった。
こんなのは、互いの空虚を埋めるためだけの惰性だ。
母が消えたあの日から、僕はどこか壊れていた。
――そのときだ。
わずかな人の気配に、視線を上げた。
「――っ!」
たった3センチのドアの隙間。
小さく息を呑む音。
それが、零とはじめて会った瞬間だった。
僕と合った目を、零は逸らさなかった。
――綺麗だ。
そう思った。
この学園には似つかわしくない。
神大寺の人間とも、僕の周囲にいる人間とも違う。
零はそのまま、静かに引き返した。
金色の髪が、キラリと夕日に当たって光った。
動きの止まった僕に、如月が何か不満のようなことを言った気もするが、覚えていない。
――欲しい。
ただ、そんな気持ちだけが僕の心を染めていった。
あの目を、泣かせたい。乱したい。
僕だけを映すように、この腕に閉じ込めてしまいたい。
――僕のものにする。
それは、これから始まる、底なしの執着への予感だった。
自分の腕の中で喘いでいる如月の目が、さっき見た姿と重なった。
背筋が焼けるような快感が走った。
「あ、あぁ、もう、いっ――――!」
「っ……!」
まっすぐな瞳と金色の髪を想って、僕もすぐに果ててしまった。
その衝動に、自分で驚く。
予感なんかで終わらせない。
必ず、手に入れる――。




