ドラゴン狩りの真相
夕方、学園に戻ると倉庫小屋のポストに封筒が突き刺さっていた。
中身を取り出してみると、それは今度の魔法試験で相手をする組み合わせが書いてあった。
「おっ! やったね。あたいは一位のクソ野郎と戦えるじゃん!」
あのアル二世をクソ野郎と来たか。同意はするけど、口には出さないでおこう。
前回の剣術試験では最下位のレンカとぶつけられたけど、本来ならシエラはそういうトップ10で戦う子だから、一位とぶつかることもあるよな。
「えーっと、レンカの方は……はぁ!?」
「ど、どうしたんですか先生!?」
冗談だろ? いや、本気だったとしたら余計タチが悪い。
明確な悪意を持って、この対戦表を作ったとしか考えられない。
「リコってさっきのフード被ってた子だろ!? しかも階級二位だって!?」
「……へ?」
あ、レンカがショックのあまりフリーズした。
俺だって見間違えだと思ったさ。
「なぁ、シエラ――って何その顔?」
シエラに対戦表の決め方を聞こうとしたら、酷く青ざめた顔になっていた。
「いや、あたいリコに魔法だけで勝てる気がしなくてさ。死ぬなよ……レンカ」
「ちょっと待て! 何その不穏な発言!?」
「六属性全てのS級魔法を何の触媒も無しに発動させるやつが、伝説の触媒持って魔法使うんだよ。魔法の力だけで言ったら、階級一位のミリアルドより強い。というかあたいは入学時の実力試験で普通に完敗だった」
実質最強の魔法使い。
そんな相手に魔法を一切使えないレンカが挑まなければならない。
余計にこの対戦組み合わせが狂っているとしか思えない。
まるで、何か意図があるような……。
と、考え事をしようと思ったら、ゴルドンの大声が思考を遮断した。
「シエラァァァァァ! 歯ぁ食いしばれ! この大馬鹿者があああああああ!」
「ぐはぁっ!?」
いつもより多い三回転でシエラが吹っ飛んでいく。
せっかく無傷でクエストから帰ってきたのに、師匠が怪我させてどうする……。
「戦う前から勝てる気がしないだと!? てめぇ! いつからそんな軟弱な筋肉になっちまった!?」
「で、でもよ、ゴルドンの旦那! あたいの魔法をリコは弾くんだよ! 魔法の防御壁が硬すぎるんだ!」
「この大馬鹿者がぁぁぁぁ!」
「ぐはぁっ!?」
うわー……今度は四回転だ。
「魔法の盾で防がれるのなら、それよりも強い魔法をぶつければ良い! それも出来ぬのなら、盾の内側からぶつければ良い! シエラ! てめえは守るべき民が窮地に陥った時、敵に勝てないからと逃げ出す腰抜けか!?」
「違います!」
「だったら証明してみせい! まずはそのミリなんとかを倒し、リコを倒すのだ!」
「はい! ゴルドンの旦那! 筋肉を鍛え! 魔力を上げます!」
「良く言ったシエラ!」
俺とレンカはガシッと手を握り合ったゴルドン師弟のノリに、完全に置いてけぼりにされた。
でも、今の二人のやりとりに攻略のヒントがあったな。
盾の内側からの攻撃、つまり零距離で放つ魔法か。今のレンカならきっとやれる。
となれば、後は威力の問題か。
「なぁ、シエラ。魔物の血石はどこで加工して貰えるんだ?」
「食堂の隣の建物っす。煙突が目印っすね。すみません、宗一の旦那、あたいこれから筋肉つけてきますので、ちょっとついていけないっす」
「ありがとう。気にするな。レンカも固まったままだし、魔法具作るのにも時間かかるだろうから、待っててなんて言えないさ」
「本当にすみませんっ! 明日必ずまた来ます! そん時はよろしくお願いします!」
「う、うん、待ってるよ」
本当に暑苦しいなぁ。良い子なのは分かるんだけどね。
さてと、そろそろレンカを現実に引き戻さないとな。
「おーい、レンカー。起きろー」
「あっ、す、すみません、気が動転しちゃいました……」
「とりあえず、せっかく血石を貰ったんだし、早速道具を作って貰おうぜ」
「はい! 指輪が良いです! 先生とおそろいで!」
何故か凄く期待されている目で見られている。
そう言えば、俺も魔法を使ってお手本見せないといけないか。
となると、確かに同じ指輪にした方がシエラの訓練にも使いやすい。
「そうだな。おそろいにして貰うか」
「ありがとうございます!」
何でこんな感謝されているのか分からないけど、やる気を出してくれるのなら良いか。
そうして俺はレンカに手を引っ張られるように、煙突のある建物へと向かった。
煙突のある建物の中には赤く燃える炉にハンマーや金床がある。
いかにも鍛冶屋って感じの施設だ。
「お、レンカに宗一先生か。良く来たな」
がたいの良い鍛冶屋のオッサンが俺達に気付き、声をかけてきた。
あれ? 何でこのオッサン俺達の名前知ってるんだろ?
「私初めて来たと思うんですけど、どこかでお会いしましたか?」
「何言ってやがる? レンカと言えば今学園中で噂になってるぜ」
「え!? なんでですか!? 私何か悪いことしましたっけ!?」
「ガハハ。違う違う。なんたって階級百位の最下位が階級五位のシエラに勝ったあげく、一緒に訓練してんだ。みんなそれに驚いてるんだよ。七英雄の子孫の一人と一緒にいるからって妬みも含めて色々聞くって話しさ。あんたも含めてな宗一先生」
なるほど。あの大番狂わせが色々と話題になってるのか。倉庫小屋のままで本当に良かったかもな。
何かレンカが緊張してがたがた震えてるし。
それにしても、七英雄ってそんな有名なのか? シエラも知ってたくらいだしな。
「七英雄ってそんな有名なんですか?」
「魔王を封じた勇者達だよ。七英雄と戦王の物語、こっちの世界の人間なら小さい頃から聞かされている有名な話しさ。シエラから聞いていないのか? あの子は七英雄の子孫で、大槌も魔王を封じた伝説の武器なんだがな」
「シエラってそんな大物だったの!? あの筋肉娘が!?」
「というか、今の階級七位までは全て七英雄の子孫だ。血は争えないってやつかねぇ? まぁ、おかげで伝説の武器を、この手で手入れ出来るってのはありがたいがね。後は戦王様の子孫が現れたって噂もあるし、これで揃うと思うと感慨深いぜ」
そうなると、余計に意味が分からない。
何故、レンカをそんな奴らにぶつけた?
やっぱり、レンカを退学させようって嫌がらせか?
王様や巫女が? 何のために?
その戦王の子孫ってのを入れたいからか?
「なら、なんですぐにこの学園に入れないんだ?」
「あぁ、この学園はな百人までしか、蘇りの加護を与えられないんだよ。今ちょうど百人だからさ、誰か止めないと、新しい人が入って、訓練やクエストで死なれると困るだろ? それが戦王様の子孫だったら目も当てられない」
おっさんが言うには石碑に刻まれた百人は、神の加護によって死んでも魂が守られて、身体を魔法で治療すれば生き返る加護が与えられるそうだ。逆に言えば百一人以上は名前が刻めず、死なれたら普通に死ぬ。
あぁ、だから、一番弱いレンカを退学に追い込みたいのか。
その代わりに伝説の子孫を入れれば、一気に魔王討伐へと近づく。
そういう魂胆か。ようやく納得がいった。
んで、王様達はまだレンカの強さに疑問を持っている。
だから、学年二位をぶつけてくるようなことをするのか。
「私は負けません。先生と一緒ですから。それに、人形使いにステータスは関係ないです」
レンカも随分と強気になったもんだ。
前回はシエラにそれを言った後に、大慌てしてたのに。
「魔法は魔力しか関係無い」
「へ?」
「ねぇ、君との試合面倒臭いから、棄権してくれない? 君と戦うのだるい」
気だるそうな声がした方に振り向くと、黒いフードを被った子が立っていた。
いきなり現れたリコに、俺もレンカも思わず飛び退いた。
口元しか見えないから何考えているか分からなくて、少し怖い。
「君は私に勝てない……。私も君相手に手加減はだるい」
「そんなことやってみないと分かりません」
「……む」
レンカの堂々とした態度に、リコが不満そうに口を尖らせた。
「私はもう落ちこぼレンカじゃありません。どんな人にも負けるつもりはありません。例えリコちゃんが七英雄の子孫でも、私の憧れの人はもっと近くにいます」
「あー……面倒臭いなぁ……ドラゴン狩りしただけムダになった……折れてないじゃん」
「え?」
「あー……面倒臭い。ぷちっと潰す」
そう言ったリコは足下に魔法陣を発動させると、姿を消した。また何処かへ転移したのだろうか。
でも、リコの一言で俺の疑惑は確信に変わった。
ドラゴン狩りをするだけ無駄になった。折れてない。
つまり、アルフレッドとエルマは王様とぐるになって、俺達を潰そうって魂胆か。
「レンカ」
「何ですか先生?」
「俺はレンカが勝つって信じてる。レンカが勝てるように戦略と戦術面でサポートを全力でするから、レンカは前を向いていれば良い。困った事があったらすぐ俺に言ってくれ」
「はいっ!」
勝って王様とアルフレッドの鼻っ柱をへし折ってやる。
「オッサン、この血石で魔法の道具を作ってくれ!」
俺は血石のたっぷり入った袋をカウンターの上にドンと乗せた。
「いいぜ。ちょっと色つけてやるよ。面白いもん見せて貰えそうだしな。大サービスだ、人形使いの師弟!」




