木漏れ日の家
そして、魔獣事変と呼ばれる戦いから一年後。
連邦北部に位置する港町、ノシュキル。
その外れにある山中の屋敷には、魔獣王とその仲間達が住んでいた。
「皆さ~ん、ご飯できましたよ」
暖かな木漏れ日の差し込む春の昼下がり。
どんな家庭でもあるありふれた言葉が屋敷に響く。
「お、流石ベル! 待ってました!」
「ちょっとビーディー、ベルだけじゃなくて私も一緒に作ったんだけど?」
リンネがそう言ってみてもどこ吹く風。
ビーディーの興味はだれが作ったか、ではなく何を作ったかにあった。
「へへ、わかってるって。それより今日のメニューはなんだ? スープか?」
「はい、鹿肉のスープです! リンネさんが作ってくれたんですよ」
「あー、鹿ってあいつがこの前狩ってきたやつか」
「そうそう。あの子がいたら食料には困らないわね。ところで、レオン達はまだ?」
「ああ。でもそろそろ……お、噂をすりゃ帰ってきたぜ」
ビーディーが窓から空を見上げると、魔龍の黒き巨体が屋敷の庭に影を落とす。
そして暴風をまき散らし着陸した龍の背中からは二人の少女と、一人の男が降り立った。
男は少女らに何やら声をかけた後、魔龍へと向き直る。
「ドラクルありがとう。また頼むよ」
「ああ。またいつでも呼ぶといい。我が主よ」
魔龍は深く首を垂れ忠誠を示すと、その大翼を拡げ大空へと飛び去って行った。
「ただいまー!」
そして、そんな龍を尻目に二人の少女は屋敷へと足を踏み入れる。
「あ、ご飯できてる」
出来立ての昼食を目ざとく発見したのは、灰色の髪を持つ大人びた体つきの少女ララ。
彼女は獲物を見つけた獣のようにジッと食卓を見つめる。
「ふふ、もう待ちきれないって顔してますね」
「だな。ほんとガキらしい顔してるわ……これで魔獣姫なんて呼ばれてんだからわかんねぇよな」
なんてベル達が他愛もない話をしていると、男も遅れて部屋に入ってきた。
当然、その赤い眼はすぐに食卓へと向けられる。
「ただいま……お、鹿肉のスープか。なんか懐かしいな」
「おかえり、レオン。ま、そういうこと。ほら、あんた達早く座りなさい……メルもよ」
メルと呼ばれた少女はにこやかに笑って頷く。
その表情に、以前のような凶暴性はもうなかった。
「うん。ありがとうリンネ。アタシもうお腹ペコペコだよ~」
「そうだな。シタンさん、容赦なく俺たち使ってくるんだもんな。俺もお腹空いたよ」
そんなことをボヤキつつも、レオンはまんざらでもないような顔で食卓に着いた。
「いただきます」誰に言うわけでも、誰から言うわけでもなく呟いて、レオン達はスプーンで汁を掬う。
塩味が少し濃い目のスープはやはり美味しかった。
これにて「落ちこぼれの魔獣狩り」は終了です。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。




